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鬼畜ま!19

十九話












「そういえば、シィル。この世界で戦ってみてどうだったんだ?」
「はい。基本的にあちらで使えた魔法であればこっちの世界でも問題なく使えるようです。セルさんが使用されていたような魔封印結界などは異空間に追放するという性質上使えるかどうかはもっと調べてみなければわかりませんが、戦闘には問題なかったです」


 千草たちにまんまと逃げられた憂さをシィルとあてなでとりあえず晴らし終わって帰る途中のランスは、そういってこの世界において初めて魔法戦闘を行ったシィルに具合を尋ねた。

 かつての世界においてもダンジョンによっては使用できる道具が制限されていたり、回復魔法が使えなかったり、マッピングがしづらかったりといった多種多様の障害が冒険者を襲ってくることがあったため、ランスたちは良く冒険の始めに自らの技能の調整を行う。
今回においても千草をさほどの強敵と思わなかったシィルはその調整がてらに実戦をこなしていたため、その感想をパーティリーダーであるランスに告げていた。勿論、ランスと違ってまじめなシィルは授業の合間にネギに魔法を教えるついでに確認はしていたのだが、やはり練習と実戦は異なる事もあるための確認だった。

 その今までの確認の結果としてシィルは、以外の普段使う攻撃、回復、補助魔法であれば十分使用できるとの確信にいたったため、ランスに告げていた。戦闘行為にはなんら支障は無い。
もっとも、自分たちが元の世界に帰還するために必要と思われる異空間を使用する類の高等魔法や、異界の生物である精霊や幻獣を召喚する類の魔法は、シィルが使えなかったり、本格的に学んだ事がなかったりであったために未だ完全な考察ができていないということも控えめにではあるが告げた。




その内心としてやはりシィルは自分たちの住んでいた場所に帰りたかったのだ。

この世界はいい場所だ。
生まれてから一生懸命働いてさえいればずっと幸せを得られる世界。
生まれて初めて就職ということをしたが、学園長先生もネギ教員もいい人で、普段から戦う必要も無いぐらい平和で、安全な世界ということがこの数ヶ月だけでも痛いほど理解できた。
魔人や魔物といったものによって否応なく命の危険を感じる羽目になっていた元の世界とは大違いだ。徐々にこちらの世界の常識も覚えてきたし、基本的にいい人なシィルは交友関係もじょじょに広がってきたため、ランス以上にこの世界になじんでいるといっていいだろう。
このまま行けば、あちらの世界にいたように命をコインにしてまで生活費を稼ぐ必要もなくなるかもしれない。ずっとランスと一緒に幸せで平和な生活を送れるかもしれない。



それでも……………シィルは元の世界に帰りたかった。



この世界に来てから、どんどん元の世界のことがぼやけてきている。へんでろぱの味、市場のざわめき、うし馬車の乗り心地。
アイスの家の魔法コンロのスイッチの形、ダンジョンに入ったときの独特な埃と湿気と金属のにおい。家事のほんのちょっとの合間を縫って見ていた魔法テレビの番組。

今は手に入らないものとして思い出補正で美しく思えているのかもしれないが、シィルにはその全てが懐かしく、手放すべきではなかったと思える。やはり、自分はあの世界の人間であり、この世界にいるべきではないのだとシィルは思う。


そして記憶の侵食はさらに進み、ついにこないだまで一緒に戦っていた仲間の事さえ、だんだん細部が思い出せなくなってきている。
パットンさんの瞳の色は何色だっただろう。3Gさんの声はどんな響きだっただろうか。志津香さんの帽子の宝玉の数はいくつだっただろう。リア女王陛下は私よりも背が高かったかしら? そんな些細な事がもはや思い出せない。鈴女さんの、「にょほほ~」というアクセントが思い出せない。
今までクエストが終わればそう言った細部の記憶が日常に埋もれていくのが当然だった事までも、異世界にきているということで、もはや永遠に帰れなくなってしまうのではないかという恐怖の元となってくる。

このままでは今はまだはっきりと脳裏に写る彼らの顔すらいつか忘れていきそうで、自分たちも忘れられていきそうで怖い。


最愛の主人と一緒にいられることは嬉しい。
シィルにとってランスと違う世界に一人生きるぐらいであれば三人で異世界に飛ばされた事がはるかにましである事は事実で、どこからか学園長室に落下してきてすぐに響いたランスの声に安心した事は確かだ。
だが、どこに言っても我が道を貫き続けられるランスと異なり、自らの生まれと完全に違う世界に飛ばされて、何も感じず一生を過ごせるほどシィルは強くなかった。たとえ、元の世界ではランスを独占できる状態が崩れるとしても。


「ああ、別に攻撃魔法とかが使えるならそんなんどうでもいい。どうせお前は弱いから元から使えんし」
「…………すみません。頑張ってはいるんですが」
「努力なんかいらん、結果で示せ」
「ひんひん」


 が、主であるランスは別に元の世界に帰れないことに危機感を感じていないため、揶揄するだけでシィルが戦闘できるということさえ確認できれば問題ないと考えているようだった。
いや、むしろ見たことの無い美女がいるであろうこの世界を気に入ってさえいるのかもしれない。


 そのことに少し落ち込みかけるが、とにかくあのお猿さんと戦った事で自分の使えた魔法であれば十分使えることがわかり、この世界においても自分が十分戦えるレベルだということもわかった。
 実際、先ほどの戦いにおいてランスの意向より千草を殺すわけには行かなかったために手加減攻撃を持たないシィルはかなり遠慮して魔法を放っていた。
そのため実験もかねて様々な魔法を使用したが、本気でやっていれば相手の攻撃なぞかわす必要もなく、動き回り、いつも通り時々ヒーリングをかけながら炎の矢を連射していれば勝てた相手だった。

タカミチ先生やネギ君であれば苦戦するかとは思うが、この世界で戦うとしても少なくともランスの足手まといにはならずに何とかやっていける、と気合を入れることで、シィルは帰る方法がわからないことへの不安をごまかした。









「なんか昨日はあっさり寝ちゃったねー」
「まあまあ、後三日もあるんだし、今夜からは盛り上がるよー!」
「いえーい!!」


 昨日は眠りの霧の効果もあって熟眠していた3-Aの面々は、その分を取り返そうといわんばかりに朝からハイテンションで騒ぎ始める。
 そんな中、いつもはある程度馬鹿騒ぎを静止する側に回るはずの人間が、頭を押さえそのテンションから逃げるような形で憂鬱そうな歩みを進めていた。


「あいたたたたた、おかしいですわね。昨日の清水寺の滝から記憶がありませんわ」
「はい? 頭痛ですか、雪広さん。あまり夜更かしは良くないですよ」
「はい、ご心配いただきまして申し訳ありませんわ、シィル先生。ですがそもそも夜更かししたかどうかの記憶が……」
「あわわわわ、そ、それよりもシィル先生。今日からはずっと一緒にいらっしゃるのかです!」
「? ええ、そうです。学園長先生の御用事も終わりましたので」


 先日の音羽の滝の影響を一番受けたのがあやかだった。誰よりもネギへの思いを表明しているあやかは、少しでもネギとの距離が縮まるようにと思いを込めて大量の縁結びの水を飲んだのだが、そこには関西呪術協会の刺客、おそらく千草たちが仕掛けた罠があった。

 よりにもよって樽酒を大量の水に混ぜるという職人達への暴挙ともいえる仕掛けによって、ワインや甘酒ならばさておきあまり日本酒に慣れていないあやかは二日酔いにかかってしまった。
他の面子はあやかほど大量に飲んだわけでも無いので、それほど翌日の影響はなかったし、意図的にあの滝の水を飲んでいた夕映や木乃香なども短時間で摂取したわけでは無いのでなんら影響は無いようだったが、あまりに大量にアルコール分を短時間で摂取したあやかは、一晩たっているにもかかわらず近寄ってみれば微かに酒臭いような気もする。

 そのあやかの様子にシィルが気付く前に、修学旅行が中止になってはたまらないとばかりに夕映が話を逸らそうとする。それに気付くことなく話に乗ったシィルに、いやその場にいた人間全員に聞こえる声で必死の覚悟が聞こえてきた。


「よ よろしければ今日の自由行動……私達と一緒に回りませんか!?」

 
 その声を聞いた夕映は、驚きと共に喜びに顔をほころばせ、シィルに一言断ってのどかのところに駆け寄った。
その横では、二日酔いも一気にさめたとばかりにあやかが目をむいている。ネギがYESと答えた事で、周りを巻き込んだ大騒ぎが起こる。

 その様子を一歩引いた位置で見ながら、シィルはやっぱりもうちょっとだけならこの世界にいるのも悪く無いかな、と思い直した。






「ええい、くそ。せっかくの絶好の機会やったというのに!」
「まあまあ~、今ゆうてもしゃあないですわ。それよか計画のほうを立てなおしたほうがええんちゃいます?」
「元はといえばあんたがあの男の方さっさと片付けんから!」


 近衛木乃香の誘拐という大事件を起こすのに絶好の機会であった昨夜を逃し、千草は怒りの矛先を月詠にぶつけていた。
昨夜こそが、相手が未だ千草たちのことを知らずに警戒もゆるかった最上のチャンスだったが、これ以後は一度誘拐されたということで警備もいっそう厳しくなってしまうだろう。

 それを思うと罵声の一つや二つもこぼれるというものだ。そう千草が思っていると月詠が予想外の事を言い出した。


「可愛いうちの子達が調べてくれたんですけど~、あの男の名は確かにランスというらしいですわ~」
「名前なんかどうでもええ! しかも、そんな聞かん名前の男に負けよって……」
「まあまあ~、最後まで聞いてくださいな。何でも~、一部では『鬼畜戦士』とか呼ばれ始めてる最近になって関東魔法協会に雇われたらしい傭兵だとか」


 その千草の怒りを受けた月詠は、内心では穏やかではなかったものの一応雇い主ということで穏やかな顔で自分のペットである百鬼夜行たちが調べた相手の情報について述べる。

千差万別の能力、形態を持つ百鬼夜行たちだが、存在としての力がないため戦闘においては時間稼ぎ等ぐらいにしか役に立たないものの、何より数を頼りにする情報戦や制圧戦で効力を発揮する。
その可愛いペット達が調べた事をこの物分りの悪い仮の主に向かってゆっくりと諭すように告げていく。

一方的に追いやられたということでけっこう月詠のプライドも傷ついていたため、相手を探るように命じたのだが、相手は無名は無名でもそんな千草が言うほど嘗めてかかれるほど尋常な相手ではなかった。
情報を集めるよう頼んだ自分でも思わず聞き返したほどの経歴を持っていることがわかったのだ。


「それがいったいなんやというつもりや!」
「ここからが肝心で~、最近麻帆良学園内のことの情報料がえらい高うなったと思いません? なんでもこの男が侵入者全て惨殺してるらしいですわ~凄まじい手練ですなあ」
「……全て? 嘘いわんとき。いっくらなんでもあの広い学園全部を……」
「あの高畑・T・タカミチをあっさりと倒したとかいう男やったとしても?」
「!!」


真偽を吟味する前にそんな馬鹿な、ということが千草の頭をよぎった。高畑・T・タカミチといえば「赤き翼」のメンバーで、あのガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグに師事していたとかで、いまでは魔法界の格付けでは「AA+」の戦闘能力とされている麻帆良学園最強、いや、日本最強の名も高い魔法教師だ。
ガトウを継ぐ者として今ではマギステル・マギに最も近いとまで言われている男を、倒した? 

千草は以前あの笑いながら相手を屠れる死神の記録映像を見たことがある。
一撃一撃が鬼のように重く、速い。化け物じみた反応速度と破壊力。
あの男の前に立てばそこらの有相無相では束になってはかなわないと千草に思わせた男を、遠目ではあの馬鹿笑いをしていたとしか見えなかった男が下したというのか?


千草が今回の計画決行を決めた一因として、西洋魔法使いを嫌う関西呪術協会の幹部による工作によって、ネギ=スプリングフィールド他あまり名前の通っていない魔法教師のみのごく少数だけを京都に受け入れるという事になっていたという事実がある。
 こちらにも情報を流していたその幹部はやけにあっさりと近衛学園長が条件を飲んだといぶかしんでいたが、ひょっとするとそれは名前は通っていなくても、それ以上の手札があったからだったとしたら……


「そ、そんなあほな」
「うちもそう思って裏づけ取ってみたんやけど、どうやら事実らしいですわ~。雇われる以前の情報は完全に不明やけど、まあ、数ヶ月で二つ名に鬼畜とまで言われるだけのことはあると思ってええですわ~。まいりました~、割に合いません」
「……あの女魔法使いの方は?」
「こっちは一層情報が入ってこんけど~、噂話レベルでいいならどうもあの男のパートナーちゅう話です~。まあ、実力は押して知るべし、という事ですなあ~」


 月詠の言葉にようやく事態を把握したのか、青ざめた顔をした千草は内心予想が外れてくれ、とばかりに祈りながら昨夜のピンク色の女魔法使いのことを尋ねるが、返ってきた答えは期待と正反対のものだった。

従者に超一流の魔法剣士並みの力を与える魔法使いだ。そんな実力なぞ、聞くまでも無かったということだろう。
道理で自分と戦っていたときも涼しい顔をして、どこか余裕ありげな態度をとっていたわけだと千草は歯噛みする。それに加えてよく素性はわからないものの一流の狙撃手が一人に神鳴流剣士が一人、そしてあのサウザンドマスターの息子のネギ=スプリングフィールド。
どう考えても当初想定していた西洋魔法使い御一行様の戦力よりも上であると判断せざるを得ない。このままでは……


「…………月詠はん、仕事達成時の報酬上乗せするさかいなんとかその男抑えてくれるか」
「あら? 悪いですねぇ~、催促したみたいで」
「…………何をぬけぬけとっ!」


 あの高畑・T・タカミチ以上の敵が最低でも二人いるとなれば、本格的に計画を練り直さなければならない。
もともと関西呪術協会からも抜けた身として、急速な戦力補充が難しい千草としてはここで月詠に抜けられるわけには行かない以上、月詠の狙い通りだとしても与える餌の上乗せを拒む事はできなかった。

 実際、月詠はここで千草が報酬の上乗せを口に出さなければ抜けさせてもらうつもりだった。傭兵である月詠は別に義理と人情によって千草に協力しているわけではなく、あくまで仕事だからだ。
支払われる対価にふさわしく無い仕事を押し付けようとする依頼主に執着する気なぞ微塵も無い。そして、そのことは別に傭兵の義からも問題はなく、評判が落ちて傭兵家業を営めなくなることも無い。
もし、この状態でも傭兵である月詠に契約を続行させたければ千草の方が頭を下げて金を出すべきなのだ。

そういった意味ではある程度目論見はうまくいったともいえるが、それでも月詠は口では礼を言ったもののそれほどありがたがってはいなかった。
なんと言っても成功報酬、つまり失敗すれば単なる青写真に終わるからだ。この場で即金にて渡されるというならばさておき、最低でもAA+ランク以上の敵が存在するという事がわかった以上、この青写真はどうやら絵に書いた餅になりそうだ。
いくら賭けの配当が上がったといっても、その分以上にリスクが増えたというのではお話にならない。


(潮時かもしれませんなあ~)


 ひそかにつなぎを取った方がいいかもしれない、とそろそろ月詠も行き先を考え始めた。







「普段はみんなが言うように子供っぽくてカワイイんですけど……時々私達より年上なんじゃないかなーって思うくらい頼りがいのある大人びた顔をするんです」
「えーと……そ、そう?」


 奈良公園内にてその小柄な身に詰まった精一杯の勇気を振り絞って、それでも失敗するのどかを見て、思わずネギのどこがいいのかと明日菜が尋ねる。
帰ってきた予想外の答えに自分がほめられたわけではないものの弟のような存在であるネギの課題とも思える評価にちょっとこそばゆくて口が笑ってしまう明日菜。

そして、そんな二人の会話をぼんやりと聞く刹那。
宮崎のどかといえば、引っ込み思案で男嫌いということは今まであまり親しくなかった刹那も知っている。自分に自信がなく、ついこないだまで顔を見られるのが恥ずかしいからという理由によって髪で顔を隠していたほどだ。
当然、告白なんぞ初めてであろうし、そもそも常にネギに付きまとっているあやかならばさておき、のどかがネギに一緒の班行動をしないかと誘ったり、ましてや告白したりするなぞとは刹那は予想すらしていなかった。

お嬢様を守るためにクラス全体を常に客観的に見ていたつもりだったが、この本の虫となっていた少女が内にこんなに熱いものを秘めていたとは……

勿論、ネギに対する評価は昨日の一件で多少上がったとはいえ、反論したい部分もある。
今までの一生で「学生」として過ごした事が無い刹那は無意識に男というものを力量で計ろうとする癖があるため、頼りがい、という点で言えば二年のときの担任であった高畑先生の足元にも及ばないとその戦闘力を知った今でも思うし、人間としても高畑先生の方が完成されているだろうと思っている。
 つまり、要約すると、「勘違いでは?」ということだ。


 確かに、学生時代の恋愛という物は恋に恋するという面が少なくなく、以前「魔法家庭教師つくね」という小説の登場人物に恋をしていたのどかは、ひょっとするとその架空の人物とネギを混同しており実像以上にネギを過大評価しているのかもしれない。

だが、だからといってネギに対するのどかの思いが偽者であるという事にはならない。いや、今までそういった面に心を注いだ事が無い分、いっそう強固な物であるともいえるかもしれない。
正真正銘、これはのどかの実在の人物との初恋なのだ。



 表面上はネギの評価について内心ある程度反発を隠しながらも、その思いを聞いて衝撃を受ける刹那。
魔法や剣術になんら関係の無いのどかが、自分の全てをさらけ出す覚悟でネギに告白しようと決心している事に対して、心身ともに神鳴流で鍛えているはずの自分が未だ親友である木乃香に、自分を捨てた一族の掟なぞに従って自分の罪を告白することができないでいることのなんと矮小な事か。

 やがて、のどかは再び覚悟を決めたのか、明日菜たちと別れて再びネギへと近づいていく。

身を隠しながらもこっそりとついていく明日菜、刹那、カモ。
好奇心など様々なものが混じった感情に身を浸したこの三人の脳裏には、もはやデバガメとかそういった文字はなかった………自覚の無い分、先日のあやか、朝倉よりもたちが悪いような気もする。
 

「ちょっと、エロガモ。あんたさあ、魔法とかのファンタジーの世界に本屋ちゃん引き込む事はほんとにいいの?」
「そりゃあ、安全か、って事については絶対とはいえねえっすよ。でも、二人がその気なのに周りが止めるってのも野暮ってモンじゃねえっすか? うぃっひっひ」


 ネギたちに気付かれないよう追跡しながらも小さな声で以前と同様の一般人を巻き込む事の危惧をネギのサポート役であるはずのカモに聞く明日菜だが、その質問された相手はまさにエロガモの名にふさわしくいやらしく笑いながらも、反論になっているのかなっていないのか微妙な事を言うだけだった。
とはいえ、のどかの覚悟が外から見ても明らかになっているのが見て取れる以上、そこまで覚悟しているのどかを止める事は同じく恋する乙女である明日菜には忍びなかった。


 やがて、のどかが覚悟を決めたのか、大きく息を吸ってネギを呼び止める。普段と違うのどかの気迫を感じたのか、ネギも少々緊張した面持ちで向かい合う。思わず身を乗り出す二人と一匹。

もはや、保護者とか監視役とかそういったことなぞ完全に無視して、単なる覗きと化している。
というか木乃香の護衛はどうした、刹那。
一人でぷらぷらさせるなんて昨夜の反省が全然無いぞ、お嬢様の護衛。

とにかく、周囲の緊張も限界まで高まったところで、ついに一世一代の告白劇が幕を開けた。何度かフェイントはかかったが。


「私 ネギ先生のこと 出会った日から ずっと好きでした。私……私 ネギ先生のこと 大好きです!!」


 改めて思いを言葉に出されて、その深さに黙り込む観客。それ以上にパニックを受けるネギ。
 その、あまりにもまっすぐな言葉を受けたネギは、今まで魔法の勉強ばかりで色恋沙汰には縁遠かった反動か様々な事が一気に脳裏を巡り、そのちっちゃな心臓を急激に活動させる。
どう見ても大人びてはいないが、その態度でものどかの真摯な気持ちを揺らがせる事は無い。


「え? え? え、え、え、え、え?」
「そ、その…………し、失礼します」


 そこまでいうと、恥ずかしさが限界に達したのか、頬に手を当てて一気に走り去るのどか。
それを見て、何か言葉をかけなければ、とにかく誠意ある返事を返すために呼び止めなければ、という思いにとらわれるネギだがその言葉は思い浮かばず、走っていくのどかの方へと伸ばした手は何もつかむことなく空を切った。


 ネギは、好きといわれたことが今まで一度もなかったわけではない。
唯一の肉親としてネカネ・スプリングフィールドの「お姉ちゃん」からは何度も親愛の情交じりの愛情を受けて育ってきたし、規則を破ってまで魔法の練習を付き合ってくれていたアーニャだって、面と向かってはいわないが自分を好いてくれていた。
最近ではあやかからは常にまっすぐな好意を伝えられているし、師であるエヴァから誘惑交じりの一言をかけられることだってある。

もとより、穏やかな性格と整った容姿で嫌われる事なぞ少ないネギは、沢山の「好き」に囲まれて過ごしてきていた。


 しかし、のどかからの告白は、今まで自分が貰い、自分も返してきた沢山の人に与える事のできる好き、では無く唯一絶対のたった一人の異性に対する好きであるということを無意識ながらに理解していたネギは、思わず思考が暴走して体の制御が利かなくなり女の子のようにその場に座り込んだ。
いや、今まで与えられてきた愛情に対する自覚すら一気に湧き上がってきたぐらいだ。


「僕は…………先生なのに」




 無論、覗いていた二人と一匹にものどかの告白は多大な影響を与えた。


明日菜は複雑そうな表情だ。
普段は馬鹿にしながらも、それなりに教師としてもやっていっているし、男らしさの片鱗を僅かながらにだが見せ始めるようになってきたネギを認め始めていた明日菜にしてみれば、のどかの告白はクラスメートの一人としてそこまで勇気を出した事に対する祝福と共に、自分が若手の頃から応援していた俳優が急激にメジャーになったような寂しさのような嫉妬のような感情が湧いてきていた。


 カモはもっと単純に嬉しそうだ。
尊敬するネギのアニキが、男としても女に認められたことは嬉しいし、今自分の頭を悩ませている仮契約の問題だって片付くかもしれない。
別にパートナー同士が必ずしも恋人関係である必要は無いのだが、そうであって悪いと言うことは無い。
何より、男というものは守るものがあるからこそ成長するもんだろ、とカモは思う。


 そして、最後に顔を真っ青にした刹那。彼女はのどかと同じく高畑という教師に恋をしている明日菜よりずっと冷静だった。
そのため、十歳の中学教師とその教え子が交際するという社会的に見て決して許されない関係をのどかが願っており、またそれが許されないことだという事ものどかが理解しているとも感じていた。

いくらいろいろな面でゆるい麻帆良学園だとしても、ネギが仮契約を求める魔法教師でなければ教師と教え子という関係はたとえプラトニックでも倫理的に決して許される事はなく、教育現場から排除される。
常識的に、ネギが魔法使いだという事を知らないのどかからしてみれば、この告白は百パーセント成功するはずが無いことがわかっていたにもかかわらず行ったということだ。

 その勇気はどれほどのものだろう?
どれほど悩み、困惑し、苦しみながらの告白なのか、他の二人よりも比較的冷静で常識的な思考をしていた刹那は、そののどかの行動と自分の意気地のなさを比較して、昨日の失態の事もあってこれ以上無いくらい顔を青ざめさせていた。



(お嬢様………いや、このちゃん)


 胸中でつぶやくのは、誰よりも、自分よりも大切な人のこと。
命を架けても守りたい人を突き放すことで苦しめることが、自分が誓った強くなって守るという約束の中身なのか。
明日菜にはお嬢様を守れれば満足だと言ったものの、今自分が行っている事は命さえ守っていればどうでもいいとして、木乃香の命さえ無事ならば魔力供給装置にしようとしている過激派と方針が若干違うだけではないのか。


 胸が痛い。
自分も、のどかほどの勇気があれば、と思う。
十年近くも行ってきた神鳴流の修行は自分の秘密を告げる覚悟一つを決めることにさえ役立ってはくれないことに、そして神鳴流剣士としての能力しかない自分の存在のありように刹那は深い絶望をのどかの告白から受けていた。



Comment

>侵入者全て惨殺

女はどうした!?
もしかして全てお持ち帰りしてストック中とか?
さすが鬼畜戦士w
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プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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