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鬼畜ま!18

十八話












 千草はとにかく相手が強力な魔法を打つ前に勝負を決めようと、ばら撒いたままわざとトラップとして残していた残り半数の護符より小型の式神を10体ほど呼び出した。
 時間と魔力さえあればもっと強力な式神を作り出すことも可能であろうが、今の状態ではこれで何とかやりくりするしか無いだろう。

 とにかく、できる限り小猿やツバメ等の式神によって相手の魔法のための精神集中を妨害しなるべく魔法自体を打たせないことに終始する事にしたのだ。それでも打ってきた場合千草への直接攻撃は身に纏う式に注ぐ呪力を上げる事によって防ぎ、一掃されたときは小型の式神はまた残してある護符から再び召喚する。
 そうして時間を稼いでいるうちに月詠があの男を倒して合流すればそれで良し、もし長引いたとすればこの猿鬼をまとう秘術によって強化された身体能力で肉弾戦を挑むことによって後衛タイプと思われる魔法使いであるあの少女を止めて見せようという戦術だ。

 たとえ、術者としての才能が欠けていようと、自らよりも強いものとの実戦経験がさほどなくても、やはり千草は綿々と歴史を紡いできた名門天ヶ崎の符術師だった。そのため、技の威力や効果範囲についてはシィルに明らかに劣っているにもかかわらず、肉弾戦を挑み、その援護に符術でできた式神を操る事で何とか勝負を拮抗させる事ができていた。

 しかし…………………






「『炎の矢』! 『氷の矢』!」
「くうっ、何でこないに一瞬で……もうちょっと、気張ってや、猿鬼!」


 威力よりも即射性を重視してなのか、あの大魔術は使わず、自動追尾するごくごく少数の魔法の矢を連射している相手。
それでも千草の知っている魔法使いの基準からしてみればとても無詠唱魔法とは思えないほどの威力を持って迫ってくる魔法であり、そのすべてをかわしきる事は出来ない。
追い詰められていく千草はたった一撃当てられただけでごっそりと力を奪い去っていく魔法に対して、交互に受け、さらに猿鬼たちに注ぐ魔力を多くすることで耐久力を回復させて耐え抜いていたが一撃一撃を何とか耐えたとしても積み重なったダメージは徐々に猿鬼の身体を重くしていく。


「ふんっ!」
「わわ、『魔法防御』!!」


 完全に戦闘不能になる前にお返しとばかりにその太い腕で風を切ってシィルを思いっきり殴ろうとする千草の攻撃を、周辺に実に衝撃の9割を吸収する見えない魔法の防御壁を作り出すことで防ぐシィル。
 狙撃してくるあてなの矢を弾いていた熊鬼を少しずつ自分の身に近づけていた千草は、自分の攻撃が弾かれるや否や、立ち位置を変えて熊鬼にシィルに対して渾身の一撃を加えさせることによって魔力でできた障壁を破壊し、あてなに対して牽制のツバメを五匹飛ばした後続けて自分も連撃を加えようとする。
 が、「魔法防御」の魔法が破られたことで即座に次の呪文を唱えていたシィルの詠唱が終わる方が先だった。


「『雷撃』!」
『クマーーッ!!!』
「熊鬼っ! くっ、オン・バザラ・ダド・バン………」


 何故か室内でも頭上より落ちる数十万ボルトの小型の雷が熊鬼に炸裂し、蓄積していたダメージとその衝撃に熊鬼が耐え切れず消滅しかかったために思わずシィルへの攻撃を中断する千草。
そして、急いで真言をもって熊鬼の形代により多量の魔力を注いで式神を現界させ続けようとする千草の隙をついて、先ほどとは立ち場所を変えたあてなが再び千草を狙撃する。


「………いけえっ!」

びょぉぉぉぉぉ

「防ぎい!」
『きゃっきゃ!』


ぱぁん

 それをあまり広くはないものの魔力で形成していた探知網で察知した千草は、今度は小猿の式神の身をもって防ごうとするが、やはり戦闘には向いていない式神であるからか防ぎきれずに貫通する。


「ぐ……くっそぅ! あかん、ジリ貧や!」
「えい、『ダウンロック』!」


結果、多少間に物体を挟むことで威力が弱まったものの、それでも鉄板ぐらいならばやすやすと貫通するだけの威力を保ったままのあてなの高エネルギー矢は、千草のまとっていた猿鬼に少なくないダメージを与えることとなり、思わず千草の口から罵声が飛び出す。
 そして、あてなの援護射撃によって一瞬動きが止まった千草に、すぐさまシィルが見えざる魔力の鎖で縛り上げる事によって相手の動きを鈍らせる魔法をかけ、長期戦を見越してあてなの狙撃を助ける。
 それを受けて急速にからだが重くなったことを式神ごしに感じる千草。
 
あてな2号による適切な援護射撃によって隙の無い一個の戦闘形態となっているシィルに対して、今のところは形勢を拮抗させる事はできていても決して優位に立つことはできず、逆に徐々に残り少ない式神を打ち落とされていく事で徐々に不利になっていっていた。
遠距離専門の魔法使いと狙撃者vs接近戦仕様の陰陽術士と多数の手駒という、条件だけ見れば千草に圧倒的に有利な条件であるにもかかわらずむしろ押されている現状に、彼我の力量差をいやおうなく感じさせられた千草は、もはや自分に都合のいい未来が運良く転がってくるのを待つしかなかった。


(くう、月詠はん、はよう片付けてこっち来てくれんともう持たんで……)


 そのためちらりと視線を投げかけて激しい剣の応酬をしている月詠たちを横目で見ながら、再び千草は時間を稼ぐために自分の従者たる式神たちに意思を伝えてシィルたちに挑みかかっていった。





(だめですわ~、これは)


 その月詠はというとあっさりと先ほどの自己の誇りをかけた決心を翻し、すでに相手を打ち倒してやろうという気を無くしていた。
 まだ、相手と相対して数分もたっていないにも関わらずである。
 一応今なお二刀を振るってはいたものの、もはやそれは一瞬一合をもって相手の命を狙う獣の牙ではなく、相手の攻撃を防ぎ、自分の身を守るための追い詰められた鼠の攻撃だった。

 千早の声のニュアンスからすれば用心すべきなのはあのピンクの髪の魔法使いであって、この男は何とかなるという話ではなかったのか。こっちをあっさりと片付けてなどといっていたが、結構手ごわそうなのでそう簡単にいくのかと自分も思っていたが、とにかくメインはあの魔法使いの少女だったのではないのだろうか。

それなのに、いざ戦ってみるとなかなかどうして、ひょっとするとこの相手の方が依頼主が向かった相手よりも手ごわいのではないかと思うほどの腕前の持ち主だった。というか、はっきり言って自分とは桁が違う。
手加減をめいいっぱいされているであろう現状ですら、ついていくのがやっとである。


 もともと、この剣士の数十キロはあっさり超えるであろう大剣を、いくら丈夫な特注品であるといってもこの細い二刀でもって防ぐ事は物理的に不可能であろうため、受けるのではなくかわすことに意識の重点を置いて、その大振りな一撃の合間をついて神鳴流の野太刀を相手にするように両刀を滑り込ませるつもりだった。

 しかし、この剣士の一振りは神鳴流の剣士の太刀とは致命的に一撃の重さと切り返しの速さが異なっていた。
 片手で振るっているにもかかわらず、「慣性? 何それ、美味しいの?」といわんばかりに袈裟懸けに切りつけたと感じた次の瞬間にはすでに逆袈裟に振るわれて、上段に剣が戻っている。それを感知できた、と思うや否や、いつの間にか構えを中段に戻した相手がすでに月詠を横一文字に両断してやろうと剣風を走らせている。

 月詠とて二刀を持ってそれぞれ別々の動きを行い、片手で相手の防御を無理やりこじ開けた後にもう片手で止めを刺すということを得意とする一流半の剣士だ。そのため、相手の攻撃の軌道に割り込むために相手の攻撃や重心の動き等をきちんと見切れるようかなりの動体視力を持っているし、それに応じて刀を送り出せるように体捌きに重点を置いての修行を怠ったつもりは無い。
しかし、見切ったと思った次の瞬間にはすでに別の軌道で振るわれているこの相手の剣を完全に把握する事はできず、ほとんど第六感にのみ頼って致命傷だけは避けているといった状態だった。


「うおぉぉぉぉりゃあ、手加減攻撃! って、いい加減当たらんか!」
「そないなこといわれても困りますわぁ~~」


 月詠は手数を増やし、相手を痛めつけるという利点を取るために一撃の破壊力を捨てたにもかかわらず、この剣士は破壊力を一流の剣士以上に持っていながら、その切り返しの速度のみで二刀の自分と同じだけ、いやひょっとするとそれ以上の手数を持っている。


「『雷の矢』!!」
「あ~れ~」
「効いて無いだろ!!」
「あ、ばれてまいました?」
「む、むかつくーー!!」


 これだけとってみても月詠に勝ち目は無いにもかかわらず、この剣士は鍔せり合いにおいても尋常で無い臂力を持っている事が確認できた上に、ウエイトは鎧で増しているため月詠の何倍にもなっていて吹き飛ばす事なぞ夢のまた夢だ。


「二刀連撃斬鉄閃~」
「いてててててて、腕が痺れる。やめんか! ふんっ」


にもかかわらずその動きは鈍重なぞと呼べる物ではなく、隙を突いて狙った刺突はあっさりと俊敏な動きをもって流れるように扱われた右手の盾に止められ、身の皮一枚切らせる事によって思いっきり肉薄して振るった太刀はあっさりと相手の鎧捌きによっていなして弾かれた。
 順手、逆手と小刀を持ち替え、幻惑と本命を織り交ぜてありとあらゆる角度で切り刻もうとする得意の連撃すら、捌かれ、防がれ、押し返されたばかりか、持ち手が不安定になる持ち替えの瞬間のほんの僅かの隙に反撃の一撃が送り込まれる。


 戦闘スタイルが得意、苦手という以前に剣士としての腕において、話にならないほどの差がある。はっきり言って、勝ち目がほんの少しであっても見出せない。
体力が残っている今ですら、防御に全力を注いで、さらに相手がこちらをできるかぎり傷つけないよう手加減していてようやく拮抗するような現状だ。

 そして、傭兵である月詠は契約を守るべき義務があるが、そのために命をかけるつもりまではなかった。契約金や信用とて、命有ってのモノダネなのだ。

 そのため、一応千草からはしっかり戦っているように見えていたものの、顔や声、態度では余裕でかわしているように繕っておきながら積極的に攻撃に移らずに必死で防御に回っていた月詠は、すでに命がけで撤退する機会を窺っていた。






「駄目です、この周辺にはいません」
「こっちも見つからなかったです。ど、どうすれば………」


 一方、ネギたちはというと…………未だ木乃香の居場所をつかめないでいた。そのため、大雑把に旅館の周りを回っていたものの、やはり相手の行き先の特定ができるほどの痕跡を見つけることができないでいた。
一足飛びで屋根から屋根へと飛び移る事を可能とする式神の脚力を持ってすれば、そう簡単に特徴的な足跡等が見つかるはずも無い。魔力を使った空間転移であればその場に残った魔力の残滓等で追跡できるかはともかくネギが感知できたかもしれないが、異界の生物をこの世界に招くことにより、単純に優れた身体能力を手に入れることができるという式神ならではの特性は、魔力という方法において後を追いにくいからだ。
この様子では、たとえ自分の隠している特性を使ったとしても見つかるかどうか、そう自責の念に駆られ、それでもやれることは全てやっておかねば、と思って自らの戒めを解除しようと決心する刹那。


「! そうだ、日本の魔法使いでも魔力は使っているんですよね」
「え、ええ、魔力を持って事を成しているのは東西を問わずに同じはずですが」
「わかりました、刹那さん、少し下がっていてください」


が、ネギに、ひいてはお嬢様に秘密を知られるという耐え難い苦痛にどうしても思い切りがつかず、途方にくれながらもあせりだけはますます増して己の無力感に拳を握り締めていた刹那に、不意に何かを思いついたようなネギが問いかけてきたため、わらをもすがるような思いで急いで答える。
 その刹那に対して安心させるようににこりと笑って、ネギはもはや自分がオコジョになるかもしれない、というリスクなぞは頭の隅から放っておいて呪文を唱えた。
 ちなみに、この場にいれば一番うるさそうなカモは近右衛門に知らせに向かっている。


「ラス・テル マ・スキル マギステル 風精召喚 剣を執る戦友!! 探し出して!!」


 そう呪文を唱えると、ネギは自分が制御し切れる限界まで風の中位精霊を召喚し、自らの瞳として四方八方へと飛ばし、眼を瞑る。その数は、十や二十では利かない。たとえ、見習いであろうとネギの魔力保有量は世界有数なのだ。その膨大なまでの精霊の数に、刹那は隣にいる光に照らし出された幼い顔を思わず凝視する。
そして、自らの感覚と精霊とをつないでいたネギは、何十頭もの精霊から一気に送られてくる様々な情報が頭に割り込んでくる苦痛に顔をゆがめながらも、ある一頭の精霊の感覚によって一箇所だけやけに魔力が集中している場所を見つけた。まるで、人払いの魔法の中で魔法戦闘を行っているかのような……


「見つけました、多分ここです!!」
「本当ですか!」
「乗って! しっかりつかまっていてください」
「はいっ!!」


 精霊を通じて怪しげな場所を見つけたネギは、精霊たちに礼を述べて開放した後、刹那を促して杖を使って一気に宙に向かって加速する。


「最大 加速!!」


 その声に従ってネギと刹那を乗せた魔法の杖は、音の壁をも突き破らんとばかりに加速する。その杖にまたがってネギの身体にしがみついて必死に加速による衝撃を耐える刹那は、改めてネギという魔法教師の魔力を見て、今までの対応の拙さ等から低めに見積もっていた評価を見直していた。


(すごい………流石はあのサウザンドマスターの息子、ということか。くっ、それに比べて私は何を……)


 サウザンドマスターの雷名は、直接は彼を見たことが無いはずの刹那たち世代の神鳴流剣士にも伝わっている。
自己の信念に基づく絶対的正義に則って、その絶大な力で世界のため、弱者のため、どんな強大な魔道士にも時には上位魔族にすら一歩も引かず戦い続けたと聞く。今まで木乃香を守るために決して正義といえる行動ばかりをとってきたわけでは無い刹那は、その伝説にも残る生き様にある種の憧れめいた物を感じている。

それもあって今まで「不出来な二代目」であるネギに対して感じていた不信感というものがある程度払拭されると共に、お嬢様の護衛である自分が今まで何もできないで頼り切っているばかりの事にふがいなさを感じて、手に持った夕凪をいっそう強く握り締めた。


 そんな自責の念に駆られている間にも、周囲の景色は高速で移動している。その進行方向にひときわ大きな建物が見えてきた。

と、同時に刹那はなんとなくその周辺にいたくないような気がしたが、気合で吹き飛ばす。この感覚はおそらく人払いの護符。烏族とのハーフである刹那には効き目が薄かったのか何とか弾き飛ばす事ができたが、単なる人間であれば戦闘用に初めから用心していなければ間違いなく近づこうとは思わないだろう。
ましてや、一般人であれば間違いなく効果を及ぼし、そこに近寄らない事にも自分で何らかの理由付けをして不自然に感じない、という優れた構成による呪術であり、少なくとも剣術の補助程度に陰陽術を学んだ刹那には理解していても自分で符を作る事は出来ない。

 思わずこの杖を操るネギの方へと視線をやるが、体内の力強い魔力の鼓動によるものか、微塵も人払いの効果をうけておらず、ひょっとしたら気付いていないのでは、と思ってしまうほど平然としていた。
もとより、低位の思考操作系魔法は優れた魔力保有者には効果が無い上に、ネギの魔法抵抗力は障壁を張っていない状態でも他者の数倍はあるということからだ。
 そして、その距離まで近づけば駅の構内から爆発音がとどろいている事が刹那の耳にも届いた。


「あそこです、ネギ先生!!」

 
 指差した方向には、お猿女がピンク色の髪をした魔法使いに襲い掛かっているところだった…………ピンク色の髪をした魔法使い?


「シィル先生!」
「ええぇ? ネギ君に桜咲さん。どうしてここに?」
「よそ見する暇なんか与えてませんえ!」
「きゃあ!!」


 新手が来た事にあせったのか千草がシィルとの距離を一気に詰め、猿鬼の腕で思いっきりぶん殴る。ネギ、刹那に気をとられていたシィルはよけることができず、防御魔法を唱える暇もなくその直撃を受けて壁際まで追い詰められてしまう。
今を逃せばもはやチャンスは無いと思っているのか、千草はそれに追撃の一撃を与えようと未だ空中にいるネギ達を一時的に無視してあてなに向かわせていた熊鬼までも一瞬で呼び戻して遠隔自動操作から直接操作に切り替えて倍の手数と威力でシィルに迫る。さらに大地に散らばらしておいてあった残りの全ての符をも利用し、正真正銘最後の切り札、父より託された最後の式神の一つである鬼蜘蛛を召喚してその牙を突き立てるよう命じる。


「もろたっ! 行けい、鬼蜘蛛!!」
「きゃあ!!」
「シィルさん!」


 通常のパーティ編成において、前衛であるランスがシィルより先に倒れる事なぞほとんどありえない。そのため、シィルにとって自分が一撃を受けた上に追撃されたとき、前衛が勝手に倒れてしまって防御魔法を唱える暇もなく相手が眼前に近寄ってくる事など、かつてのカスタムにおけるエレノア=ランによって妖体迷宮に閉じ込められたときぐらいしかなかった。
人間、何度も経験した事であれば反射的に体が動く事もあろうが、そうでない事にはもろいものであり、それは異世界から来た歴戦の冒険者の一人であるシィル=プラインであっても同じ事だった。

 そのため、接近戦には慣れていなかったこともマイナスに作用して思わぬ衝撃に体が固まったシィルは、全身全霊を込めた千草の一撃に対応する事ができなかった。思わずフォローに走ろうと杖から飛び降りる刹那にその場で起動キーを唱えるネギ。

しかし………


「連続弓レス!!」
「うわっ」


 やはり千草とランスの陣営では、まともに戦闘できる人数とその能力に差があった。そして、そのことを知っているシィルは襲い来るであろう衝撃に身体を固めることはあっても、ぱぁんという軽い音とともに助かったことに驚きはしなかった。
メンバーが基本的には月詠と千草だけであり、場合によっては式神の援護というだけでランスとシィルを抑えるのが精一杯な千草陣営にたいして、ランスパーティは致命的失態を誰かが犯したとしても、戦場全体を俯瞰する狙撃主がすぐさま援護の矢を送ることができた。

そのため、並の女の子モンスターをはるかに凌駕する能力を持つ(それはつまり、この世界の平均的魔法使いをも上回るという意味だ)あてな2号は、シィルに向かうときに牽制として送られてきていた式神をあっという間に叩き落し、逆についに千草のまとう猿鬼と熊鬼に致命的な攻撃を送り込んだ。
 岩をも穿つその高速連撃エネルギー弾に耐え切れなかった二体の式神ははじけるような炸裂音と形代を残して解けるように消えていき、切り札であるはずの鬼蜘蛛はよりによって符の基点に数十の矢を打ち込まれて崩れ落ちていった。

後に残ったのは無傷とはいえずいぶん魔力を削られた千草のみとなった。

 その場に、いらついたランスの大振りな剣のほんの一瞬の隙を見つけて、今まで逃亡のため溜め込んでいた脚部の気を一気に爆発させて跳び下がってきた月詠が並び立つ。


「くぅぅぅぅぅぅぅぅ…………撤退や」
「ええのんです?」


 腹の奥底から絞り出すような声に自分も最早やる気はなく帰る気満々ではあったものの、一応建前として依頼主の意思の確認をする月詠に対して千草は苦々しそうにはしながらもしぶしぶうなずいて答える。


「三人相手にもう負けそうなぐらい苦戦しとったんや。この上にサウザンドマスターの息子らまでこられたんやったら完全に勝ち目はあらへん。分の悪い賭けも嫌いちゃうけど、無駄死にはご免や」
「お嬢様も取られてしまったことですしなあ」


 その言葉どおり、先ほどのシィルのピンチのときにすでに杖から飛び降りていた刹那はシィルが無事なことを確認した後はすぐに、ランスたちの手から木乃香を守っていた低位の式神を蹴散らして木乃香の元へとたどり着いていた。

すでに木乃香を確保してこちらを睨み付けるその全身からは、今までに無い気迫がもれてきている。今回において自分は何の役にも立てなかったという自責の念からくるものか、自分の守護するお嬢様が眠るこの刃の圏内に来る者は何人たりとも細切れにしてくれる、といわんばかりの眼光で千草たちを見つめている。
少なくとも今までの相手を出し抜いてあの守護者から木乃香お嬢様を奪い取ることは不可能だろう。


 その刹那に対して、まるで蛇などの爬虫類を思わせる、獲物を見定める感じで目を一瞬細めた月詠はわざとらしいため息をついた後、いままで戦っていたランスのほうへと元ののんきな調子の声をかける。


「申し訳ありまへんけど、邪魔が入りよったんで一旦ここでお別れですなあ」
「ええい、逃げるな。逃げるんなら一発やらせてからにせんか!」


 ランスにしてみれば、絶好の獲物が二匹もいて、もうちょっとで料理も終わって美味しくいただけるところだったのだ。こうなったら力ずくでも、ちょっと生煮えでも食べてやるとばかりに憤慨する。
 そう猛るランスが飛び掛ってくる前に、勢いを逸らすかのように月詠が呟いた。


「一発……そうですなぁ、お兄さんええ男やしお名前お聞きしてもよろしい? 次負けるときまで身体を磨いて待っておきますわぁ~」
「本当だな!! がはははは、モテる男は辛いな。俺様は超絶最強絶対美形、ランス様だ!!」
「ランスさんですな、では次は必ず。ほな、そういうことで皆さん、さよぉならぁ」
「……そこのピンクの西洋魔法使い、次まで覚えときぃなぁ」


 そういって、月詠はランスに向かってぽやっとした笑顔を投げかけ、千草は計画の絶好の機会の邪魔をした最大の要因であるシィルにむかって憎悪をふんだんにこめた瞳で睨みながら魔法で痕跡すら残さず逃げ去った。

 お嬢様をさらった相手をみすみす無傷で逃がすことに刹那は不満があったのだが、当事者間で取引が成されてしまった以上、今回の勝利に何の役にも立っていないものが口を出すことはできない。
戦場における契約とはそういうものだ、とわかっている刹那は相手をにらみつけるだけに留めて、逃亡していく相手を追おうとはしなかった。
この場における木乃香救出劇の立役者はあくまでランスという男であって、後から来ただけの自分たちがおいしいところだけを取ろうとすることなぞ許されるはずも無いからだ。

 逆にネギは、今まで極悪非道と思っていたランスが、木乃香が返ってきたという結果のみに満足して相手を無傷で見逃したということに、実は自分が理解できないだけで確固とした正義に基づく信念があるのではないか、ということを思い直していた。
ランスの言動は自分にしてみれば確かに許しがたい事が多いのかもしれないが、よくよく考えてみると日本に来てからネギは今まで常識だと思っていたことがことごとく覆されてきた。フィッシュアンドチップスの屋台が道端になかったり、学校の職員にはイレブンシスのお茶の休憩が与えられていなかったりだ。

であれば、ひょっとするとランスたちの世界ではアレが普通なのではないだろうか。
その一種の文化ともいえるものに、英国の文化も伝えるという意味で英語教師として雇われている自分が真っ向から否定する事は良くないとちょっとだけランスのやり方を見直していた。
ランスの目的と、ネギの常識が致命的に食い違っているため、初対面の印象最悪だったランスがちょっといいことをしたと感じたネギはランスが実はいい人なのかな、と思い始めていた。

いつもいい子の幼馴染がお弁当を作ってきてくれても目立たないが、不良少女が雨の中野良猫にちょっとでも優しくしているとフラグがたったりするのと同じ原理である。
そんなわけで、世間一般から見れば未だ悪人であろうランスに対するネギのフラグの一つが立ってしまった。このまま続けていけばネギが攻略可能キャラになるかもしれない。


何はともあれ、ネギは木乃香さえ帰ってくれば問題ないと思っていたので殺さずに逃がしたランスたちのやり方に満足しており、刹那は自分より格上な傭兵が独自に行った取引に口を出す事は常識としてできなかったためそのことについては二人とも何も言う事は無かった。


 もっとも、当事者であればその取引に口を挟むことは自由であり、戦闘を行っていた当事者であるものの一人が先ほどの約束に口を挟んだ。


『なあ、心の友よ………』
「なんだ、カオス。次は混ぜろって言うのか、駄目だぞ。ふっ、モテる男は辛いぜ」
『なにぃ、わしだってわしなりに一生懸命がんばっとるのにいっつもいっつも………じゃなくて。あの女達、今倒しておけばいつでもヤれたんじゃなかったのかのう?』
「へ?」


 もっともなカオスの突っ込みに思わずもう一度先ほど月詠達が消えた場所を見て、それからカオスを見て、シィル、あてなを見る。
そのまま無言を続けるカオスと、先ほどの取引のときにはランスの勢いに押されて口を挟めなかったもののそのランスのほうけた視線を受けて思わずうなずくシィルとあてなを見て、もう一度取引の内容をじっくりと考えるランス。


 千草達逃がす→次に会う→倒す→犯れる(ただし、もう一度会わなければやれない)
 千草達逃がさない→捕らえる→いつでも犯れる


「……………………! あの女、だましやがったな!!」
『というか、気付かないお前さんのほうが悪いんじゃないのか』
「シィ~~ル、何で言わなかったんだ。ええい、お仕置きだ!!」
「そんな、ランス様、てっきり理解されているものだとばかり………」
「言い訳、するなーー!!」
「シィルちゃんばっかりずるいれす、あてなも、あてなも~~」


 てっきりやるやらないは口実であり、本当は戦いの中で通じ合うものがあったために二人を逃がしたのだと思っていた刹那は、その台詞に思わず突っ込みを入れそうになり、続いていきなりこちらに背を向けてナニかを始めたランスたちの行為に二度驚愕に襲われた。
先ほどまで剣をかわしていた相手に欲情し、未だ戦いの跡が残る場所で身体を交わらそうとするとは。

 とはいえ、傭兵とは変わり者が多いものであり、彼らに対して雇い主ではなく同僚とさえ胸を張って言うことが出来るかどうかの刹那が、きちんと学園の生徒を守るという役目を果たしたランスたちに文句をつける権利なぞありはしない。
 何より彼らは刹那よりも早く木乃香の誘拐に気付き、木乃香を守ってくれた。いわば、木乃香の護衛であるはずの刹那の尻拭いをしてくれたのであり、守れなかった大切な人をきちんと救ってくれた恩人とも言うべき存在である。


 本来であれば即座に礼をいうべきであろうが………どうやら取り込み中だということで刹那はこの場で言うことはやめ、最後に深々と一礼をして木乃香を抱え、ネギへと告げる。


「とにかく、幸いな事にお嬢様は無事でした。このままお嬢様が気付かれないうちに旅館にお送りしたいと思います」
「そ、そうですね。では、ランスさん、お先に失礼します」


 そういった知識が十歳ということもあって足りないため(例:たまに電柱に張ってある広告のデリバリーヘルスという文字の意味は衛生兵だと思い込んでる)、遠目からは背を向けて取っ組み合いをしているかのように見えるランスたちに疑問符を浮かべていたネギは、刹那の声に我に返った。

とりあえず、異世界人ということで戦いが終わった後やらねばならない儀式とか、自分の知らない風習とかもあるのかな、と思って今度シィルにあったときに聞いてみるということで納得したようだった。子供とはこういった無邪気な質問で大人を困らせる物であり、天才少年であってもそういったことは普通の少年と変わりなかった。
兎に角、聞こえないであろうランスに一応一声掛けてネギと刹那、そして木乃香は帰路へと発った。

ネギは自分が何の役にも立たなかったとしても結果として木乃香が助かってよかったという無邪気な感想を、刹那は自分は一体何をしに来たのだ、何をしているのだ、という自責の念という爆弾を抱えながら。


Comment

そろそろ読み物に

鬼畜ま!も18までいってるんですし、そろそろネタから読み物に移してもいいんじゃないでしょうか?

簡単に逃がしてしまうところがランスらしいですねぇw
しかし全裸待機をまだ続けなくてはいけなくなってしまった
オナカスイターハイパー兵器マダー?(・∀・)っ/凵⌒☆チンチン

No title

ここは二人まとめて犯されるべきシーンだったな
ネギまの原作なんてたかみち仕留めた時点でランスによる蹂躙決定なんだし

No title

蹂躙決定ならいつでもそれこそいつでも犯せるだろ
わざわざここで取り逃がしても問題ないわな

No title

うーん・・・
いつでもできるって言うなら、何もランスをクロスさせる必要がないね
言いくるめられて逃がすほど、ランスは甘くないし
何の為に、ランスをクロスさせてるのか意味が分からなくなってきてるね

何か話が無駄に間延びしてる感じ
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プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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