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鬼畜ま!17

十七話


 刹那とネギが木乃香の追跡にうつったほぼ同時刻。


「がーっはっはっは、いいぞ、もっと踊れ!」
『もがーもがもがもがが!(ずるいぞう、ランス。マントを解いてわしにも見せんか!)』
「あはははははははははははは」(道中買った柿ピーを食べて酔っ払っています)
「あの、ランス様、そろそろお帰りになられた方が(ぽかん)しくしく」


 一応ネギたちが泊まっている旅館の離れに部屋があるランスたちだったが、生徒達の護衛としてという近右衛門の思いとは裏腹に、食べるだけ食べて、温泉につかったあとは京都の花街へと繰り出し、馬鹿騒ぎを行っていた。
 ちなみに費用は全て経費として出ている。








 元々政府や大企業からこの国で最も重点的にバックアップを受けている麻帆良学園は学生のためだけに大浴場を常時運営できるほど資金に関しては有り余るほど潤滑だ。

 もっとも、政府等も何の見返りもなくこれほどの全面協力を行っているわけではない。それには、魔法というものの現在の地球上における影響力が関係していた。
 魔法というものは今現在一応一般人に対しては秘匿されている。それは、その方針に違反する者に対してはオコジョ化や永久追放、最悪の場合は記憶消去や死刑といった厳重処罰が待っているほどだ。

 しかし、逆に言ってしまえば一般人以外のものに対してはすでに周知の事実なのだ。魔法使いの活動にはどうしても権力の行使によって情報漏洩を防ぐ必要があるため、国家元首等や内閣に属する者など、国の中枢に食い込んでいる者にはすでに魔法という物の存在が認められている。
 そう、戦闘機やミサイルをも超える戦力として。


 今現在、戦場や国家間の争いに対して魔法を使用する事は基本的に魔法使い間の条約で禁じられている。
しかし、人を殺せない、という事と、殺さない、という事には天と地ほどの差が存在する。実際に人を殺せる力を持った者を国家が野放しにする事はできないため、基本的に魔法使いの活動は魔法界の方針に従う義務があるのと同時にある程度の有形無形の国家の制御が及んでいる。



 ここで重要な事は魔法という物の戦力を上げるために必要なものは、既存の技術力でもなければ、既存の軍事力や経済力を背景とした国際社会に対する影響力でも無いということだ。
必要なのは、どうすればより力を引き出せるかという魔法に関する知識と、完全に家系と偶発的に生まれる人的資源にのみ宿る魔力の量。

つまり、現在において発展途上国、弱小国とされている国であっても、広い知識を持つ強力な魔法使いを多く保有する事で、毎年生まれる新生児の中から魔法の素養のあるものを確実に選別し、育て上げる事が可能となり、少ない経費で一流の軍事力を持つ事が可能となるのだ。
 二度の世界大戦を経てようやく資産と軍事力によって築き上げてきた核兵器を頂点とする科学技術によるパワーバランスを、魔法使いという存在はひっくり返す危険性を持つ。

そのため、科学技術により現在の世界情勢におけるパワーバランスの上で強者として君臨している先進諸国は、その土台をひっくり返されないように持ちえる限りの資産と人材を使って、世界間での魔法の戦争使用の禁止と共に自国の『魔法力』を高める事に躍起になっているという現状がある。


 一学園に過ぎない麻帆良学園が異常なまでに優遇されていることの背景がここにある。
 日本国において『経済力』『軍事力』についで自国の力として影響力を高めるため、第二の自衛隊として組み込んである『魔法力』の麻帆良学園に対する資金供給は、自衛隊と同等程度組まれている魔法関係の予算の大半を奪うほど優遇されているものだった。

 その麻帆良学園の学園長である近右衛門にとって、コントロールだけは非常に難しいものの闇の福音に匹敵するほどの力を持ち、しかも魔法使い連盟に所属する魔法使いですらなく、純粋な剣士であるため活動を制限する相互条約の適用すら受けないという非常に使い勝手のいい人間兵器であるランス達の接待費程度は安いものだった。



 無論そんな裏事情など知らないランスだったが、とにかく他人の金だという事で遠慮なく飲み食いして馬鹿騒ぎを行っていた。また、他者をもてなすということについては一日の長がある京都の舞妓たちもそれに対してよく付き合っていた。
何せ、この不景気にお金に糸目をつけないというめったに見られないほどの飛び入りの上客なのだ。

 しかし、何事に対しても終わりはある。特にこういった色町では『粋』という物が重視されるため、草木も眠るといわれる丑三つ時になると、一見の客であるランスに対してはなんとなくそういった雰囲気が漂ってきて、やがて穏やかに宴は終わりを告げた。
 そして、そのころには本場であるJapanと同等と思われるほどの「サービス」を受けてご満悦であったランスも、幾度となくシィルに懇願されながらも却下していたそろそろ帰るという選択肢をようやく選んだ。

 が、その途中、ランス達は持ち前の主人公補正を発揮して自分からトラブルに突っ込む事となる。




「がははははははは、ぽやんとした少女を誘拐しようとする悪党め」
「だ、誰や!」


 突如馬鹿笑いとしか言いようの無い声が人気の無い駅に響いた事に、やたらと言動が小悪党っぽい天ヶ崎千草は思わずお約束どおりに、しかし動揺によって調子の外れた声で、相手を誰何した後に声の出所を探した。
基本的に逃走中であるならば位置を悟られないように声を出すのはご法度のはずだが、見事に麻帆良学園の魔法教師達を出し抜けた事で少々浮かれていた直後にいきなり敵らしい声が聞こえていたことで動揺していた千草は、そこまで考察する事は出来て居なかった。

そして、その問いに対してこちらも結構お約束を踏んでいる(敵国にとらわれたお姫様を助ける等王道勇者的行動を結構取っている)連中は、その問いに喜んで答えた。


「がはははははは、俺様は(可愛い)女の子のヒーローであるランス様だ!」
「その助手シィルちゃん!」
『エター「シィール! お前は助手じゃなくて奴隷だろーが!!」(ぽかん)「ひんひん」………わしの台詞が!』
「あてな2号れす!」


 これ以上無いほどお約束に従って、さながら戦隊物のヒーローのように大声で名乗りを上げるランス一行……どうやら全員多少酔っているらしい。その余りに堂々とした名乗りに圧倒された千草は思わず勢いのみで押されて一歩下がってしまった。
客観的に見てみれば両者とも図ってコントをやっているようにしか見えなかった。

ちなみに彼らはあてな2号が電車に乗りたいというからわざわざ旅館に帰るのに電車を選んだにもかかわらず、運行されておらず人気も無い公共行政に怒ったランスが乱入したためにたまたまこの駅内にいただけであり、別に木乃香の危機を察知してきたわけではない。
ぶっちゃけ芸術的面でのセンスと知性以外の分野では最高値に近い才能を持つランスは、運も一流なため近右衛門との契約上不利にならないように自然といい状況が転がり込んでくるようなものだった。



千草からして見れは麻帆良学園の魔法使いの人間が現れるなどと想定の範囲外だった。
わざわざ事前に手間暇掛けて、人払いの呪符は貼ってあったはずなのだが、これは人の意識に所定の場所を避けて通るよう働きかけるものであり、人間ではないものや魔力を持つ者などに対しては効力が弱まってしまうという性質を持つ。
で、それらをあっさりと通過してきたランスパーティの内訳はというと、


ランス    ここまでくると人間と呼びたくない。一応ちょっとは魔法力もある。
シィル    バリバリ魔法力持ちの魔法使い。
あてな    大魔女フロストバイン謹製人工生命体。 
 カオス    あくまで元人であり、現無機物の魔剣。


 まともな人間というか一般人が一人もいないこのパーティに人払いの呪符が効くわけがなかった。

 まあ、それはさておき千草の脳内にはせっかく麻帆良学園の魔法教師達を振り切ったにもかかわらず、いったいこいつらは何なんだ、という言葉が渦巻いていたが、この仕事を成功させない事には未来が無い千草は、思わず憎憎しげに警告を発する。


「誰か知りまへんが、邪魔立てするなら蹴散らしますえ」
「…………まさか女? これはまたケバ子に負けず劣らず妙な格好だな。だが……ぐぅっふっふ」


 しかし、女の凄みという物を存分に効かせたドスの効いた声ですら、ランスにとって見れば単なる変な物体が少女をさらっているという事から、どうやら誘拐犯は女らしいという風に情報を変換したに過ぎなかった。
そのため、その脅しに引く事はなく、むしろキュピーンと目を光らせて千草の顔を確認すると、いやらしい笑みを浮かべたぐらいだった。


「くぅ、馬鹿にすんのもいい加減にしぃ」


 その笑みに馬鹿にされたと感じたのか、千草は思わず懐に手を入れ、麻帆良学園の魔法教師に早期に発見をされた時用にとっておいた切り札を取り出す。
 呪符使いの特性はあらかじめ準備さえしていれば一瞬で魔法を発動できる事だ。ちんたらと魔法を唱えなければ超常現象の一つもろくに起こせない西洋魔法使いと比べて、それは不意打ちにおいて圧倒的なアドバンテージを誇る。
 今回もその利点を存分に生かして、千草は何万回も繰り返した動作を持って速攻で魔法を発動させた。


「えらい言うてくれはりますけど、これくらってもそんな大口たたけます? お札さん、お札さん、うちを逃がしておくれやす」


 猿鬼を解除して前衛として立たせてはなったその声に従って、符によって呼ばれた水が大量に現れ、ランスたちのほうに流れ込んでくる。が、その千草の切り札の一つを見たにもかかわらず、ランスたちはほとんどあわてる事はなかった。


「ふん、シィル、やれ」
「はい………むにゃむにゃむにゃ。えい、『氷雪吹雪』」


 ランスの命によって魔法の準備をしたシィルの掛け声によって一気に気温が氷点下に下がり、あたり一面に急激に吹雪が荒れ狂う。
 シィルの放った氷雪系の全体魔法が一瞬で発動し、現れるそばから水を凍らせていく。

 彼らにとって水系統の魔法とは、その殺傷力の無さと使い勝手の悪さからほとんど絶滅しかけている魔法だ。
何しろ、基本が水だ。炎や雷のように触れるだけでダメージを与えるような熱量も持たず、風のように肌を切り裂くほどの速度も持たない上に、大地のように全てを押しつぶす質量すら無い。
水、という属性は戦闘に用いるにはあまりにも利点が少なすぎると言えよう。

ランスたちにしてみればこの水全てがすくみず少女型女の子モンスターのちゃぷちゃぷの使う濃硫酸であったり、かつてのマリア=カスタードが得意とした魔法である迫撃水ほどの勢いがあったりしてもさほど堪えるものでもない。いわんや、一帯を水に浸し動きを制限することが目的のため広範囲の駅構内に開放した量はさておきそれほど勢いの無い千草の魔法では、シィルが魔法を詠唱するための一拍以上の足止めにはなりはしなかった。

 もっとも、これはランスたちのみに限った事ではなかった。
ランスやサウザンドマスターほどの化け物じみた才能が無い千草の放った大水なぞは、密閉空間をいきなり大水でおおいつくすなどの工夫をせずに、開いた空間で使用してしまえば実戦経験の極端に少ない者ならばさておき、ある程度の勘と実力を持ったものならば容易に防げる程度のものだった。


 しかし、幼い頃の大戦時に西洋魔法使いに両親を殺された事によって一族に代々伝わる技を完全に伝えられる事は無く、ほとんど独学と他者の技を見て盗むことによって符術を身につけてきた千草は、今まで実戦で慣れ親しんだといえるほど、これを使ったことは殆どなかったためこの技の欠点がわからず、必殺の一撃が破られた事に大きな衝撃を受ける事になる。


「なんでそないにあっさりと…………く、熊鬼!!」


 動揺のままにも、それでも闘争の意思を捨てなかった千草は自分の持つ護衛の中でも最強に近い式神を召喚する。続いて、戦力にはならないまでも妨害や隙を作るために地面に袖から取り出した符をばら撒き、半数近くを小猿と燕に変化させ、再び身にまとった猿鬼、並び立つ熊鬼と共にランスたちにいつでも襲い掛からせられるように構えさせる。
ある程度の準備さえ行っていれば、数種類の魔法を同時発動させてもさほど魔力を食わないという符術の特性は、術者としての才能があまり無い千草にも無数の下僕を所有させていた。二枚目の札による大水がほとんど通じなかった事に、千草は自分の最強の技すら通じないのではという恐怖にとらわれていたため、とにかく数で押す戦術に出たのだ。


 が、追い詰められた悪役が、「やっておしまい」と戦闘員の数だけを頼りに襲わせるのは古今東西敗北を義務付けられている。致命的に才能が足りない千草では、木乃香が京都に来るという情報をつかんでからの短い時間に、熊鬼と猿鬼以外には戦闘力のある式神をさほど大量に作り出す事が出来なかったことによる、「怪人」の不足もそれに拍車をかけるはずだ。
にもかかわらず、一方的に術を防がれた動揺から立ち直れなかった千草は、あらえっさっさほいさっさ~と言わせはしなかったが式神たちに一気に攻撃を命じた。

 が、それは歴戦の冒険者であるシィルの前にはうかつとしか言いようが無い対応だった。今度はランスに命じられる前に詠唱を終えたシィルが一歩前に出て、大地に炎の花を咲かせる。


「えい、『業火炎破』!!」


 千草たちの足元から急速に巻き上がる炎、そしてその直後に起こる爆発。それはシィルが視認できた全ての式神、そして千草に襲い掛かる。魔法の射手のように数を増やして狙い打つのではない、全てのものに均等にダメージを与えるシィルの火炎系中級魔法によって、燕や小猿といった低級の式神は一瞬で燃え尽きる。
 そして、地面から均等に誰に対しても巻き上がるという事で誘拐されている木乃香の身を考慮していないかに見えたその炎は、見事なまでにうまい具合に木乃香を避けて千草にのみダメージを与えた。

…………いや、正確には千草の纏っている気ぐるみのような式神、猿鬼にのみだ。
 身体能力に劣り、気や魔力を自らの身体に供給する事も苦手とする呪符使い天ヶ崎の一族が編み出した、式神を身体に纏って戦うという千草が唯一先祖から受け継いだ秘術によって、彼女自身はまったくといっていいほどダメージを受けていない。

 しかし、もはやその身に纏う猿鬼はかなりの耐久力を奪われ、先ほどより高威力の魔法を使われたとしたら今度は防ぎきれるかわからなかった。
 そして、それは業火炎破に耐えることに成功し、唯一千草と並び立っていた式神、熊鬼にとっても同じだった。熊鬼は猿鬼のように千草の身体を覆っていない分だけ鬼として現界していた密度が高かったため猿鬼ほどのダメージは受けていなかったが、まったく無視して戦いに挑めるほど軽い損害でもなかった。

 この時点で、千草の持つ式神の殆どが封じられたといっていいだろう。
 基本的に前衛がいなければまともに戦う事すらできない呪符使いにとって、熊鬼のみでこのおかしいくらい強力なあの女西洋魔法使いに勝つ事はできないと千草は思い知らされた。
ましてや相手はまだ正体不明な相手が二人もいるのだ。確実に彼女一人では勝ち目が無いだろう。



 千草は思わず手元の麻帆良学園の学園長の孫に視線を移す。
 彼女をすぐさま返した後謝罪して見逃してもらおうか、一瞬そんな事が頭をよぎる。

この連中にはおそらく自身の最強の技である『三枚符術 京都大文字焼き』もおそらく通用しないだろう。
 で、あればこれ以上抵抗する事は無意味では無いだろうか。誘拐ということは確かに大罪ではあるが、まだ計画も知られていないであろうし、直接身体に危害を加えたわけでも無い現時点であれば、命まではとられないのではないだろうか。
千草の心のどこかがそう弱くささやく。
 何の意味もなく、殺されてしまうぐらいであれば………


 だが、千草は頭を左右に振ってその弱気な心を追い出した。
 そして、無理に胸の内で燃える憎悪の炎に燃料を投下する。

大戦中、卑劣な手段をとった西洋魔術師に後れを取った父と母に代わり、天ヶ崎の名を世に知らしめ、あの卑怯な西洋魔術師達に思い知らせることこそが自分の生涯の使命である、と。
そのため、かつて千草は呪符使いが多く所属する関西呪術協会に身を寄せ、必死で権力にすがり付いていて少しでも西洋魔術師の力を削ごうとしていたが、いまや西洋魔術師の集まりである関東魔法協会に協力しようとする関西呪術協会なぞに頼る事はできない。
が、それほどまでに才覚に恵まれたわけでは無い千草は、自らの力のみであのにっくき西洋魔術師の代表格であるサウザンドマスターのように魔法界に君臨することは出来ず、自分にはほえほえとなんの苦労もなくちやほやされて生きてきたであろうこの女の膨大な魔力が必要だということを十分感じていた。
 それは、もはやこの機会を逃してしまうと相手の警戒も強くなるであろう為、チャンスは大幅に少なくなってしまうということを誰よりも焦燥感と共に持っていたということでもある。

 千早にとって使命を果たせなくなるのであれば…………死んだ方がましだ!
 たとえかなわぬまでも、可能性が少しでもあるうちは諦めず、呪符使い天ヶ崎の意地を西洋魔術師に刻んでやろうではないか。

 と、千草が悲壮な決心を固めたそのとき……


「遅くなりまして~」


 頭上から唐突に声と人影が降ってくる。その人影は相当の高さから来たにもかかわらず、地面への着地に全然堪えた様子もなくすぐに二刀を構えて千草の前に立つ。
それを見て孤立無援の状態で真っ青になっていた千草の表情が少し緩む。


「月詠はん! ええとこに」
「すみません、ちょっと花摘みにいってたもんで遅刻してしもて……そっちの方たちは初めてですな~~~」
「何をのんきな。どっからみても追っ手や!」
「それはそれは~どうもおはつに~~~神鳴流の月詠言います~~。どうぞよろしゅう」




 絶体絶命かと思われた千早を助けに、二刀流の剣士が乱入して来た。
 その対戦相手であるランスたちにとっても突然の新手の登場だったが、突如相手が一人増えたという以前にランスの目が輝く。
 
眼鏡。
たれ眉。
眠そうな瞳。
 薄い色素のストレートの長髪。
 フリルいっぱいのふわっふわの洋装。
でかい丸帽子。
リボン。
 低身長。
 二刀流。

 これで猫耳と猫尻尾でもついていればパーフェクトだが、現時点でもおいおい先生狙いすぎだろこれは、というぐらいいろいろな属性をつけてある月詠にランスの食指が動かないはずはなかった。眼鏡っ娘なら、つるぺたなのもプラスに働くことだし(ちなみに月読、このお話の中ではあの外見で十七歳だったりする)。
 あまりに変な格好であるため、一応美人ではあるもののあまり積極的な反応はなかった千草を見たとき以上にやる気を見せて叫んだ。


「グッドだ!! シィルはあの猿の着ぐるみ女を抑えろ。俺様はあの眼鏡っ子をヤる。あてなはそれ以外の雑魚を押さえていろ!!」


 やる気満点のランスの掛け声に、シィルたちもだが何より千草たちも身構えた。


「なんですのん、この人~~~?」
「その男の方はよう知らんけど、ピンクの髪の女のほうは尋常じゃ無い魔法使いや。なんとかうちと式神らが抑えときますから、早めに片付けて加勢しておくれや」
「なんや身の危険を感じるんやけど………まあ、これもお仕事や、ほな一つお手柔らかに~」


 そういって、手に持った大刀と小刀を構える。が、表情はこれまたニコニコしていながらほんの少し困った様子に見える。


 月詠は流れの傭兵である。一応神鳴流剣士となっているが、これは依頼を受けるときに神鳴流の名を出したほうがネームバリューとして良いためで、もともと月詠は二刀流を主とする流派から移ってきた外様であり、さらに大きな野太刀一本で魔物と戦うために特化している神鳴流にはとっくに見切りをつけて抜けている。とにかく、様々な流派の技を吸収しながら傭兵家業をやっている。
実際、神鳴流を習っていたのはほんの僅かで、その才覚と元よりの二刀流の修練によってある程度の技を神鳴流より盗んだ後は掟ばかり厳しくて実入りの少ない神鳴流を抜け、それを自己流に改良して対人用に使い勝手が良いようにしている。

 そのため、刀鍛冶が昔ながらの製法によって気を込めやすいように一本一本丹念に鋳造した神鳴流剣士であれば誰もが愛用する野太刀ではなく、ダイアモンドに匹敵する硬度を持つ炭化タングステンの超硬合金を鋼で挟み、工業機械で製造した特注の模造刀を大小二本使用しているほどだ。
 これによって、刀に気を通す事は少々やりづらくなったが、そもそもほとんど人間を相手にする事を目的として雇われる裏の傭兵業を営む月詠にとって見れば、必要なのは気の通った武器を必要不可欠とする対魔物戦用の破壊力のある太刀ではなく、相手の武器ごと切断できる切れ味のよさと、小回りの聞く取り扱いであるための選択だ。
 実際、並みの使い手であればたとえ気を込めたかの名刀正宗を持っていたとしてもこの模造刀によって刀ごと一刀両断にできる。そして、人間という物は大概魔物ほど硬い表皮を持っていないため、急所に刃筋をかすらせるだけでも命を奪う事ができる。
 ようは、相手の気や魔力による防御を潜り抜けられる程度の気を込められるなら、武器として優れた工業刀のほうを選ぶほうが合理的だと判断したのだ。

 それは神鳴流剣士が退魔の誇りと共に持つ日ノ本の心を込めて作られた日本刀ではない、血の通わない合理主義が生み出した現代の人斬り包丁だった。

 つまり、何がいいたいかというとその使い手である月詠は退魔の練習として人とも戦う神鳴流剣士ではなく、純粋に人の肉を切り裂くための剣術を使う、対人戦闘のスペシャリストだという事だ。
 それゆえ、この局面において千草からランスの相手を任されるのはごく自然な流れといえるだろう。


 が、ここで一つ問題が発生する。

ここは日本である。そして、この地において剣士、というより戦闘を行う人間といえば大きく分けて三つに大別される。
一つは刹那や月詠に代表される気と刀で戦う侍スタイルの神鳴流一派のような剣士。
もう一つは関東魔法協会に代表される西洋魔術師。 
そして、関西呪術協会に代表されるような東洋の秘術を使う陰陽術師である。
 まあ、魔法使いの従者や前鬼と後鬼といった存在もあるが、基本的にこの三種類がメインとなって戦闘を行う事が多い。

そのため、主に活動の場を日本に限定している月詠は、これらの相手をする事に特化した技術を日々磨いている。実際、上記の武器選択もこれを意識したものであり、合理主義者である月詠が例えば中国で活動を行っているのであれば、両手に偃月刀や大口径の拳銃でも持っていたかもしれない。

 あまり鎧を着けず、回避する事に意識の重点を置いて攻撃を受けた場合は気を込めた胴着や肉体である程度軽減して後は踏ん張って精神力だけで耐える神鳴流剣士。
 魔法のために使う精霊は工業製品や鋼と相性が良くないためにあまり鎧や防弾チョッキなどは身につけず、魔力で持って身体を保護することによって防御を固める事を重視する西洋魔術師。
 そして、動作の一つ一つが術の発動への前段階であるため、動きの阻害するような装備はつけられず、体を守らせることは式神と防護の護符に任せ、ゆったりとした衣服をまとって後衛で戦う陰陽術師。

 これらに対しては、ある程度の気が篭った超硬度の工業刀があれば、武器ごと切り裂き、魔力を気で相殺して潜り抜け急所を狙い、高速で接近するか遠距離から気を放つ事で打ち倒す事ができる。
 そして、実際傭兵家業についてから両手両足では利かないぐらいの神鳴流剣士らを月詠はこの刀で葬って来た。


 で、今回の相手だが……………見るからに西洋の騎士を印象付けるかのような鎧に盾、止めは130cmを超えるかのようなバスターソードを片手で持っている。
 どう見ても日本で相手をする事は少ないとして月詠が対応方法の修練を切り捨ててきた相手だ。

無論、傭兵家業をやっているからには今までぶつかった事が無い、絶対に勝てないなどとは言わない。だが、今まで出会った西洋の剣士はどうやら全般的に気を使うことが苦手であるようであるため、重火器が発達してきた今日において純粋な剣士はもはや現存しておらず、基本的に魔法剣士又は魔力を供給されている従者である。
そのため、気を弱点としている事から今までなんとか勝利をもぎ取ってきた……が、それでも常に苦戦を免れ得なかった。

 つまり、戦闘スタイル的に西洋の剣士は苦手な月詠であり、さらに相手の体躯から魔力のほとんど感じられない事からおそらくすでに途絶えたと思われる純粋な西洋剣士が今回の相手という事なのだ。



(いくら特注の刀とゆうても、このほっそい刀であんなもん何度も受けられへんですしな~~~)


 相手の持つ巨大な剣と、それを片手で扱うであろう臂力。全身を鎧で固め、盾を持ち急所への一撃必殺を許さない堅い守り。
 いかに鋼鉄すら両断する自負があろうとアレほど分厚い鎧を、しかも戦闘というお互い動いている最中に確実に切り裂けるという自信は無いし、いかに世界最高の強度を持つ超硬合金を使っているとはいえ、この細さの刀を曲げず、刃こぼれもなくあんな巨大な剣にぶつけて鍔迫り合いや武器ごと切り裂く事なぞできるはずが無い。

 だが、傭兵が前金をもらった以上キャンセルすることは信用問題になり、ここで自分から抜けてしまうとこの先仕事が来なくなって干されてしまうかもしれない。
 本来であればここに来るのはこの木乃香嬢の護衛をしているという年下の神鳴流剣士の先輩だったはずだが、当てが外れたからといって抜けるのは傭兵の義に反するというものだ。強い少女が好きとは言っても趣味だけでは生きていけない。
 いかに自信が無いといっても、この月詠の名にかけて依頼主の希望はかなえて見せようではないか…………………依頼達成時の支払金も多い事だし。


 今回の相手は完全に自分の苦手な戦闘スタイルであるという事を理解していながら、月詠は先手必勝とばかりに踊るような太刀捌きでランスに斬りかかった。



Comment

最近の更新ラッシュを毎日楽しみにしてます^^
月詠と千草は好きなキャラなのでエロも期待してます!

お初です

鬼畜ま!一気に全部読ませていただきました。
ランスのランスっぷりが素晴らしくいい味を出してると思います。自覚したシィルの恋心に胸キュンしてしまいました。
これからもネギ世界で大暴れするランス一行を楽しみにしています。
ランス様、月詠ちゃんは美味しくいただいちゃってください。

初めまして

初めましていつも楽しく拝見させていただいております。
今回はちょっと気になる点がありましたので失礼と思いつつもコメントさせていただきました。

気になる点その一
>刀鍛冶が昔ながらの製法によって気を込めやすいように一本一本丹念に鋳造した神鳴流剣士であれば誰もが愛用する野太刀
鋳造とは金属を型に流し込んで製造する手法で、刀などに使用される製造方法ではありません。
刀は鍛造という熱した金属を叩き、内部の空隙を無くし強度を高める手法が使われております。
これは日本刀などに限らず、西洋剣や中華刀なども同じ手法が使われております。
鋳造で刃物を作っていた時代は青銅器や鉄器が出現したころまで遡りますのでご注意を

気になる点その二
>ダイアモンドに匹敵する硬度を持つ炭化タングステンの超硬合金を鋼で挟み、工業機械で製造した特注の模造刀
こちらに模造刀と書かれていますが、模造刀とは刀剣類に分類されていない刀剣を模した物のことを指します。
刀剣類とは硬質性を持つ材料で製造されたものや、人畜殺傷性があるものが刀剣として定義されます。
よって炭化ダングステンや鋼を用いて、日本刀の形状をしているならば
例え刃付けをしていなくても刀剣として扱われます。



軍事ヲタクとしてかなり気になったので指摘せざるを得ませんでした。
指摘した点以外特に思うところもなく非常に面白い作品だと思いますのでこれからも頑張ってください。

、、、ついにネギま原作陣での被害者第一号が現れるのか!?
全裸正座待機して待ってますww
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プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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