スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

ピグマリオン1

ドラゴンに首ったけ 外伝『ピグマリオン』





         Why Can't The Tristain ?







魔法という極めてファンタジーな存在が闊歩するハルケギニア世界において魔剣聖剣は数あれど、その中で伝説に残るような存在となるとぐっと絞られてくる。

少しばかり高価な剣ならば喋れて当たり前、知性を持っていて普通、というような魔法全盛のこの時代において、ただ喋れるだけならば置物と変わらない。
かといって、魔法という力が余りに広まった今代においては、近接戦闘、あるいは距離のある程度定まった間接攻撃しか出来ない武器というものはあまりに無力、結果として武器が歴史に残るのは極めて困難なのだ。

あらゆる物を飲み込む炎が、万物を流しつくす水が、距離をも越える風が、すべてを阻む土がそういったものすべての代用としてその頂点に君臨している。
そこには、単なる武器が入る余地などほんのごくごく僅かしかない。


だが、その事実は逆説的にあることを論証している。
そこに入り込める、武器の力だ。

ただ少しばかり強いだけでは意味がない。
ほんのわずかばかり知恵が回ったところで無意味。
魔法よりも鋭く、魔法よりも幅広く、魔法よりもはやく。
そんな武器でなければ、伝説に残ることなど許されない。


だからこそ、今なおその名を轟かせる『ガンダールヴの左腕』という武器の存在がどのようなものかは、もはやこの話の読み手には語るまでもないであろう。
千年というときを経てなおその心を磨耗させるにいたらなかった、なまじの人よりよほど強き心を持つ知性を持つ剣。




これから語るは、その剣が持たざるを得なかった千年の時より重い絶望の闇。
どれほどのものか、覗いてみるとしよう。














『くそっ、もう……いい加減に、相棒を開放してやってくれ!』


人の声帯から発せられるものとは何処か違う無機質な、しかし感情の篭った声でデルフリンガーは叫ぶが、いくら知性を持つのみならず数々の特殊能力を持つとはいえ、所詮彼は剣だった。
手足をもたぬ身では明確な危機が力尽きてもはや動けぬ彼の相棒のそばに近寄ってきてはいても、離れた位置に落ちてしまっていてはかろうじてその手に己を握らせることが出来る位置にまで近づくことだけで、その身に残っていた吸収した魔法の力のほとんどを使い果たしてしまった。

もはや相棒の体を操って逃げることさえ出来ず、しかし意識がある故にそれから目をそらすことさえ出来ない彼に出来ることは、ただ叫ぶだけだった。



しかし、『それ』は待ってはくれない。
当たり前だ、その死神の刃の担い手にも時間がないのだから。


『なあ、まだ十分じゃないってのか! 異界に一人投げ出されてきた子供一人をここまでいたぶるってのかよ!』


どれほどデルフが声を枯らして叫んでも、哀願しても、罵声を浴びせても、その危機は―――使い魔召喚のゲートは止まらない。


『まだ血が足りねぇってのか! まだ死ねっていうのか!』


ゆっくりと、ゆっくりと彼の相棒たる黒髪の少年の下へその光は進んでいく。

どれだけ叫んでも、今まで一度も止まる事のなかった契約だ。
当然ながら、今回だけは止まってくれる、などという都合のいい事態も起きはしなかった。
その事実に、再び悲劇が繰り返されることが約束されていることを幻視して、デルフはなおも悲鳴を上げる。


召喚のゲートは、使い魔として契約される対象を、最も相性のいい主人の下へと転移させる。
それが近づいてきている以上、ここにもはや死んだように倒れている少年の行く先など考えるまでもない……例え場所が離れても、時を越えても、彼の主人はたった一人。それが変わることはありえない。
それほどまでに、デルフはこの光景を何度も見てきた。

呼び出される先は、眠る彼の相棒の最愛の少女の前。
ここに倒れる少年が心底守りたいと願い、再開を誓った誰よりも会いたい主人に、再び会えることをひょっとしてこの黒髪の彼は心底喜ぶかもしれない。

そもそも、ここにずっと倒れていれば彼の相棒は確実に死に至る。
助かる為にはこのゲートをくぐり……その先にて治療を受ける他は偶然誰かが通りかかり、高価な水の秘薬を使ったのと同等程度の高度な治療魔法を施してくれる、という万に一つもないであろう幸運を待つしかない。
そんなことが本当にあると信じられるほど、デルフは楽観的ではない。

故にわかっていた……このまま死なせたくなければ、この現実を受け入れるしかない、と。


だが、それが分かっていてもなお、デルフにとってそのゲートの光は単なる処刑台のギロチンの刃の輝きにしか見えなかった。


そこは、このゲートを越えて言った先の世界は彼を傷つける。
その身を損壊し、その心を磨耗させ、その魂に拭えぬ瑕疵を刻み付ける。
例えどれほどこの少年が望んだとしても、例えこの場で命と引き換えになるとしても、それを常に傍らで見つめ続けなければならない身としては決して薦めることは出来ない未来だ。


だが、止めることは出来ない。
デルフにはむなしく叫ぶ他に何も出来ない。
所詮、その身はただの冷たい金属の塊でしかないのだから。


その神聖にして悪夢のような現実の前でデルフに出来ることなんて、何もなかった。
ただ、何度も繰り返した胸の奥の単なる誓いを、再び繰り返すことしか出来なかった。


『くそっ、分かった。後一回だ。後一回だけで、相棒を……ヒラガサイトをホントの嬢ちゃんの元へ帰してやる、帰してみせる!!』


もう何度目になるのか、自分でもわかっていないほど繰り返したその台詞を再び唱えて、ガンダールヴの左腕と称される伝説の魔剣デルフリンガーは、ようやく返ってきた世界を再び離れ、今代の担い手である平賀才人とともに異世界より来た竜の荒れ狂う世界へと呼び出された。











「それでは失礼します~」
「え、ええ……気をつけて帰りなさい」



立ち去っていくメイド姿の少女を見て、まるで燃え尽きたかのようになっているルイズを尻目に、デルフはサイトに対してひそひそ音量で声をかけた。


『……なあ、相棒』
「どうした?」
『一応嬢ちゃんにそこの武器屋にはいらねえか、って提案してみねえ?』


おしゃべりとはいえそれほどまでこちらの行動には口を挟まなかった相棒に、唐突にそんな提案をされてサイトは思わず眉をひそめた。
どこが、と明確に言えるわけではないが、なんとなくいつも皮肉屋でそのくせ極楽嗜好のデルフとしては、「らしくない」ように思えたからだ。


「なんでだよ? 俺はお前がいれば十分だぜ」
『くぁ~、青い、青いぜ相棒。相棒はガンダールヴなんだから、少しでも選択肢は多い方がいいはずだ』


だが、そんな違和感もデルフと会話を続けるうちにいとも簡単に消えた……少なくとも、サイトの中では。
その程度の演技力など軽いものだ、というばかりにデルフは会話の流れをコントロールして、自ら望む方向へと進めていく。
経験差、というものはたとえ剣と人といえども馬鹿に出来ないものなのだ。


「そうか? あんまりガチャガチャ持ち歩くのはどうかとおもうんだけどな」
『おいおい、ガンダールヴの一番の能力は、「手にした武器の達人になれる」だぜい?』


だからこそ、その経験を持ってデルフはサイトに語りかける。
始めは極論を出していき、相手の反論を一つずつ潰していくことで自身の説得力を上げるその方法に、デルフの生きてきた年月と比べればまだ卵の殻がついているぐらいのひよっこであるサイトはむっとして即座に反発して見せた―――デルフの思惑通りに。


「わかってるって、それぐらい」
『いいや、わかってねえよ。おせっかいだが言わせて貰うぜ……剣だけ持つんだったら剣の達人と対等にしかなれねえ。それじゃ、伝説の使い魔の意味がねえ』
「でも、今までお前だけで十分やってこれたじゃんかよ」


デルフは、ガンダールヴの左腕を自称している。
ありとあらゆる武器を扱えるガンダールヴという存在を時には本人以上に深く知ってなお、その超人に振るわれる武器として他のどんな武器よりも自分は相応しい、と主張しているその覚悟は、きっとガンダールヴ本人が想像するよりもずっとずっと魔剣自身にとっては重いものだった。

実際初代のガンダールヴと共に戦い、共に駆け抜けてきた経験があっても、そう容易く名乗れることではないことは重々わかっていても唱えられる名前。
年月とともに零れ落ちた記憶は多くても、それでもサイトよりもよほど経験豊富な歴戦の兵として、今までデルフは相応しい働きを時にはその力で、時にはその言葉で示してきた。


そのデルフは、言い聞かせるようにサイトに向かってガンダールヴという能力を教えていく。


『何でも使える相棒がただの達人みたいな戦い方する必要ないってもんだ……時には剣、時には槍、時には弓。相手の意表を突いて短鞭を使ったかと思えば、すぐに槌で追い討ちをかけるのが正しいガンダールヴの戦い方だ』
「おおーーー」


ガンダールヴの一番の能力は、『ありとあらゆる武器を使いこなす』ことだ。
それにともなって身体能力の向上があったり、その強度が主人に対する心の震えに比例する、という能力もあるが、それはおまけ。
あくまでメインは、武器の扱いだ。

そういったことを頭に入れた上で考えてみると、その能力の持ち主がいろいろな武器を手に取らないことは確かに余りにマイナスに思えてしまう。
デルフ自身が語ったように、剣一つを持ってそれを振るうだけの戦い方で戦うのであれば、それこそガンダールヴは単なる一達人の位置まで落ちてしまう。

そんなものではない。
伝説の使い魔はそんなにアッサリと代用が効いてしまうようなそんなものではないはずなのだ。


「なんか詳しいなあ、お前。こないだまで記憶喪失だったくせに」
『……ま、剣も男もいろんな秘密があるほうが格好いいだろぅ、おでれーたか? ま、話を戻すなら、要するにいろんな武器が手元にありゃそれだけ相手の意表をつけるし、選択肢も一気に広がるってもんだな』


徒手と戦うときは剣、剣と戦うときは槍、槍と戦うときは弓を持つように、通常の達人では絶対に出来ない、相手によって使い分けるという戦法……ことによっては剣を持っていると油断している相手に短剣を投げるようなやり方こそがデルフが知るガンダールヴの戦いだ。

メイジに対しては、相手の腕を縛るような投げ縄を使うべきだろうか。
あるいは、相手の口がふさがるようにその口内に毒玉を投げ込んでもいいだろう。
もっと単純に、正々堂々たる剣捌きを見せた後に一度引いて、相手が気を抜いているところに忍び寄り背後からブスリとやっても良い。


そんな、臨機応変、多種多様な戦いこそがガンダールヴの戦い方だ、とデルフは思っている。
飛行機械や戦車といった、彼自身が想像も出来ない兵器がこの世に存在する、ということを知らぬ単なる一剣の主張としてそれは、実に真っ当なものだった。
それゆえ、彼にとって右手に槍、左手に剣というのはあくまでそれを端的に示した標語のようなものでしかない。

だからこそ、デルフはサイトに自分以外の武器の購入を強く勧める。
殺さずに叩きのめす、という戦い方であるならば、切れ味を自在に調整できる己以上の武器はそうはないとは思うが、その制限を取っ払うことがもし必要であるならば……


「それじゃあま、一回入ってみるとするか」
『おう、それがいい、それがいいぜ』


ガンダールヴは使い魔として決して『竜』に劣らない……その左腕は、そう確信している。








ほこりに塗れた空気が開いた扉の先から流れてくるような感覚とともに中に入ったデルフは、その中の懐かしい光景に目を細めた。

丁重に磨かれ、飾られている大剣やぴっかぴかの鏃。誰がこんなの使うんだ、というサイズの斧や子供用と思われるような小さな騎乗槍。

すべて、デルフが伝説としての記憶を捨ててからしばらく、流れに流れてたどり着いた当時のままだった。サイトは以前よりガンダールヴの割りに武器を重視していなかった為一度しかここには訪れておらず、それゆえにそのような感慨はないのではあろうが、デルフにとっては久々に昔住んでいた住まいを眺めたような感覚があった。

そんな彼に、店屋の親父から声が掛かる。

そのとげのあるいいように思わずカチンときて言い返してやろうとも思ったデルフだったが、まあ無理もあるまいとこの場では矛を収めておく。
先ほどまでここにいたのは完全に今の自分と一致した存在ではないが、それでも過去の自分だ。
当時の自分が己が何物であるのか、ということも忘れてただただこの中で暇をもてあましながらひたすらに食っちゃべっていたことを考えると、ある程度は納得が出来たからだ。

店主からすれば、ようやく出来た厄介払いがあっという間に帰ってきた……それも所有者を変えてだ。
警戒するのも無理がないと思ったデルフは、彼を安心させるように否定の言葉を投げてやった。

乱暴に一山いくらといった感じで樽に突っ込まれたかつての同僚達の前にまで今の所有者を連れて行く。
そこにあったのは、それこそそんな扱いをされてもある意味仕方のない武器ばかり―――余りに古びた短剣に、作られた当初から軸が歪んでいると思われる矢、大きく欠けた剣に錆び錆びの斧、錬金で失敗しているのか無駄にてかてかしている鞭などだ。
同じ武器として彼ら自身が悪いからこのような姿になっているのではなく、使い手が馬鹿ばかりだったから、作り手が余りに未熟だったからこのような不当な扱いを受けているのだ、と抗議したい気持ちは山々なれど、客観的に見て使えない武器とみなされるに十分な外見をした武器たちがそこにあった。
ハルケギニア世界は剣と魔法の世界とはいえ、余りに比重が魔法に傾いている。
そのためそれほど武器は重視されていないが、そんな世界においても駄目武器とみなされたものばかりだ。

その前に立ち、相棒であるサイトはなんともいえない目でデルフを見つめる。
いくらなんでも『鉄くず寸前!』と名一杯アピールしているような武器が使い物になりそうには見えなかったからだ。


「……まあ、ルイズに小遣い貰っている身だからしかたないけど、流石にこれはどうかと思うぞ?」
『まあまあ、大丈夫だぜ、相棒。こっちにゃ考えがあるんだ……お~い、ここにある奴は全部いくらぐらいなんだい?』


返ってきた答えは、剣の分際でえらそうに言うねぇ! 買っていただけるならデル公の同類なんぞ目方代だけで十分でさあ、旦那、というものであった。
それを聞いて密かににやりとするデルフ。

たしかに、ここにおいてあるのは先ほど述べたようなガラクタがほとんどだ。
それに値段をつけるのであれば、場所ばかり取って全然売れないのだからくず鉄扱いで目方だけで適当に値段をつけるのは分からないでもない。
だが、伝説の剣である自分がここに眠っていたように、ここには店主の技量では理解できなかった掘り出し物が眠っていることもかつての退屈な時間より確信していたからだ。


もちろん、すべての武器の特性を瞬時に理解できる『使い手』では勿論なく、それに振るわれる剣でしかない彼自身には一般的な教養の範囲を超えて周囲の武器のよしあしを見分けるだけの能力はない。それゆえ、今までこれらの武器とともに一まとめにおかれていたときは、どうもおかしい、何か秘密があるぞこの武器には、と思っていても何も出来なかった。
そもそもあの当時はデルフ自身も半ば自棄になっていたので、わざわざそれを店主に伝えてどうこうしようと思うことすらなかったのだから。


魔法使いが己の上位に立つことに、不満を持つ平民はそれこそいくらでもいる。
武器などというメイジであれば使わぬものを作るものの中には特に多かった。
当然、そこには魔法使いを何とかして打倒できないか、という悪足掻きが込められている率も、割と多かった。
店主とてそれは知っているが故にある程度構造や作り手の意図が理解できたものに関しては別枠にてきちんと正規の武器として並べられてはいるものの、その内面が失伝するもの古いものについては、わけが分からぬ、もはや誰にも使えない邪魔くさい武器、とされてデルフ同様ゴミ扱いされていたものも、その総数が多いだけに結構な数があった。


「いくら安いってもよ、いくらなんでもこんななまくらじゃあものの役に立つもんか」
『おいおい、左手のルーンは飾りかいよ、相棒。武器を語るんなら見た目じゃなくて、まず触ってからだ……みんながみんな俺みたいに話しかけてくれるほど親切じゃねえんだぞ』
「なんか今日はいちいち突っかかるんだな、お前」


だが、ここには触れただけでその武器がどういったものか、ということを解析できる者がいる。
ぶつぶついいながらも触れたガンダールヴは、それらを瞬時に理解する能力を手に入れているのだ。

それを見守るデルフにとって、次にサイトが発する反応は十分予想できる。
だが、この超人的な想いを持って戦い続ける割には実に素直な少年を驚かせることが出来るのは、その積み重ねてきた年月もあって一種老人にも似た精神を持つ彼にとっては楽しみといえることである。

その気持ちをあえて言葉にするのであれば―――細工は流々、後は仕上げをごろうじろ、というところだろうか。


「っ!!」


例えば、大きな房の付いた、その房にすっぽりと隠されてしまう程度の大きさしかない手斧があった。
振り回すたびにその大きな房が術者に絡みつき、時には引っかかり、目立つ色は大きな的にすら見えるそれは、素人目にはどう見ても利点があるようには思えず、欠陥武器にしか見えなかった。
空気抵抗を操り、重心を狂わすことで熟練の使い手が持てばその先端の軌道を何人足りとも読ませない極めて高度な武器であることなぞ、魔法全盛の世ゆえその作り手の意に沿った使い手がほとんどいないこの世界において、使いこなせるものなどただの一人しかいない。


例えば、重心の配置が明らかにおかしな陶器製の手槍があった。
見た感じは投げつけて使うもののように見えるが、しかしそれであるならば『陶器』という素材を使っている意味が全くわからない。多少の固定化すらもかけずに割れやすい素材を使う意図は、製作者すらももはや分からなくなってしまった以上全く分からない。
だからこそ、結構な年代物であり何らかの歴史を持っていそうにもかかわらず店主に価値を見出されずに、この一山いくらゾーンに配置されていた。
だがそれも、ガンダールヴという能力の持ち主からすれば柄に仕込まれた仕掛けによって中ほどで二分割し、その中に酸を入れて相手に投げつけ、受けた瞬間に割れた陶器片と酸の雨を降らせることを目的とした武器の一つだ、ということが容易に分かる。


あるいはもっと単純に、柄を軽く捻るだけで猛毒が出る、しかしその仕掛けを想定するには余りにぼろい剣などもそこにはあった。
製造が余りに困難ゆえに中に仕込まれたものと同じ毒が王都の宝物庫の奥できちんと磨かれた壷の中に配置されていることを思えば、それを内に仕込んだこの剣の価値が途方もないものであることは言うまでもないであろうが、取り出し方、剣への仕込ませ方を知らないものにしてみればそんな価値分かるはずもない。
外見が一山いくらの量産品にしか見えないそれは、ガンダールヴ以外には元の持ち主からその内側の機構についてきちんと聞かされているものでなければガラクタ、としか評価されない。




これらすべて、その真価を知らぬものにとってはガラクタとしか言いようのないものだ。
作り手ですら使えないほど、その武器に対して専門に何十年も鍛錬を繰り返さないとろくに使えないようなものがほとんどであるそれは、現代日本において頭でっかちな科学者が実用に耐えるか耐えないかを考えもせずに作り出した「自称・世紀の大発明」と同確率ぐらいの割合でこの世界においても存在しているものであり、それゆえにちょっと大きな街の武器を取り扱っている店には、ごくごく普通に、よく転がっているこの剣と魔法の―――ただし魔法に優越が働いている世界においては平均的な日常だった。

だからこそ、その周りを飾る正真正銘のなまくら武器たちと同じく、一山いくらで放置されていた。
だが、その価値がわかるものにとって見れば、そしてそれらを完璧に使いこなせる万能の武芸者から見てみれば、それらは決して金銀財宝に劣るものではなかった。


「お、おい、デルフ! これって!」
『(しーー!! 声がデケえよ、相棒! なっ、いいもんあっただろ?)』


その価値がこの上もなく正確にわかる数少ない者の一人であるサイトは慌ててデルフに対して問い詰めようとするが、それは背負った剣による静かな、しかしそれゆえに内に秘めた感情をうかがわせる小声によって抑えられた。


「(でもよ、これってスゲえ値打ちモノばっかじゃねえか! これが目方分だけでいいっていくらなんでも……)」
『(……いいか相棒? 買い物は……売り手と買い手の勝負だ! 気付かねえあいつが悪いんだよ、ケケケケケ)』
「(……なんか恨みでもあるのか?)」


基本的にいい子ちゃんで義侠心も強いサイトにとって、商品とは店につけられた値札で定価で買うものだ。
これがアラビアあたりの店主と交渉して値段を決める文化形式に慣れた生活をしていたのであればまた違ったかもしれないが、現代日本から来たサイトにとって、値札が間違っていればそれをそのまま買うのは気が引ける。
あくまで正当な値札に忠告をしてあげる……そしてそのお礼として、店主から自主的に多少割り引いてもらう、という形式が謙虚な現代日本人の学生には必要だった。


が、デルフにとってそれは面倒でまどろっこしいことこの上なかったので、サイトを説き伏せていくことで解決を図ろうとした。
適正価格でこれらすべてを購入できるだけの対価はいかにお金持ちな相棒のご主人とて持ち合わせていないであろうし、そもそもこの店の主人に対して、恨みはないが別に恩もない。
相棒の為ならば無視できる程度の感情しか抱いていないのであれば、ここでの選択肢は一つしかなかった。

そしてその選択肢は、外伝でことごとくはぶられてからほぼ空気と化している彼の御主人様にとっても手持ちのお金だけで十分サイトを強化できる、という望ましいものだった故、即決された。


「わかったわよ、デルフ! あなた、こっちに移した武器を全部買うわ!」
「(なんか悪い気がすんなあ……)」
『(細けえことは気にすんな……嬢ちゃんのためだ)』


嬉々として購入するご主人の声を尻目に、サイトは未だ納得がいってないように呟く。
その声の元となっている良心を慰めるかのようにサイトにとって万能の呪文を唱えるその声は、相棒を助ける左腕としての自負と共に、例え剣の身であっても自身が戦闘以外でも間違いなく役に立っているという実感による満面の笑みに彩られたものに違いなかった。



『これからもよろしく頼むぜ、相棒!』
「こちらこそ……な、デルフ」

Comment

なんだこの武器屋すごいwww
ここまで恐ろしい品揃えだと店長が何者なのか気になる
非公開コメント

プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
カテゴリ
カウンター
検索フォーム
QRコード
QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。