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鬼畜ま!16

十六話













「なー明日菜ー、やっぱり入浴時間以外に入ったらまずいんとちゃうん?」
「だって、あんなに大勢でイモ洗いみたいに短い時間だけの入浴じゃろくに身体も洗えないじゃない。木乃香だってそうだったでしょう?」
「それはそうやけど………新田先生とかに見つかったら怒られるで~」
「大丈夫、先生達は今見回りに行っているはずだから、この時間帯には誰も入っていないはずよ」
「ほんまに大丈夫なんかな~」


 神楽坂明日菜は近衛木乃香を誘ってこっそり部屋を抜け出して先ほど入った温泉へと向かっていた。

 修学旅行、という物に行ったことが有る者であればすぐわかると思うのだが、よほどの過疎地にある学校以外であれば大概の学校において、一学年丸々ではないにしても四クラスという人数は行動を共にするにはあまりに多すぎる。
ましてや超マンモス校である麻帆良学園のことだ。いかに歴史のある街京都の老舗旅館といっても、いや、老舗だからこそ120人超という膨大な人数すべてを余裕を持って収める事はできず、結構制限人数いっぱいいっぱいになっていた。

 そのため、生徒達に割り振られた食事等の旅館内でのスケジュールは、学年を何グループかに分けて分刻みで決められていた。先ほど行われた入浴もその例にもれず、せっかくの露天風呂を楽しむ時間も無いくらい短時間で、大勢の人数が押し込まれたため出遅れてしまった明日菜たちはろくに髪も洗う事ができなかったのだ。

 大概の者はこれも修学旅行の一環と諦めたのだが、諦められなかった明日菜たち二人はこっそりと再び風呂に入りに来たのだ。というよりも、一人ではいるのはさすがに気が引けた明日菜が、木乃香を引っ張ってきたのだが。
 もっとも、持ち前の性格で細かい事はどうでもいいとおもっている木乃香も、言葉上は止めていたもののもはや入る気満点だった。






 二人は左右の人通りを確認して、誰もいないと見ると急いで脱衣所に駆け込んだ。といってもここでぐずぐずしていると人の気配によって教師連中に見つかってしまうかもしれない。そのため、脱衣所の一角を陣取った明日菜と木乃香は急いで制服を脱ぎだし、露天風呂のほうに逃げ込もうとした。

 が、ここには当然先ほどネギたちから離れてきた連中が近寄っていたのだ。教師が見回り時間ということで廊下のほうばかり気にしていた明日菜たちは、その反対側のドアがガラッとあけられるまでその接近には気付けなかった。


「ふ~、いいお湯でしたね、ランスさ…………神楽坂さん、近衛さん!」
「シィル先生!こ、これはその……って、キャー!!」
「わわ、あ~~~ん。そこの人見んといて~~~」


 そして、脱ぎかけの明日菜、木乃香と全裸のランスたちが出会う事となる。
ランスは男湯の方の脱衣所に行くべきではないのか、とお思いの方もいるだろうがむしろ好んで女湯の方に入ってきて服を脱いで入浴していた。混浴なんだから脱衣所を分けるほうが不自然だ、という独自の論理を振りかざして。
 とはいえ、別に脱衣所に少女(女性に非ず)がいたとしても気にしないランス一行に対して、女教師ならばさておき男性が入ってくることなぞ予想もしていなかった明日菜は、自分が下着姿と言うこともあって大声でランスを非難し始めた。
 木乃香もおっとりとした言動とは裏腹に必死に衣服で肌を隠している。


「あ、あなた、何で男なのに堂々と女性用のほうに入ってきてんのよ! この、痴漢野郎!」
「あん? ガキがギャーギャー言うな、やかましいぞ」
「なんですって! 悪いのはそっちじゃない」


 自らの身体的特徴を非常に気にしている明日菜はガキといわれたこともあいまってどこぞの元温泉旅館の下宿している浪人生を思わせるような短絡さで、思わずランスに向かって殴りかかっていった。
まあ、たとえ教師に内緒で入りに来ていたとしても、普通に考えれば明日菜の対応は間違っているとまではいえないのだが、自分が絶対的正義であると本気で思っているランスにとっては、あまり面白い事ではなかった。


「うるさい」
「う、うそっ!」


 そのため、向かってきた拳をあっさりと掴む。明日菜が子供とはいえ胸が大きい性別的には女だからこそランスにしては珍しく紳士的な行動だ。これが男の子なら問答無用でカオスによって殺害されている。下着姿なんぞに俺様の前に現れるな、といって。

 ランスにしてみれば、最大限譲歩した行動だったのだが、明日菜にしてみればとてもそうとは思えなかった。
そもそも、身体能力にはかなりの自信があったにもかかわらず、ほぼ全力の拳を受け止められたのだ。しかも、この程度なぞ児戯に等しいとばかりにごくごくあっさりと。
 おもわず、相手が何者か、といった視線で全身を見渡したのだが……当然風呂上りのランスは全裸。その巨大な股間の一物を見てしまい、再び悲鳴を上げて必死で握られていた拳を引き離して距離を取る。

 と、そこで、ようやくそういえば自分の副担任であるシィル=プラインがいたことに気がついて、助けを求めようとそちらに注意を向けたその一瞬で。
 何者かに後ろからショーツを一瞬で引き下げられて、自分も相手の男に何もつけていないし何も生えていない下半身をさらす羽目となった。


「きゃーーーーーー!!!!!!」
「ひゃあああ~~~っ」


 その結果として、同じくブラジャーを何か得体の知れない猿っぽい生き物に引き剥がされそうになっていた木乃香と仲良く、大きな悲鳴を上げる事となる。







 カモがぶちぶち口内で言いながらネギと刹那の会話を聞いていたとき、唐突に浴場に悲鳴が伝わった。それを聞いて刹那とネギが同時に脱衣所のほうへと振り向く。


「お嬢様!」「明日菜さん!」


 その二人の大声に驚いたのか周りの木立から鳥達が飛び立ったが、助けを求めているかのようなその悲鳴を聞いた刹那はそんな事には気を配ってられないとばかしに、一気に立ち上がった。
先ほど話に出ていたが誰を指すのかまでは聞いていなかったお嬢様の正体が、今悲鳴を上げた二人のどちらかということで一瞬動作が止まったネギとは異なり、刹那はいままで湯の元に隠していた未成熟な裸身をネギにさらす事も厭わず、ネギに弾き飛ばされていた愛刀を途中で拾って一気に声の方角へと向かった。

 そこでは、電車内で現れたカエルと同様の陰陽道が術の一つ、式神が子猿を模して暴れまわっていた。殺傷は禁じられているのか、それを成すための力が無いのかわからないが攻撃的な行為は行われていなかったため、未だ木乃香に対して直接の被害は出ておらず最悪の事態には至っていないようだったが、刹那にとって見れば被害の大小なぞは関係なく木乃香に害を成すものということには変わりは無い。

 そのため、ネギと相対していたときすらある程度保っていた冷静さすら無くしてしまい、夕凪を振りかぶると小猿たちに向かって突撃していった。
ちなみに、ようやく追いついてきたネギはこの距離で魔法を打つと明日菜や木乃香にも当るため、手も足も出ない。まあ、小猿を生き物と勘違いして、強硬手段をためらったといった心の優しさから来た気遣いも含まれるのだが、見習い魔法使いの域を出ないネギにとってこういった敵味方入り混じった乱戦は未だ経験の無いものとして、何をすればいいのかわかっていなかった。魔法学校において授業とは基礎を教えるものであり、魔法の射手しか生徒には教えないように、実践的な戦い方なぞの教授はこの短い期間でエヴァに教わっただけだからだ。

 ともあれ、怒りに身を浸した刹那の夕凪が鍛え抜かれた技と共に振るわれようとした途端、辺り一帯を豪風が吹き荒れた。水を含んだ長髪を巻き上げるその風に視界を確保しようと一瞬だけ髪を押さえた刹那だが、視線を戻したときにはもう、全てが終わっていた。

 全裸のままではあるが、カオスを構えたランスが全ての小猿をただの紙きれへと戻し、粉砕していた。すぐ近くにいて数瞬視界が髪でさえぎられていた刹那はともかく、魔法を打てる程度の距離を取っていたネギの目を持ってしても何閃かの黒い光が見えただけの高速の連撃だった。



(速い。そして、なにより…………強い)


 刹那は思わず夕凪を構えた姿勢をランスに向けてしまいながら内心つぶやいた。

 流れの傭兵、ランス。
本名不明、経歴不明。自分と同じ学園の警備員でありながら、学園長自らが特別待遇で迎え入れたほどの力を持っており、その力と比例するかのように我も強いらしく、学内のものは些細な事であっても決してこの男とは争ってはいけないと通告が来ている。
あの闇の福音と並ぶ麻帆良学園の新しい切り札とは聞いていたが、まさかこれほどとは。

 無論、自らとていざとなればこの男と戦って見せる覚悟はあるし、この猿の式神程度であれば自分も同じく一撃で片付ける自信もある。
それでも、魔法界においてランクAA+とされる高畑=T=タカミチすら公衆の面前で完膚なきまでに叩きのめし、未確認ながらあの闇の福音、エヴァンジェリン=A=K=マクダネルすらも下したとされる男の剣の腕の噂が事実である事を僅かながらにではあるが間近で見た刹那は、初対面の人間と相対したときの癖となっているイメージトレーニングにおいてどうしても自分がこの男に勝利する未来を思い描けなかった。




「ふん、最後の最後でけちが付いたな、行くぞシィル」
「は、はい。わかりました」


 そういうと、式神のことなぞはなんとも無いとでも言わんばかりにあっさりとランスたちは着替えに戻った。といっても、ランスたちにとって着替えとは風呂場にまで持ち込んでいた腕輪をそれぞれ嵌めるだけだった。そして、腕を一振りするとそれぞれ落ち着いた色合いの洋服を着込んだ状態になっていた。
 これぞ、ランスたちルドラサウム世界の高ランク冒険者には必携のアイテム、魔法の腕輪である。ある程度の大きさの物であれば、一部の特殊な物(テントや飯盒等よくシィルが背負っている物)以外は全てこの腕輪についた宝玉の中に収める事ができるというダンジョンからさまざまな品を持ち帰って換金する冒険者にとって見れば欠かす事のできないアイテムだ。
性能によって値段もピンきりとはいえ、一番安い物であってもそんじょそこらの駆け出しの冒険者の手に入れることのできるものではないが、超一流とされているランスの持ち物である以上己の分は愚か、シィルの腕輪すらも全てのアイテムを99個まで収めることができる最上級品だった。
 その中に納めてあった洋服を一瞬で引き出して着込んだランスとシィルは、製作者であるフロストバインが女の子モンスターを参考にしたのか体内に収納する仕組みになっている青色の洋服、タランビスーツをすでに着込んでいたあてなを引き連れて、あっさり出て行った。

 あてなが最後にこちらに向かってひらひらと手を振り、脱衣所の扉をぴしゃりと閉めて、始めてその場にいた人間の動きが元に戻った。


「お嬢様、お怪我は!」
「え~別に無いよ、せっちゃん」
「ちょっと、桜咲さん、その刀といい、さっきの男といい、いきなり何なのよ!! って、木乃香がお嬢様?」


 自分の拳をあっさりと受け止めた男がわけのわからない生き物を一瞬で倒してさっさと出て行ったことに混乱の極致にいた明日菜だったが、刹那の言った一言に反応して急にいぶかしげな顔になる。この辺の喜怒哀楽の激しいところもどことなくどこぞの東大狙いの女性と重なる。
 その明日菜の質問に対して、木乃香が答えになら無い答えを返す。


「せっちゃんはなぁ、私の幼馴染なんよ~」
「あ……そう………って、そんな事よりもあの男よ!!」
「あわわわ、落ち着いてください、明日菜さん」
「そうです、とにかく私が説明しますので……」


 なんとなく木乃香のしゃべりに毒気を抜かれた明日菜だったが、とりあえずそのことが頭から去ると結局ランスのところに思考が戻ってきた。ブーメラン思考だ。
 あまり大声を出されるわけにも行かないため、刹那とネギが何とか声を抑えるように頼むと、そこで始めてネギの存在に気付いた明日菜がランスについて知っているか知らないのかはわからないが、困惑の掃け先としてネギに言葉の先端を向けた。


「ネギ! あんたもいたのね、ちょうどいいわ説明しなさいよ。痴漢よ痴漢!!」
「それより、何で明日菜の姉御達がここにいるんすか? 確か姉御達の入浴時間は終わってるはずじゃあ……」 
「う、うるさいわねぇ、エロおこじょ、こっち見るんじゃ無いわよ……っていうか、ここ木乃香もいるのよ!!」


 あわててネギに対する助け舟として明日菜に質問するカモだったが、それをあっさり逸らした明日菜はこの場にカモとネギの魔法関係のことについて知られてはならない人間が二人もいることに反論してから気がついた。
 が、時すでに遅し。一度発された言葉は文字通り音速で木乃香の耳へと届いており、面白いもの好きの木乃香がこんな珍獣のことを忘れるわけがなかった。
一瞬で着替えるという奇行を見せた男とシィルたちの事すら瞬時に脳裏より消し去り(割と強力な認識阻害の魔法がかかっているカオスを振るった事は見えていなかった)、あの小猿たちがなんだったのかを効く事も忘れ、カモに詰め寄った。


「へ~~~うわ~~~すごいなあ、しゃべるフェレットなんて始めてみたわあ」
「!! お嬢様、これは、その」
「しまった。ヤベエぜ、アニキ………(そうだ!)こうなったら全部木乃香の姉さんに話して、ついでに仮契約をしてもらうしか」


 興味深そうにカモを眺める木乃香。木乃香をこの世界に関わらせたくない刹那は必死でごまかしの言葉を考えるが、この際だ、とばかしにネギに木乃香との仮契約を薦めるカモのほうがこの場での機転は利いていた。
木乃香をネギの従者として魔法に関わらせることは政治的にいろいろと問題がないわけではないが、相手がそろそろ本格的に仕掛けてきているこの状態では学園長等に対して言いぬけることが可能とカモは判断した。
 流石にこれほどまで関西呪術協会の妨害がひどくては、帰ってから師匠にゆっくり聞いている時間は無いかもしれないと思っていたネギにしてみれば、魔法の存在がばれてしまったことによってオコジョになりたくも無いこともあって、この白い悪魔の誘惑はクリティカルにヒットした。

よくよく考えてみれば、カモがしゃべった程度では条件的にはいままでの明日菜となんら変わりは無いため、仮契約なぞしなくても明日菜同様口止めをしっかりすればいいのだが、ネギのためならネギの意思に反する事もすると誓ったカモの話術によってばれればオコジョ、話す=仮契約という図式がここ数日で形作られていた事ですっかりだまされていた。
なお、話す=仮契約なら明日菜とするという選択肢もネギの脳内には浮かぶはずだろうが、身近すぎて帰って気付きにくい事と、「どう考えてもあの女は前衛だ」という師の言葉によって無意識で却下されていたためこの深層心理の圧迫の影響は受けていなかった。

 仮契約であればお互いの同意があれば解除する事も簡単であろうとも、今までネギは自分の力量不足を原因として従者を付ける事を良しとはしていなかった。
しかし、従者にすることにより一般人を魔法使いの戦いに巻き込んでしまうという事に対しては、知っていて無視しているのではなく未だ完全な理解が及んでいなかったため、その危険性について考慮する事はなかった。
今まで他者を殴った事すらない少女を、時には命のやり取りすらする戦場に引き込むという危険は、未だ直接凄惨な戦争を、自らの手を汚すという意味で体験していないネギには実感としてないものだからだ。

これは決してネギが愚かだということをさすのではない。事実、ここ十年ほどは大規模な戦闘行為なぞ起こっておらず、タカミチのように年少のころから自ら戦場に赴いて争いを収めるために関わらなければ、ネギの実力が木乃香を守れるほどに成長するまでの時間は十分あるはずである。ネギとて今すぐに打倒ランスと挑みかかるつもりはない。
そのため、ネギは自分は未熟だけれどもやむえない事態だと自分を納得させて魔法界とはまったく関係の無い生活をしてきた木乃香に対して自分の言葉で仮契約を申し込もうとした。
そしてそれは、魔法学校の主席卒業生としては、まったくもって正しい態度でもあった。


「う~ん、オコジョになるくらいなら…………こ、木乃香さん、年下の男はお嫌いですか?」
「? そんなことないで、ネギ君なら大歓迎や」
「お、お嬢様、いくらなんでも早すぎます!」
「っていうか、いきなり何言ってんのよー! とにかく説明しなさい!! 」


 が、ネギが短絡的に仮契約を申し込み、その言葉の深い意味を読み取る事が出来なかった木乃香が承諾して、本当に仮契約が成立するほんの一歩前に、刹那のちょっと勘違いした諌めの言葉と明日菜のかんしゃくによって阻まれた。

 ネギはその幸運には気付かない。
 自らが、一人の少女の人生そのものを変革する事となり、その結果彼女の行く末に対しての責任がその双肩にのみかかってくることを回避することができたということを。
 仮契約という物は、文字通り人生を左右する『契約』だということを、ネギはもう少し後まで実感せずにすんだのだ。
カモの策略がこれからも続く以上、ほんの少しの、ある少女と偶発的な仮契約を結ばされるまでのほんの僅かな間だけの時間だが。


そして、それによって今まで両親や護衛たち、そして何より彼女を大切に思う刹那によって危険な領域に踏み入れないように守られていた木乃香が、自覚もなく血で血を洗うランスたちの世界に入ってしまうことはとりあえずは食い止める事はできた。
これが木乃香とネギにとって良かったのかどうかはわからない。木乃香が狙われている事事態は変わらない以上、魔法のことを知らないがために一般人の状態で危険な状態に巻き込まれるのと、安易にこの世界に踏み入ってその後全身に血を浴びてから自覚する違いだけではあるが、少なくともこの結果に刹那は安堵の息を吐いていた。

 が、ネギのプロポーズとも取れる言葉によっていっそう追及が厳しくなった明日菜によって、結局ネギはランスたちのことを洗いざらい吐かされてしまう事となった。




 その場はとりあえず刹那のとりなし等で何とか収まったのだが………事件はその日の夜起こった。
 木乃香がいないのだ。明日菜達の部屋のトイレは旅館にあるまじき事に修理中だということで、木乃香は共同で使えるトイレを探すといって寝床から起き上がって同じく尿意を感じていた夕映と一緒にどこかに行ったのだが、なかなか帰ってこない。
 不審に思った明日菜が夜回り中のネギ(本来であれば子供という事で巡回は免除されるはずだったが、ランスの監視のため人手が足りないという事で消灯後の少しの時間だけお鉢が回ってきた)に言ったところ、ネギは明日菜に布団に戻るよう言ったあと、巡回しながら木乃香を探していた。
 明日菜が生徒である以上手伝わせるわけには行かなかったため本来であれば一人で探すつもりだったが、明日菜たちの部屋の扉を閉めて振り向くと、ネギの目の前に刹那がいた。


「刹那さん、消灯時間なんだから布団に戻ってくださいよ」


 明日菜にばれれば自分もついてくるというということはわかっていたために小声での注意だったが、刹那はそんな事は意にも介さずにネギに向かって同行を申し出てきた。


「私だってただの生徒ではありません。お嬢様の護衛が仕事なのですからお嬢様が帰ってきてから寝ます」
「でも……」
「それに、一人より二人の方が探しやすいでしょう。京都は古都だけあって夜は魑魅魍魎の類も出ます。お嬢様が巻き込まれないように早く戻っていただかないと」
「……わかりました。その代わり、木乃香さん達を見つけたら三人ともすぐに戻ってくださいよ」


 そういって二手に分かれた二人だったがなかなか木乃香は見つからず、二人は再びこの旅館内で顔をあわせる事となる。仕方なく、再び二人一緒に木乃香たちを探し始めたネギたちが先に見つけたのは、一人で旅館の廊下にあった従業員用の個室トイレの前に挙動不審な態度をとる夕映だった。


「も、もるです。木乃香さん、早く……」


 せっぱ詰まった表情で夕映が木乃香の名を唱えているのを聞いた刹那とネギは、ほっと安堵の息を吐き、その扉の前に駆け寄った。
皆が酔いつぶれた音羽の滝の水を確信犯的に確保して、夕飯後の晩酌としていたバチが当たったのか、そうとうやばそうな顔色で木乃香の名を唱えながらドンドンと扉をたたいていた夕映だったが、自らが順番を待っていたにもかかわらず後ろから近づいてきた二人に思わず非難の声を上げる。


「せ、せ、刹那さん。お願いですから横入りは」
「お嬢様、いらっしゃいますか」
「木乃香さん、ここですか?」
「入っとりますえ~」


 トイレの扉の奥から木乃香っぽい声が聞こえたことに木乃香が寝床におらず、なかなか見つからない事から実は何か木乃香がトラブルにあったのではと不安も少し感じていた二人はほっと安堵の息を吐いた。
 と、同時にトイレの前で死にそうな顔をしていた夕映に気付き、自分達が割り込むような形になっていたことに謝罪の声を上げた。


「すみませんでした、綾瀬さん」
「そ、そんな事よりもおトイレを……木乃香さんがなかなか出てこないです。このままではもるです~」
「お嬢様が? お嬢様、どこかお体の調子でも?」
「入っとりますえ~」
「お嬢様?」
「入っとりますえ~」


 体調を尋ねたにもかかわらず、入っているとしか返してこない声に刹那がいぶかしげな顔をする。
 と、次の瞬間、何かに気付いたのか刹那は打って変わって厳しい顔をして、背負っていた袋に収まっていた夕凪を構えて声をかける。


「まさか……お嬢様、失礼します!!」


 一閃。

 扉とドアの枠のごく僅かな隙間に切っ先を滑り込ませて、ドアの鍵を切り裂いた刹那は扉を開けはなった。


「せ、刹那さん、一体何を「入っとりますえ~」御札がしゃべっている!」
「日本の魔法である符術です。やられた!」
「そ、そんな事より、木乃香さんが使っていないならどいて下さいです!!」


 自分達に対する目晦ましがなされている以上、木乃香はすでに連れ去られているとして何かの証拠でも残っていないかとお札を調べようとしていた刹那だったが、普段からは考えられないほどの腕力を持って目の幅の涙すら流している堤防決壊寸前の夕映に追い出されてしまった。

 呆然としていた二人だったが、そんな事をしている状態ではないという事実は二人の脳裏にはしっかりと残っていた。


 木乃香が誘拐されたのだ!




 夜道を走るネギの肩につかまりながら、カモがネギに向かって先ほどから疑問に思っていた事を問う。


「アニキ、明日菜の姐さんに連絡は?」
「して無いよ」
「そうっすか、それなら安心…………え? そ、そんな、アニキ、本気で一人で片付けるつもり気なんすか!」
「うん、カモ君。僕は先生なんだ、明日菜さんも、木乃香さんも僕が守らなきゃ!」


 二人とも自らの浅慮によっていらぬことを知らせてしまったにもかかわらず、そのことを黙っていくれるといってくれたということに、ネギは深く感謝している。
 ランスが来なければひょっとすれば従者となる事を承認してくれた明日菜を伴うという事もあったかもしれないが、未だ本格的な魔法使いとの戦闘を行っていない今のネギにとって見れば、明日菜も「魔法界のことを知ってしまっただけの一般人」に過ぎないため、助けを求める対象ではなく、自らが守る生徒であると認識している。そのため、温泉においての騒ぎに対しても明日菜には詳しい事を告げず、一人でその後も見回りをしていた。

 結局、今回もランス召喚によるバタフライ――――訂正、モスラ効果(とんでもなくでかい蝶の羽ばたきによって起こった風が、ビルをなぎ倒し、大地を揺るがし、人を吹き飛ばしたりする事によって蝶がいなかった本来の流れとは大幅に違った事が、直接蝶とは関係の見られない? ところに起こる現象)によって、ネギはただの一般人と認識している明日菜の助けを借りずに木乃香の追跡に移った。
念のため生徒達にはこの騒ぎで修学旅行がめちゃくちゃにならないように、眠りの霧をかけてまで。

 そして、守るべき生徒という意味のネギの認識からすれば、自らの前方を走る刹那に対しても同じだった。そのため、声を張り上げて刹那も木乃香を救出するため戦いに身を投じようとしている事を思いとどまらせようとする。


「刹那さーん、ここは僕に任せて戻って下さーい。もう消灯時間はとっくに過ぎてるんですからー」
「そんなのんきな事を言っている場合ですか、お嬢様を守るのが私の役目です!」


 しかし、そんなネギの気遣いとは裏腹に、ネギに対する刹那の認識はもっとシビアなものだった。
今日のカエル等の妨害工作に対するうろたえた対応といい、温泉での自分という顔の見えなかった敵への対応といい、この夜道に前方に走る自分にまで聞こえる声を上げる周囲への気遣いのなさといい、ネギはあまりに未熟だ。任せきることはもとより自らの助けとしても猫の手以上の役目は果たさないだろうと刹那は今までの経験から思っていた。
無論、魔法学校を飛び級で、しかも主席で卒業したぐらいだから魔力という面ではそれなりにあるのだろうが、その使い方があまりに拙い。やはり、魔法の力量ならばさておき、護衛として、戦士としての力量はあくまで年相応なのだと刹那は今日一日で痛感していた。

 彼に頼るくらいであれば、温泉であったランスという男に頼った方がましだとは今は思うが、時間がものを言う追跡戦で学園長直属の傭兵を探し出して無理に頼る時間は無いと思ったために一番身近にいた魔法教師につい助けを求めてしまった過去の自分を責めてもお嬢様は戻ってこない。
 とにかく、いざとなったらこの身に変えてでもお嬢様だけは助けて見せるから、絶対に邪魔だけはしてくれるなとネギの声を聞いて刹那は誓いを新たにすると共に、ネギへの期待を切り捨てた。

 結局、自分も十分若い刹那は万事戦闘力だけで護衛として、魔法教師として判断してしまいがちであり、ランスの危険性とネギの魔法教師としての良さを理解できていなかったのだが、この判断は後にいい形で裏切られる事となった。

Comment

このランスは鬼畜王のですか?
正史のですか?

モスラ効果じゃしょうがないな、ていうとでも思ったか(´・ω・`)
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プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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