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鬼畜ま!15

十五話














 とりあえず修学旅行一日目はつつがなく終わった。新田先生から未成年という事で早めに挙がる許可を得たネギは、カモと一緒に温泉に向かいながら、そう思っていた。

 ………カエルが電車内で暴れたり、清水の舞台から飛び降りようとした者を止めたり、未成年にもかかわらず酔いつぶれたものを介抱する羽目になったような気もするが、とにかくつつがなく終わったのだ。

 生徒達からさまざまな騒ぎに巻き込まれ続けた一日だったが、ネギにとっても楽しかった。本当に楽しかった。
だからこそ、その生徒達の一生の思い出になるべき修学旅行が「悪い」魔法使い達によって邪魔されているという事実がネギは嫌で仕方が無かった。










「誰だか知らないけれど、何でこんな事をするんだろう? 何か言いたい事があるなら直接言ってきたらいいのに」


 それが出来ないからこそのこういった行動だ、という事まではまだネギには理解できていなかった。
 そして、それを理解しているカモは、今回の一連の騒ぎは警告であり、これで親書を我々に渡さなければ明日から本格的な攻勢をかけるぞ、という脅しで事であろうと推測していた。

 カエルを仕掛ける事が出来るのであれば、戦闘用の式神を仕掛ける事とて手間としては同じであろうし、滝つぼに酒を混ぜることだって特殊効果のある魔法薬に変えておけばネギたち一行を一網打尽に出来るという事をアピールしているのだろう。つまり、お前の大事な生徒達の命は私達の手の内にあるんだぞ、といいたいのだろう。

 もっとも、実際に一般人を直接戦闘に巻き込むという事は魔法使いとして重大なルール違反であるため、本格的な攻撃というのはあくまで脅しではあろうが、絶対に相手が行動に出ないと言い切れない以上、本腰を入れて相手の出方を伺う必要がある。
いかに天才といっても十歳のネギにはわからなくて当然であるとカモは思い、そういった面をサポートする事こそが尊敬するアニキに対する自分の役目だ、と改めて決心を新たにする。



 しかし、今回の二件の騒ぎは今日のネギのスケジュールを完全に把握していなければ親書を持っているネギに対する警告とならず、単なる珍事として失敗する可能性が高いはずだ。
あのカエルが3-A以外の車両で発生したとは聞いていないし、音羽の滝とて他の観光客がいたときには酒にはなっていなかったらしい。

つまり、これらの事実はこちらの行動が完全に筒抜けだという事を暗に示唆している。無論、修学旅行のスケジュールなぞそれほど厳格に隠しているわけではないが、電車内ではさておき、あの時刻に音羽の滝にネギを含むグループが行ったのはほとんど偶然のようなものにもかかわらず、しっかりと行動に移された。
 やはり、内通者がいると考えた方が良いと思ったカモは、第一の容疑者としてあの電車内で親書を奪い取ろうとしたり、こちらを観察するように見ていたりと何かと怪しげな桜咲刹那が西のスパイでは無いかとの疑いを強めていた。


 とにかく、今後アイツの動きから目をはなさねえぞ、と思うと共に、カモは自分が責任をおっ被ったとしても、無理にでも仮契約の準備を整えるということも決心していた。
当初思っていたよりもずっとネギの身に危険が及ぶ可能性が高まったのだ。たとえ自分がこのことを原因としてネギから不興を買い敬遠される事になったとしても、何とかして彼を守らなければならないとカモは計略を練ることにした。


 そして、そのカモの内なる心には気付かず、とりあえずその「悪い魔法使い」のことからは心を切り替えて、ネギはせっかく旅館に止まるのだからとここに来たときに仲居さんに案内された温泉に向かった。



 正直言って、ネギは風呂自体があまり好きでは無い。
そもそも、イギリス人であるネギにとってみれば、シャワーを浴びて身体を洗う事はあっても湯船に身体をつからせる、という習慣自体がなじみの薄いものであるし、温泉というもの自体も彼の認識からすると健康のために体の循環機能を高めるために、ほんの少量を「飲む」ものであって決して服を脱いで肩まで「浸かる」ものではない。

 しかし、この国日本ではこの風呂というものは「命の洗濯」とまで言われて楽しまれるものであり、なかでも露天風呂という景色を楽しめるよう外に設置してある温泉は、老若男女問わずに好まれる独自の文化であるということなので、これも修学旅行の一環として頑張って入ってみようと思っていた。


 いかにも温泉でござい、と主張しているような暖簾をくぐって脱衣所に入る。
もっとも、ネギにしてみれば日本に来てから風呂というのは明日菜に無理やり入れられたあの大浴場か、部屋に備え付けのユニットバスのイメージしかなかったので、脱衣所の使い勝手がイマイチわからず多少戸惑ったが、それでも何とか形をつけて腰にタオルを巻いて脱衣所から浴場に進む。

 ちなみにイギリス産オコジョ妖精であるはずのカモは手ぬぐいまでしっかりと装備して馴染みまくっている。さすが日本のうだつが上がらないイメージのおっさんくさいだけはある。

 とにかく、まずはかけ湯をするということが礼儀だという事で、湯船の方に近寄ると湯煙の奥に人影が見えた。
この旅館には現在麻帆良学園の関係者しかいないはずなので、同じ教師かと思ってカモに動物らしく擬態をするよう目配せをした後、挨拶をしようとしたのだが……


「あら、ネギ君もお風呂ですか?」
「あん? ああ、またあのガキか。」
(あてなは奥の方で一人泳いでいる)
『は~んは~んはぁ~~ん、びばのんのん、ガキはいら~ん、ね~ちゃん来んか、乳揉ませろ~』
「おい、カオス、そんなだみ声で下品な歌を歌うな。俺様の優雅なリラックスタイムの邪魔だ」


 一番会いたくない連中だった。
思わず固まってしまうカモとネギ。何でここに、という事が頭を占めるが、明日からシィルが合流するというのにランスが来るかもしれないとまったく考えない方が間違っている。
まあ、すでに来ているということは確かに予想外かもしれないが。
 そう思い当たって、ぎこちないながら挨拶をする。


「こ、こんばんは、ランスさん、シィルさん、カオスさん、あてなさん」
「……ふむ、まあ良い、今晩はだ。俺様は寛大だから同じ湯につかる事を許してやろう」
「あ、ありがとうございます……あれ? ランスさんはともかく、何でシィルさんやあてなさんがいるんですか? ここは男湯なのでは」


 とりあえず、ここでいきなり戦闘をしかけられる事は無いだろうと思い、深呼吸をして普通に会話をしようとしたが、そのきっかけを探していると何故ここにシィル達がいるのかという疑問がまず出てきた。
 自分は確か男湯と書いてある入り口をくぐってここに来た記憶がある。そもそも、シィルやあてなは知り合いとはいえ大人であるランスに裸を見られても恥ずかしくないのだろうか、と思って聞いてみる。


「男だけでつかるなんぞむさくるしいだけだろうが」
「えっと、ここは入り口は分かれていますけど、中は混浴なんだそうです」
「へ~、温泉っていろいろ種類があるんですね」
「混浴ってのは男のロマンさ、アニキ!」


 ……そもそも修学旅行先の露天風呂が混浴というのはどうだろうか。生徒たちとて一応入る時間は決まっているとはいえ、今回みたいな男性教師などとのブッキングミスが発生しないとも限らないだろうに。

 とはいえ、基本的に温泉とは混浴であるべきだという考えの下に、過去いかなる温泉に対しても可能な限りごり押しで混浴にしてきたランスはそんな事をまったく気にも留めておらず、それに従うシィルらも言うまでも無い。その雰囲気にしたがって、ネギもそんなものなのか、となんとなく納得してしまう。
 念のため言っておくとランスたちは異世界人であり、ネギは国が違うとはいえ、この世界の人間である。基本的にネギがランスたちに教えるならさておき、ランスたちの感性が一般常識であると考えてはいけないはずなのだが。とはいえ、両者の年齢差を考えると逆こそが正しいような気もするし、難しい関係である。


 とりあえず、ここに来た目的をまずは果たす事にする。近場にあった桶を手に取り、お湯を掬って身体に掛ける。熱いが、耐えられないほどではないと感じたネギは、ランスたちに失礼します、と一声掛けて露天風呂に足を突っ込み……


「あっつ!」


そのあまりの熱さに耐え切れず、あっという間に足を抜いた。やはり、桶に取って身体に浴びせた冷めやすいかけ湯と、二十坪はあろうかと思われる温泉ではその温度にずいぶん差があったようだ。


「がはははは、やはりお子様だな。この程度の温度で音を上げるとは」
『はあ、ガキが入っても嬉しくないのう……どうせなら、むっちむちのねーちゃんがいいぞい』


 好き勝手を言うランスたちだが、ネギは足を冷ますのに集中しているため、その言葉に対して返す事が出来ない。しばらくたってリトライするが、結果は同じだった。皮膚の薄い英国系の人種であることに加えてさらに子供であるネギには、ここの温泉は熱すぎるようだった。
 そのネギに気を使ったのか、シィルが別の場所に移ってはどうかと提案する。


「このあたりは源泉からのお湯が引かれている場所なので子供にはちょっと熱いかな。あっちの方だったら少しは冷めてると思いますよ」
「あ、ありがとうございます。じゃあ、そっちにいってみますので、一旦失礼しますね」
「おう」


 そう礼儀正しく頭を下げて、これ幸いとネギはランスたちの元から離れる事に成功した。
 勿論カモもその後に続く。シィルとあてなというガキではない女性との混浴は惜しかったが、命には代えられない。


「ふ~、緊張した~」
「まったくっすよ。何であの連中が……」


 ネギが温泉に手を突っ込んで、今度は大丈夫そうだと判断したところにカモが露天風呂に有った岩で自分用に足がつく程度の床を作ってから、二人して肩まで浸かって一息入れて先ほどの遭遇についての感想を述べ合う。だが、幸いな事に危機から遠ざかる事は出来た。そのため、二人は温泉を味わいながら、同じ深さのため息をついた。
 冷えた風がお湯で温まった頬をなでていき、適度に冷やされる感覚が気持ち良く、まるで体の疲れが流れ出るように感じて、たまにはお風呂もいいな、明日も修学旅行の引率を頑張るぞ、と思いながらネギは気合を入れた。






 桜咲刹那は困っていた。その顔は悲しみと喜び、困惑がほぼ同じだけ、そして僅かに怒りが混じったもので彩られていた。
 事の発端は、幼い頃に端を発する自分の幼馴染である『お嬢様』とのことであった。

 桜崎刹那は関東魔法協会直属の剣士として学生でありながら、近衛木乃香の護衛として仕事を任されている。
 もともと、閉鎖的な烏族の中において、ハーフというものはあまりいい印象をもたれないが、そのハーフの中でもさらに異端であった刹那は、幼い頃にはすでに一族を追われていたため、当時はまだ関西呪術教会の長ではなかった近衛詠春に拾われた。
しかし、拾われ子とはいえ、決して劣悪な環境でこき使われていたわけではなく、むしろ実子同然として扱われており、本来であればよほどのコネがなければ入れない神鳴流の稽古に参加させてもらったりと、詠春の子である近衛木乃香とは姉妹のように友達のように育ってきていた。
 あの楽しかった幼き頃の日々は、今でも刹那の心の中で大きな位置を占めている。



 しかし、ある事件が木乃香の身に降りかかってから、両者の関係は大きく変わった。自らのせいで親友を傷つける羽目になったと思い込んだ刹那は、当時の養い親の前に土下座し、木乃香を守れるだけの力を欲した。本人の強い希望を受けて、当時それなりに関西呪術協会において権力を振るえるようになっていた詠春は協会と関係の深く、自らも学んでいた京都神鳴流に刹那を本格的に預ける事にした。

 もっとも、詠春たちは決して木乃香の身を守る護衛を育て上げるために神鳴流に刹那を預けたわけではない。これで、もう一人の我が子が心に負った傷を少しでも癒せるならと言う願いを込めてのことだった。



 この詠春らの願い通りに、刹那がごくごく普通に神鳴流を学んでいき、ある程度の自信をつけて帰ってくるのであれば問題はなかったのだが……ここで一つの問題が発覚した。
刹那には剣術というものについて才能があった、ありすぎた。

 通常であれば、神鳴流の修行において重要なウエイトを占める『気を発する』という感覚をつかむだけで十年単位の修行が必要とするものを、僅か数年で身に着けていったほどだ。
 「お嬢様」を守るとして、それこそわが身を削ってもかまわないというほどの覚悟を持って修行に当たっていた刹那は、その才能もあって他の高弟らの子息を差し置いて、乾いたスポンジが水を吸うかのように神鳴流の技を修めていった。
明らかに、外様の身でありながら。




 もちろん刹那は決してそれに驕ったことはない。
 周りの評価よりも、何より自分が強くなる事こそが刹那の求めていた事だからだ。
 例えどのような評価をされようとも気にも留めず、ただ貪欲に神鳴流の技を吸収していくことだけに全力を注いでいた。

 しかし、考えても見るがいい。
自分たちが同じ血がにじむような努力を、幼小のころから始めその手足が十分に伸びるほどの長い期間、下手すれば髪が白く染まってくるほどの年月の間続ける事で身につけた技を、己が才能のみであっさりと身につけていく少女。
 才能は、努力より勝るという事をまじまじと見せ付ける10歳ほどの、しかも師範の家柄だというならばさておきコネだけで入って来たまるっきり外様の少女を見て、剣で身を立てていこうと思っていた同じ道場の者達が敵意を持たずにいられるだろうか?

 勿論、この問いに自信を持ってYESと答えられる者も十分いるだろう。相手の天分を認め、それを自らの精進の糧と出来るものこそが、まさに理想の修道者であろう。
少なくとも、詠春を含む神鳴流の上位に位置する実力者達は、ただ単純に刹那に与えられた天凛を喜び、祝福した。



 だが……残念ながら当時刹那のすぐ周りにいた、一緒に訓練していた神鳴流の人間には、NOと答えざるをえない人間の方が多かった。
現実においてはそれが当然であろうとも、今の刹那は思う。

 それでも、やり方次第でどうとでもできる問題の範囲を拡大したのは、自分の性だとも刹那は思っている。
 その周りの気配を敏感に察知でき、彼らが望む態度を取って立ち回れるほど刹那が器用であればよかった。
しかし、神は剣の腕は与えてはくれても、それと同時に人当たりのよさという二物は刹那には与えてはくれなかった。
このかの死を目前に見たトラウマという過去の負い目もあって、刹那は自分の感情をはっきりと周囲に伝えることの出来ない不器用な少女だった。



 その結果なぞ、言うまでもないだろう。
 そう、だんだんと刹那は孤立していったのだ。

 自らの才を持たない者を穏やかに収める事が出来なかった刹那はついに中学に入ると同時に、すでに関東の祖父の元に行っていた木乃香の護衛として、麻帆良学園に行く事を求めた。そこでは、年齢に関係なくただ実力のみを問題にして、老若男女に門戸を開いていると聞いていることもその決定に一役かった。

 つまり、刹那は学生としてではなく、護衛として麻帆良学園に行こう、一般人としての生活を諦めて血で血を洗う生き様に身を投じようと思ったのだ。
 そして、先ほどの問いにYESと答える事が出来た詠春らも、神鳴流における刹那の苦悩を知ってはその行動を止める事は出来なかった。

 決して自らを抑えることが出来なかった刹那が悪かったわけではない。
 決して嫉妬という、ごくごく当たり前の人間らしい感情を押さえられなかった神鳴流の者が悪かったわけでもない。


 それでも、結果として刹那は今でも京都神鳴流本部の教えを受けた身でありながら、宿敵関東魔法教会に走った「裏切り者」となっている。




 そういった過去を持つ刹那にとって見れば、自分は親友のこのちゃんを危険にさらし、大恩ある京都神鳴流すら裏切った、二重の意味での罪人であるという意識があるため、今の自分はあくまで関東魔法協会の長の孫であり関西呪術協会の長の娘でもある「お嬢様」の護衛であるという自覚を強く持っている。そのため、かつての親友として話しかけてくる木乃香に対しても、常に一線を引いて接してきた。
 決して友情がなくなったわけではなくその友情がための態度だったが、人の心の細やかな機微に疎い刹那であっても、その自分の態度によって木乃香の心を傷付けている事もいやおうなしに気付いていた。

 木乃香はこの修学旅行において刹那と同じ班になった事を好機として、最近なぜか冷たいせっちゃんとの距離を少しでも縮めようといろいろしてきている。それを受けて刹那は迷うのだ。
 木乃香の気持ちは嬉しい。出来る事なら自分もかつてのように「このちゃん」「せっちゃん」と呼び合う親友の仲に戻りたい。

 しかし、今、木乃香は魔力や関東魔法教会に対する恨みなどの対象とされ、非常に危険な位置にいる。自分が木乃香との関係を優先させる事で、かつてと同じく木乃香の身を危険にさらすのではないか、という恐怖に刹那は常におびえている。以前木乃香と遊ぶ事を優先して、おぼれていた木乃香を助けるだけの力を持たなかった過去の自分と重ねる事で。

 それによって、木乃香の気持ちは嬉しいけれどもそれに答える事が出来ない、というジレンマが生まれていたが、結論としてやはり刹那は自分の気持ちを押し隠して、木乃香の身の安全を優先させる事に決めたのだ。




 だから刹那はためらわない。
 たとえ少しでも木乃香の身に危険を及ぼす可能性があるのであれば、それは全て自分一人で孤独に排除することを。

 だから刹那はためらわない。
 そのために自分が血にまみれる事も、その血が本当は敵のものではなく、無害な一般人の血となる可能性があることも。

 だから刹那はためらわない。
 木乃香と離れ、一人でいられる場所として汗を流すついでにこっそり向かった先で魔力を感じて先手を打って襲い掛かり、武器を弾き飛ばされたときに、自身は女の身でありながらも何の恥じらいもなく、相手の急所として股間を握りつぶすような勢いでつかむ事も。





「動くな。少しでもおかしな動きをすれば、このまま握りつぶすぞ」


 ドスの効いた低い声で自分の男としての生殺与奪権を持った刹那が脅してくる事に、ネギは何で僕がこんな事にと自分の不運を嘆いていた。ネギとしては、今日はいろいろあったが明日こそはちゃんと先生としてがんばろうと、リラックスしながらであるが改めて誓っていただけだったのに。
それなのに、いきなり生徒には魔法使いだという事はばれているし、岩を切り飛ばすほどの斬撃に見舞われるし、ようやく刀を弾き飛ばして安全になったと思いきや、恥ずかしいところを思いっきりつかまれる羽目になっているのだ。
 急に露天を照らしていた行灯の灯火が消えた上に、湯煙が意外とたち篭っているためで相手の表情はまだ見えていないが、ナニが目的でこんな事をするんだろうと必死に目を凝らす。
 と、ここでネギより夜目が効くカモが、完全にこちらを敵視している相手の表情を見ながらようやくネギのピンチという事実が脳に浸透したのかあわてて声を上げた。


「やっやい、てめぇ桜咲刹那!」


 それと同時にどこからともなく明かりがついて風呂場全体を照らした事で、ネギも刹那の表情を確認する事が出来た。
 無機質で、無感情で、そのくせ目だけは目的のためには手段を選ばないと暗い炎を燃やしている。ぞっとするような殺意を表した表情だった。


「さ、桜咲さん、何でこんな事をするんですか?」
「………!! ネギ先生、す、すみません」


 自分を狙う魔法界全体の裏切りものの悪い刺客だと思い込む事によって必死に震えを隠していたネギだったが、相手が普段はそれほど表情豊かとはいえないものの、やっぱり今までごくごく普通に自らの受け持つ教室の生徒という態度をとり続けていたという事もあってそのギャップによる混乱も最高潮に達して、あまりの怖さにブルブルと震えてしまう。

 その声と、今まで湯煙に隠れていたその容姿を確認してようやく刹那も自分が先手を取った相手がこの学園の魔法教師であるネギであったと理解した。と、同時に、今までこの技を行ったときとは掌の感触が随分異なる事にも納得して、慌ててネギの物をぎゅっと握っていた手を放した。
 基本的に一定レベル以上の魔法使いは、戦闘時以外は魔力を漏らすことが無いという経験則から、今回も何か仕掛けようとしていた関西呪術協会の妨害者かと早とちりしてしまったが、ただ単に魔力を抑えそこなったネギ=スプリングフィールド教員だったのかと思い、一息入れる。




 しかし、仕掛けられた側であるネギたちはそんな安堵とはまったく違う感情を抱いていたため、それを刹那にぶつける。


「やっぱりてめえは関西呪術協会の刺客だったんだな! ネギの兄貴はやらせねえぞ!?」
「ちょ、ちょっと待ってください。私が刺客? それは誤解です」
「だまれっ! ネタはきっちり上がってんだ。喰らえ、オコジョフラッーーシュ!!」
「ちょ、ちょっとカモ君……」


 自らの生徒がいきなり襲ってきたという事で、何らかの理由があるのかとの疑問が当初の困惑より勝ってきたネギは、刹那に何故こんな事をしたのかと訊ねるつもりだったが、以前より怪しいと思っていた者がついに行動を起こしたと思っているカモからすれば、ここはすでに戦場であり、ここではそんな戸惑いは死を呼ぶだけだ。
 だからこそ、先手必勝とばかりに相手の視界を封じようとした。


「くぅっ! オンアクヴィンラウン キャシャラクマン ヴァン」


 そして、誤解を解こうとしていた刹那はそれを避ける事が出来なかったため、もろにフラッシュの露光を見てしまった。完全にあの白い生き物が自分を敵視している事を感じた刹那は、やむなく相手に話を聞いてもらうためには倒されるわけには行かないとこちらも防戦する。
 本来であればあらかじめ仕込んでおいた容器に入れた液体を一気に拡散させる陰陽道の魔法を足元の温泉に対して発動させる。本来であればこのような体の下に水があるような状態ではなく、密閉空間にある液体を爆発させる事により微細な水滴を大量に作り出す呪法だったが、湯温が高かったこととすでにある程度の水滴が飛翔していた事もあって、何とかネギたちの視界を塞ぐ事が出来る程度の湯煙を上げる事に成功した。

 それを受けてカモは、視界が閉ざされるという条件が同じになり、攻撃の機先を制せなかった以上こちらに勝ち目は無いとして一目散に逃げを打った。尻尾を伸ばしてネギの口を塞ぎ、相手の視界と聴覚をごまかすために煙幕とフラッシュをある程度繰り返しながら温泉にいくつもの石を短い手で弾き入れ、その後ダッシュで尻尾に引っ掛けたネギを半ば引きずるようにしながら温泉の上を爆走する。
 刹那も誤解を解きたいだけだったので、まさか仕掛けてきたオコジョのほうが率先して逃げるなどとは考えてもいなかったので、気配を察知するのが遅れた。
 その僅かな差を生かして、カモは目的地に到着した。現在自分が助けを求める事が出来る最高戦力まで。


「ランスの旦那! 助けてくれっす、関西呪術協会の刺客がネギの兄貴を狙ってるんでさぁ」
「あん? なんだと」


 やる気のなさそうな声を上げながらも、ランスはネギたちが走ってきた方向を見つめた。だが、シィルとあてなの二人は、カモの警告に対してそんなランスほどのんきではなく、きっちりと戦闘準備を行っている。
 先ほど刹那が燭台を指弾で吹き消した事により急に明かりが消えた事に対して、人工太陽をともしたのもシィルだった。

 ここは敵地であり、暗闇での戦闘は自分の命取りになり、ランスの足手まといになるという事を理解しているが故の行動だ。



 ランスにしてみれば、どんな相手の攻撃であっても不意打ちの一撃では絶対に自分を倒せないという他者からすれば過剰とも見える自信がある。
現状においてランスを一撃で殺す事が出来るのは、神か悪魔、魔王または一部のダンジョンで眠る超超高レベルのボスモンスターぐらいのものだ。そのどれにおいても、自らの領域を侵さない限りは不意打ちを仕掛ける事なぞありえない。


 詠唱に時間のかかる極大魔法ならば不意打ちには向かないし、即座に打てる必殺技程度であれば赤い死神のバイ=ラ=ウェイすらも一撃だけなら耐えて見せるという自負は、不意打ちを喰らったとしても一撃受けた後に即座に反撃する事で十分取り返せると確信させるにいたっていた。
 そして、実際にその自信に見合った実力を持っている以上、カオスが近くにある現状において別に不意打ちを警戒する必要性なぞ皆無であるがための余裕だ。そこには、異世界という事で自分の常識外のことが起こるということなぞは一切考慮されていない。

ランスにしてみれば、あくまでこの世界は今まで冒険で訪れた場所と同じであるとしか感じていないということだった。常に圧倒的強者か、最低でも強者であったランスに自らが出しぬかれるかもしれないといった警戒心なぞ皆無だった。逆に言えば、警戒心が必要ないほど今まで強者であったということでもある。


 もっとも、ランスに警戒が必要ではないという認識だけを取ってみればランスのみではなく、シィルたちにとって見ても同じであり、彼女達は異世界の攻撃がありえるからランスを守るために体制を整えているのではなかった。
が、シィルとあてなは、ランスとは前衛と後衛という戦闘スタンスの差や、防御力、という耐えるための力に如実の違いを与えるレベルの差もあってそこまで無警戒に一撃を受ける覚悟は無いため、未知の妨害者にたいしてしっかりと構えていた。


 つまり、強すぎるがためのランスの余裕であり、絶対的強者で無いからこそのシィルとあてなの警戒なのだったが、そこまでこのパーティの事を理解しているわけでは無いカモは、油断しきっているように見えるランスではなく、いかにも何とかしてくれそうなシィルとあてなの後ろに回りこんだ。
 そこにようやく視力が回復してきた刹那が追いついてきた。


「ま、待ってください、ネギ先生…………シィル先生! なぜここに」
「桜咲さん? え、あれ? 来るのは刺客じゃ……」
「そいつが関西呪術協会の刺客でさぁ、シィルの姉御。さっきネギの兄貴にいきなり攻撃を」
「ちょ、そ、それは誤解です」


 双方、思わぬ人物の登場に思わず動作が止まるが、お互いに戦闘体制は崩さない。崩せない。
 だが、シィルとしてはまさか生徒を、自分より幼い少女を一方的に攻撃することは出来なかったし、刹那としても攻撃されなければ自分から仕掛ける事は無い。何とか誤解を解こうと努力をするものの、完全に刹那をネギの敵とみなしてしまったカモはそのごまかしの言葉には耳を貸さず、さらにシィルたちをせかす。


「むぅ…………あてな、やれ」
「はいれす。ギガロケットボウッ!」


 その言葉を受けてランスは悩んだ末、めんどくさそうにあてなに捕獲を命じた。

正直言って、状況としてはランス的に微妙なラインである。
特に興味のないガキに、将来有望そうな少女が襲い掛かったとしても、それは彼の倫理観には毛ほどの影響も及ぼさない。
美女>>女>>>>>>>>>>不細工>>>>>>>>>>>>>>男、というのがランスの判断基準だ。それゆえにカモが何と言ってもその言葉に従うことなどありえない。

ただ、今の彼のお風呂タイム気分を動かすには、刹那は余りにも幼すぎた。

これがぼん・きゅっ・ぼんの二十歳すぎとかならば即座にカモらを切り殺した後に襲い掛かるランスだったが、いくら全裸の少女といっても射程範囲外っぽいのではそれほど熱心では無かった。つるぺたも嫌いではないランスだったが、まだ早い、という判断の方が先にたつ。
ネギをドキドキさせた刹那の裸身も、ランスにとって見れば今まで見てきた女性達より一段見劣りする未熟さだった。もうちょっと育ってからの方が味が良いだろうという意味でだが。


性的な欲求を全く感じていはいなかった彼にとって、最優先事項は温泉の満喫。
そのためにはとりあえず、隣でぐちゃぐちゃやられるのもうざったいと、ただそれだけで刹那の排除を命じた。


「!!」
「ちょ、ちょっと待ってあげてください、ランス様」
「面倒だから嫌だ」


 シィルの叫びが続く前にランスの命令を受けて、即座にあてなは攻撃を開始する。体内より産み出された高密度エネルギーの矢を連射する事によって、武器すら持たぬ全裸の刹那を攻撃する。

常識を重んじるシィルとは異なり、あてなにとって相手がどんな立場の物であるか、自分の行動の善悪はどうであるか、という事は関係ない。命じられれば、果たすのみ。
 無論、美女になりそうな子供のため、ランスが殺す事まで望んでいないとして手加減はしているものの、刹那にしてみればそんなこと見ただけではわかるはずもない。受ける事は危険だとして必死になって避け、唯一持っていた手ぬぐいに気を通してぎりぎり弾き、受け流そうとする。

 しかし、こちらが勝手に誤解して攻撃を仕掛けてしまったために敵とみなされている以上、反撃を行ってしまうともはや説明する機会も与えられまい。そのため相手の攻撃を避けるために仕掛ける事すら出来ず、何とか回避しながら説明をしようとする。

 しかし、必死になって回避をしているため呼吸は乱れ、声を出す事が出来ない。戦闘能力的にはそれほどあてなに劣るものではないものの、武器もなく全裸で休む間も無い連続攻撃を受けて、刹那は確実に追い詰められていた。

だが、そこに救いの手が投げこまれる。


「待ってください!」
「はれ?」
「アニキー!! 危ないっすよ」


 あてなは思わず動きを止めた。
自分が助けている側のはずの少年が、ターゲットの前に立ちふさがるという珍事が起こったからだ。


 瞬時に大魔女フロストバイン謹製の人工知能をフル回転させた彼女が始めに思った事は、彼はあのターゲットに魔法か何かで操られて盾にされているのか、という事だった。
 以前聞いたとき主であるランスは鉄拳交じりで否定したが、かつての彼女のおうちである闘神都市ユプシロンにおいてちょーぜつさいきょーのランスすらも魔法によって他者に操られた事があるとあてなはシィルから聞いている。
 同種の魔法がこの世界にもあって、自分が感知できないうちに少年に仕掛けられてしまったのかと思ったのだ。自分を直接狙わなかったのは、動きを警戒していたからか、もしくは仕掛けたが魔法抵抗の高さによって失敗したのだろう、と。



 とりあえず、ネギがどういった立場の者かということを知らないあてなは、いつも通り人質を無視してネギごとターゲットを仕留めて良いのかということをランスに視線でお伺いを立てる。
しかし、ランスがガキごとやってしまえ、という前にネギが声を出したため、とりあえずそれを聞いてから判断しようと一時視線の方向をターゲットと少年に戻す。


「刹那さん、関西呪術協会の刺客と言うのは本当ですか?」
「い、いいえ。私は先生と同じく、学園長先生にお嬢様の護衛としての任に就かせていただいているものです」
「そうですか………わかりました、誤解してすみませんでした」
「ア、アニキ~~! 嘘に決まってるじゃないっすか!!」
「そんな、決してネギ先生らに危害を加えるつもりはありません」
「じゃあ何でさっきはよりにもよって兄貴のアソコを掴みやがったんだ!!」
「あ、あれは仕事上、ああするのがセオリーなのでつい癖で……」




 攻撃を仕掛けていた自分を無視して勝手に内部でもめ始めたネギ達を見たあてなは、今度は声に出してランスにお伺いを立てる。
 あてなにとってみればよくわからない状態になったときは、主であり、親であり、恋人であるランスに聞くべきなのだ。


「ご主人様、どうするんれすか?」
「………よし、面倒くさいからほおって置くぞ。行くぞ、シィル」
「え……ちょ、ちょっと待ってくださいランス様、いいのかなあ?」


 ランスとしてはネギが操られていようがだまされていようが、本当に単なる誤解によるものであろうがどうでもいいことであったので、目の前でのごちゃごちゃに飽きると介入する必要性を感じなくなっていた。
 温泉を十分に堪能した以上、もはや無関係とさっさとカオスをつかんで帰ろうとしていたのだが、ネギがナニを思ったのかとち狂って敵の圏内に入ってしまったのに、戦力がいなくなってしまうのはカモにしてみれば困るどころの話ではなかったため、必死で止めようとする。


「そ、そんな、まだコイツが本当に味方と決まったわけじゃあ……」
「カモ君、もういいよ」


 最悪の場合自分の財産に変えてもランスを引きとめようと思っていたカモだったが、それはカモが助けなければならない側であるはずのネギによって止められた。


「心配してくれてありがとう。でも、『立派な魔法使い』になろうとする者が、話し合いもしないで頭から信じないのはやっぱり間違っていると思ったんだ」
「~~~~~アニキ~~~~~~それは立派なことっすけど、やっぱり……」


 ネギのそういった甘いところを気に入っているカモは、それ以上刹那を敵視しろと言い募る事は出来なかったが、そういった甘いネギを助けるためのサポートこそが自らの役目であると思っているカモにしてみれば、はいそうですね、とうなずく事はできないネギの行動だった。
 しかし、そのネギの言葉に感銘を受けたのか、そこに刹那が追い討ちをかける。


「信じてくださってありがとうございます、ネギ先生。こちらの勘違いで危害を加えそうになった以上、そこの妖精が私の事を信じられないのは無理もありませんが、私の刀に誓ってネギ先生らに危害を加えるつもりはありません。どうか許してください」
「…………ふん、行くぞ、あてな、シィル」
「え? ……はい、わかりました」
「じゃ~ね~」
「ちょ、ちょっと待って……」


 その言葉を聞いていたランスたちだったが、青臭い青年の主張とでも思ったのか、それとも体が冷えるのを嫌ったのかはわからないが、今度はカモが引き止めるまもなく立ち去ってしまった。
 ランスたちが立ち去ってしまった以上、これ以上相手に対して警戒心をあらわにする事は、今はこちらを攻撃するつもりは無いように見える刹那を下手に刺激する事になるとして、カモはしぶしぶながら攻撃する事をやめた。
 しかし、何かあったときには自らの身を挺してもネギを守ろうと、刹那に対して警戒を緩める事はなかった。



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基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


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