スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

ドラゴンに首ったけ 番外2

おまけ劇場その2 『メイドより愛をこめて』













目を覚まします。
見えるのは、勿論見慣れた天井です。いつも通りの朝なので、当然いつも通り押しつぶされそうなぐらい近くに天井があります。いつかはあの天井に頭をぶつけれるほど大きくなってやろうと思っていますが、なかなか背が伸びないんですよね……二段ベッドの上のほうなので、めちゃくちゃ天井が近いんです。

正直見慣れた感もありますが、こうやって物語で目が覚めて天井を見たら、言うことは一つですよね。すーはーすーはー……では、いきますよ?


「『大丈夫、天井のしみを数えてる間に終わるから』」
「そこは普通、『知らない天井だ……』じゃないの?」


間髪いれずに付近から一斉に突込みが帰ってきました。どうやら同室のみんなはすでにほとんど起きていたようです。
そもそも天井のしみを数えてる間に終わっちゃうなんて、どうなの? そんな声も聞こえます。確かに今や魔界の建築物のほとんどには大なり小なり魔法がかかわっています。魔法で均一になるように作られた天井にそれほどしみを発見できるはずもなし、そんなんで終わっちゃったら花嫁さんによる失望の声は避けられないと思いますね。

まあ、とりあえずお約束は済んだので、安心して起き上がります。すかっ……天井に頭をぶつけられるのは、まだまだ先のようです。
あたりを見渡すとこれまた十人ぐらいが共同で使っている寝室ですが、夜勤で部屋にいないものを除くとほとんど身支度までしてしまっているみたいです。
やばい、私も急がねば。


おおっと、その前に。
では、改めまして、おはようございます。

ここ、ブラッド様宅の竜の巣で働く従業員の一人、メイド77号です。とはいっても、流石に寝ているときはメイド服じゃなくて、パジャマを着てますよ?
とりあえず、シーツを引っぺがして、顔を洗ってから着替えてくるので、ちょっと待っておいてくださいね。




ふう、着替え終わりました。朝はサービスシーンを入れてる時間もないんです、ごめんなさい。
何せ、私は連隊長見たく魔法で身支度整えられるほど細かな魔力の制御力がないので、相変わらず朝の洗面台という戦場に行かずを得ず、さらに今日そこにて敗北を喫してしまったのです。
あそこでは上官も部下も、士官も派遣も関係なく、女の子としてのプライドと時間の戦いですので、いつも激戦区です。今日はそこでドライヤー(という名の熱風が出るマジックアイテムのことです)の争奪戦に負けてしまったので、いつも以上に時間が掛かってしまいました。
ギュンギュスカー商会の内規によって、竜の巣勤務の場合少尉以上になると一人用の個室をもらえるようになるので、私も早く出世したいですねえ……お給金も上がりますしね。
あ、言い忘れていましたけど、私達は御主人様に買い取られた身ですが基本的な内規は商会のものに準じています。無論、若干の規則の変更はあります(具体的には、性交渉の禁止とかの規則は撤廃されてますね)が、それはおいおい覚えていっていただければいいかと。



さて、とりあえず身支度が整ったら、食事にいかなければなりません。
実はここも激戦区の一つなのです。
起きるのが遅かったので出遅れた私は、あわてて食堂のほうへと向かいますが……ああ、やっぱりここでも長蛇の列。でーおーくーれーたー。


とりあえず、自分の席にトレーと食器が一式並んでいるので、私もそれを取って列の最後尾に並びます。
テーブルを見ると、起床したかどうかの出欠にもなっているトレーが残っている席はほぼ皆無。つまり、私以外ほぼ全員が並んでいるor食べている、ということになります。

昼はみんな食べる時間が違うからこんなに渋滞しないし、夜は大皿から取り分ける方式なので出遅れれば食べ損なうだけ(いえ、それはそれで痛いんですが)なのですが、朝だけはこういった配給方式なので、遅れると並ぶのに時間が掛かりすぎて、食べる時間と食後のお茶の時間が減ってしまいます。
いや、今日もこの時間だと、お茶は無しかもしれません……はあ。


のろのろと進む列におなかを鳴らせて待っていると、ようやく朝食を配っている厨房担当のキッチンメイドたちの姿が見えてきました。御主人様の生贄の一人で料理番を勤めておられる獣人であるユメ様の姿が見当たらないので、きっと今日の食事は彼女達が作ったんでしょうね。
本当は最近まではマルトーさんという人間の方がユメ様がいないときは仕切っておられたのですが、残念ながらついこの間おこったとある大事件の後、粛清されてしまいました。ご愁傷様です。

マルトーさんの作るタルトが好きだった私としては悲しいことですけど、まあ仕方ないですよね。
でも、思い出すとまた食べたくなってきたなあ……ユメ様はあまりデザート類は得意じゃないらしいので(元々獣人の村ではそういった食後に甘いもの、という習慣がないそうです)、厨房にいる友達のメイドに再現してもらおうかな? 

まあとにかく、そういったわけで最近ではユメ様がいないときは彼女達が作ってます。
大丈夫、ユメ様ほどじゃないですけど、きっちりユメ様に仕込まれているだけあって、結構いけます。私も手すきの時間に教えてもらおうかと思ったのですが、ユメ様に同じことを頼みに行った仲間が槍一本で食材をしとめて来いといわれているのを見て、やめました。
流石に猪とか熊まで体ひとつで倒すのは、かよわい私には無理です。
つまり、彼女達はその試練に討ちかった猛者なのです!

……ちょっとだけ尊敬しちゃいますね。たまにお菓子とかも差し入れてくれますし。
そして、それを食べるたびに甘い食感と共に敗北の味が口に広がるのです……くっ、女の子っぽいアピールのつもりか、と。
私達の統率役である連隊長すら似合わないことにお茶だけはきちんと入れられると聞きますので、私もお嫁に行く前に何かひとつ特技を見に付けておきたいと思います。私、何も出来ないんですよねー、そういうこと。

おおっと、そんなことを考えているうちに、私の番まで回ってきましたね。
正直実家で暮らしていたころよりもここのご飯のほうが遥かにおいしいので、みんな同様私も毎回の食事の時間を楽しみにしてます。
さて、今日のメニューは何かなーっと。



もぐもぐ。今日の食事は、白パンとチーズと……これは、鹿肉のシチューですかね? あと、葉野菜のサラダでした。シチューに結構なボリュームがあるので、正直カロリーは気になりますけど、何せメイドというのは肉体労働だけあってこれでもお昼にはいつもお腹がすきすきです。
おやつさえ食べ過ぎなければ、太らない程度のカロリーになっているらしいですし。それにしても、煮込み料理は失敗しにくいだけあって、なかなかの味です。思わず御代わりしてしまいそうです。

うまうま、しかし、今日の鹿肉は昨日食べた猪より臭みがなくておいしいです。このあたりは小麦の生産も盛んらしく、毎日白パンが食べられるのも良いですね。私、黒パンより白パンのほうが好きなんです。やわらかいし。食べる直前に軽く炙るとさらにいい感じですよね?
総じて、私は今朝の食事に満足しました。思わず感謝の祈りを魔界を収める魔王様と私の御主人様にささげます。
今日もご馳走様でした。


ふう……さて。残念ながら食後のお茶の時間は残りませんでした。
もうすぐ勤務時間なので、仕事に向かわねばなりません。本社にあるというタイムカードなるものがあるわけではありませんが、ここで一人残ってお茶を飲んでいたらサボっているの丸分かりですしね。周りを見てもほとんど私一人になっています。
急ぎましょう。

では、今日も一日がんばりますか。




基本的に私はハウスメイドとしてキッチンメイドのみんなのように特定の仕事を持たずいろいろやります。つまりいわゆる一般的に思い浮かべられるメイドというお仕事が担当です。
でも、チェインバーメイドという寝室等の整備が仕事のメイドの資格も持ってますので、基本的にそっちに割り当てられることが多いですね。と、言うわけで今日も午前中はその仕事でした。

珍しく、御主人様が午前中からお出かけになられたので、まずはベッドメイクをと思った連隊長によりつい先ほど御主人様の寝室に派遣されたのですが……ものすごいことになってます。


何せベッド自体が私達のとは比べ物にならないほど大きいのでシーツ変えだけでも大変なのですが、それに加えて御主人様には「夜の生活練習」があります。まずシーツが完全に乾いていることがないです。
まあ、竜の巣作りというのはそういうお仕事だ、ということは理解しているんですが……うわ、今日はまたひときわひどい。これはどう考えても相手の方一人じゃないですね。

ユメ様は食堂にいなかったから確定として、後はどなただったのでしょうか? 多分、昨晩はメイド部隊からはいないと思うんですけどね……あ、そういえば、ルクル様が昨日は来ていらっしゃったので、多分一緒でしたね。フェイ様もなんだか上機嫌だったので、ひょっとすると三人一緒? 
さすがドラゴン、絶倫ですね。

……まあ、詮索はこのぐらいにしておきます。私達は御主人様にとって空気、なければ困るけど、余計な関与はしない無視できる存在であればいいということぐらい研修でさんざん習ってますよね。

それにしても、シーツがえらいことに。もうちょっとでシーツの下まで取り替えなければならないところでした。
うわ、何故か天蓋から落ちてるドレープ(ベッドの上に掛かってるカーテン見たいなののことです)にまで染みが。一体昨晩ここでどんなプレイが!
…………とりあえず、御主人様が帰ってこられたら、「ゆうべは おたのしみでしたね」といってみることにしましょう。

シーツとドレープ、ついでに枕も取り替えて、におい消し用に換気魔法を使ってさらに軽く香水を振りまいた後、もう一度ピシッと、シーツの皺を整えればとりあえずは終わりです。
今日の私の担当はシーツの交換だけで、清掃はまた別の担当が行います。この部屋だけ毎朝えらく汚れているベッド周りはさておき、それ以外の細かな部分なら清掃は清掃だけで他の部屋と一緒にやったほうが効率良いですしね。
白いシーツが皺一つない状態になっていると、思わず飛び込んで波打たせたくなりますが、それをやってしまうとまたやり直しなので我慢します。以前やっていたのが連隊長に見つかってこっぴどく怒られた覚えもありますし。

では、流石にこれ全部を手で持っていくのは無理ですし服も濡れてしまいそうなので、魔法で浮かせて洗濯部屋にまでもっていくことにします。メイドというのは気力と体力と魔力のいるお仕事なのです。





ふう、ようやく終わりました。御主人様が引き取って育てている子供達が洗濯部屋にいたのにはあせりましたよ。運んでいるシーツを見られて万が一「これ何~?」とか言われたら答えられませんからね、教育によろしくありません。
こっそり洗濯担当のメイドに渡すのには結構な手間が掛かりました。

さて、次は……と、スケジュールの確認のためにメイドスルームという待機部屋に向かって、そこの黒板に書いてある己の名前の欄を確認します。ここに一日の最初に今日の仕事を書いておくんです。時折変更もあるので、一旦仕事が終わったら小休憩もかねてここに来るのが一般的です。
ちなみに、この部屋で今日はなにやるのか、というミーティングも行われます。それで告げられた午前、午後と分かれている仕事が終わればここで待機。何かの事態に備えて御主人様らのお呼びや仲間の応援要請を待ちます。勿論、ローテーションになっているので、私が仕事をやっている間にここで待機していて、私が片付け終わったら自分の担当の仕事をやりに行くものもいますから、誰かしらここに人はいますね。
みんな仕事に出ているから、御主人様のお呼びには向かえませーん、なんていうわけにはいかないですしね。


さて、次の仕事は何かな~っと、あ、餌やりですね。私の好きな仕事の一つです。デイリーメイドという酪農担当のメイド資格も持ってます……一番簡単に取れる資格なんです。
人型をしているレアモンスターは食堂で食べていたりもしますし、メイド19号とかが個人的に与えている魔物もいますが、基本的にはこれも私たちメイド部隊の仕事です。
そういえば、ガンジェットさんって何食べてるんでしょう? 食堂に来ているの見たことないですね。
以前は「愛」とか言ってましたけど……まさかね。

まあ、それはさておき基本的には一日二回、ちょうど私達の食事の中間ぐらいの時間に与えに行きます。無論、夜の間防衛についていたものには、ちゃんと夜食を与えますけど。

さて、では彼らの居住空間に彼ら用の食べ物をもって行くことにしますか。これは私達が作ってます。といっても、商会からまとめて購入している種族種族にあったインスタントですから味付けとかはすでに済んでいて、火を入れるだけとかなんですけど。
時折失敗するものもいますが、それもご愛嬌。まあ、ハラミボディとかは知能があるので一応普通の料理っぽくなってますが、ベトとかミックスとかは味覚ないみたいなので、基本的にはペットフードならぬ魔物フードといったところでしょうか? 
一度好奇心に負けて味見してみた仲間によると「そんなに……悪くない?」らしいです。


「あれ? どうかした、クリームちゃん二号。なんだかやつれていますよ?」
『……』
「はあ、……後でいっておきますね」


ちなみにこのとき簡単に体調も見ます。最も、基本的に私たちそれほど魔物の生態について知識があるというわけでもないので、なんだかやせてないか、とか、皮膚の色が変わってないか、とか、あるいは体調不良を訴えかけてこないか、とかぐらいしか出来ませんけど。言葉がわかるだけなので、基本的に自覚症状がないやつには無力ですね。それは専門の医務室の人とかにお任せです。
まあ、基本的に私達が来るまで放置されているということもなく、魔物同士で面倒を見合って、まずそうだったら医務室に連れて行くとかで何とかしているみたいです。
それなりに知能がある魔物もいますから。


……ちなみに、魔法障壁を持つ芋虫型の魔物イモモであるクリームちゃん二号は、今度こそ、しっかり育てるんだ、とか言って必殺無効も覚えさせようとするメイド19号の猛特訓を受けさせられていたらしいです。
確か、イモモは必殺無効の習得が種族的に無理だったような気がするので、後で辞めるように言っておきます。このままでは使い物にならなくされてしまいそうですので。




お昼は、パスタ、ペペロンチーノことスパゲッティ・アーリオ・オーリオ・ペペロンチーノでした。シフトの関係で基本的にお昼はみんな取る時間がばらばらですし、一番忙しい時間帯ということもあって、いつも結構軽めです。だから朝食はしっかり取らないと余計に体が持ちません。
すでに私が入ったときから茹で始められていたパスタが、フライパンの中でオイルにまみれていた唐辛子と大蒜によるソースと皿の上で絡められているのが良く見えます。お昼はこういったすぐできるものや冷めてもおいしい作り置きの利くもののことが多いですね。

さて、食べましょうか。う~ん、いい香り。
この後仕事もあることもあって大蒜は控えめにされていますが、食べてみるとその分唐辛子の辛味とパスタの食感がよくわかります。
ちなみにパスタは自家製です。唐辛子は輸入ですが、その他のものも大部分はこの周辺から貢物として集められたものですので、原価もただみたいなものらしいですよ? 
連隊長もコストを抑えられてほくほく顔です。

まあ、それはさておき残念ながらこの時間シフトがあっているものがいなかったので一人さびしく黙々と食べていたこともあって、あっという間に完食です。さっき「ワルド警報」が出てましたので、きっとそっちのほうにみんな行ってるんでしょうね。
朝とは違って今度は食後の飲み物を飲む時間が取れました。私、実は自分でお茶を入れるのが苦手なので、今日は作り置きのレモネードにすることにしましょうかね。さっき辛いの食べましたし。

その後は休憩室にでも行くことに決めました。あそこなら誰かはいるでしょうし、カードでもしましょう。最近、罰ゲームで赤汁を飲ませることがはやっているので、負けるわけには行きません。
よしっ! じゃあ、片付けますか。



休憩が終わったあたりで、巣の前にはすでに財宝が積み上げられているので向かうように、という命令も受けました。きっと、今日町を襲撃に向かった御主人様の戦利品、貢物ですね。
御主人様が町を壊しすぎず、舐められすぎないいい感じに破壊すると、人間達はあわててここまで貢物を持ってきます。何せ次は自分の町かもしれないんですから。壊しすぎると反感を買ってしまってここまでやられるならいっそ、と巣に襲ってくる確率が高くなりますし、あまりに壊さないと「ああ、こんな程度か」と侵入者は弱くなりますけど、同時に町々からの貢物の量も減ってしまいます。
御主人様は町々の中で最も貢物が少なかった町を標的にしておられ、その事実は連隊長によって積極的に各村や町の長に伝えられています。結果として、襲撃したあとから二、三日は競うようにして貢物が集まります。喉もと過ぎれば熱さを忘れる、じゃないですけどしばらくしたら落ち着くんですけどね。

このいい感じ、というのが混血でうまく力の制御の出来ない御主人様には大変らしいですけど、今回はうまくいったみたいですね。私が入り口前に行ってみると、結構な量の財宝が巣の前に詰まれていました。いつもはこの入り口付近でたむろっている侵入者さん達も、迎撃部隊に遠ざけられているみたいなので、今のうちに宝物庫に入れてしまわなければなりません。


「はーい、集合。じゃあ、いつも通り五班に分かれて運搬作業よろしくー」
「了解しましたー」「おっけーでーす」「もうやってまーす」


とりあえず、私は細かい作業は苦手ですが、魔力だけは結構あるので壊れにくくしかも嵩張って重い貢物、食料品等を魔法で食料庫に運ぶことが担当になることが多いです。流石にちょっと力加減間違えれば壊してしまいそうな宝飾品とかをこの魔法で運べる自身はないので…………こんな感じで得意分野ごとに私達は五班に分かれていつも運んでいるんです。
何せ食料品から日用品、薬品に宝飾品、貴金属のインゴットなどからはたまた生贄の人間まで、ありとあらゆるものが貢物になってますからね……「なんで、お金だけにしない? 商店で買えば良いのに」という疑問も当然おありでしょうが、まあ、伝統だから仕方がないです。
付近の農村とかにはそんなに現金があるわけないですしね。


担当の場所に行ってみると今回届いたのは、小麦が数十袋に、野菜が荷台二つ分。屠ってある牛と豚が数頭ずつ。後は果物とかお菓子とか細かなものが少々といったところでしょうか。ワインも結構ありますけど、これは私では運べないので後回しにします。
あ、今回もお米は無いですね…………かつての巣ではたまに米、という作物が貢物に上がることが有ったのですが、こっちに来てからはさっぱり見ません。前に食べたライスプディングとやらをもう一度食したいと思っているのですが、気候が若干エルブワード王国とは違うので、このあたりでは栽培していないのかもしれませんね。ユメ様も探していた食材なので結構気に掛けてみているんですけど、もう商会に頼んで購入したほうが良いかも、と進言することにします。
では、運びますか。


「誰かいますかー? 持ってきましたから、鍵開けてください」
「はいはい、空けましたよ?」
「あ、ユメ様。ありがとうございます」


食料庫の隣に位置している厨房にいたらしきユメ様に、扉を開けてもらいます。厨房と食料庫はただの扉一枚で繋がっているのですが、廊下から直接食料庫に入ろうとすれば、厨房に有る鍵を使って扉を開けなければなりません。中には氷の魔法が掛かっているので、保安上の問題で鍵を掛けて有りますので、魔法の制御で手一杯な私では誰かに空けてもらわないと室内に入れないもので。
御主人様の生贄であるユメ様は、ある意味連隊長より地位は上ですので、このような雑事を煩わせるのは少々心苦しくはありますが、基本的に彼女常にここに詰めてますので、この程度のことで気にしていては仕事にならないと言うこともあって、遠慮なく開けてもらったままで部屋に入ります。


「このお肉はこっちで良いですか?」
「いえ、どちらかというと、こっちです」


その後私は、ユメ様の指示に従って先ほどキッチンメイド達とユメ様に即座に解体されたブロック肉を棚においていきます。何せ料理が出来ない私はバラされてしまうと豚肉と牛肉の区別もつきませんからね。
自分で判別できる別のメイドに代わってもらったほうが、と思うのですが、どうやら食料運搬班の中で最初にここにたどり着くことになった私は、後から後から入ってくる食料をユメ様の指示に従って魔法を使って振り分けるクレーン役となったようです。
魔法で浮かせているのである程度重量があろうが問題ないのですが、何せ量が量。巣の中にいる従業員その他数十人分の食料ですから、一回では到底終わりません。通路の幅の問題などもあって何度も往復せざるをえませんから、巣の入り口と食料庫を延々と往復し続けるのも結構な手間が掛かりますからどっちが大変か、といわれると困りますが、この寒い食料庫にメイド服一枚でずっと魔法を使い続ける、というのもわりと重労働です。制御力に不安がありますので、魔法を使って暖を取る、というわけにも行きませんし。

結局私は寒さに震えながらずっと食料庫の中で延々と食料を各場所に配置することしか出来ませんでした。ああ、あったかいお茶がおいしい。




連隊長が御主人様と共に帰宅し、暇なメイドに招集を掛けたころには、もう本日の通常業務は終わりに近いころでした。たまに連隊長は私達の意見を述べる機会を与えてくれます。私はよくわかりませんが、何でも上のものは下のものの不満を聞く義務があるそうです……と、言うことは連隊長は御主人様にわがまま言いたい放題?

まあ、それはさておき今回の議題は効率的な迎撃方法案がないか、ということでした。
もうこの時間帯になると侵入者が入ってくることはあまりないので、今のうちにアイディアがあれば聞いておこう、ということでしょう。一部の魔物は夜になると力を増す、ということぐらいはこの地方でもようやく認知され始めたころですしね(それでもあのワルドとかいうのはかまわず入ってくるらしいですけど)。


「はい、連隊長! 提案があります。もうこりゃスゲ~ぜって金一封出るぐらいの名案がっ!」
「…………とりあえず言ってみなさい、88号」


この間渾身の策だったらしい、迎撃部隊のBGMを「だだっだっだだん!」とターミなネーターのテーマにしようという提案を却下されてから、ちょっと元気のなかった厨房担当メイドの88号が提案を出しました。今度は「ばばばん、ばばばん、ばばばばばばばばばばん」と、御主人様の出撃のテーマ曲を放射能怪獣のテーマにでもするつもりでしょうか? 彼女とはぞろ目仲間ということで結構仲がいいです。
あ、基本的に私達はお互いを番号で呼び合います。名前を知っていても、「メイド=主人にとっての空気」の法則を徹底するために、基本的に名前で呼ぶことは許されません。入れ替わり立ち替わり出たり入ったりする私達のことです。名前で呼んでも御主人様も覚えきれないと思いますが、まあ一応念のためってやつですね。
故に、お客様相手に失礼になりそうなときのみ名を名乗るぐらいですね。なんか、企業っぽくってかっこいいでしょう?

それはさておき、ここの職場では別にキッチンメイドだろうとパーラーメイドだろうとはたまたお手伝いとしてきているテファ様の連れてきた人間の女の子だろうと、迎撃のことに関していいアイディアを出せば褒章がもらえます。このあたりが身分関係が緩いこの巣ならではですね。
聞くところによるともうトゥイニーとかハウスメイドとかは仕事だけやってれば良いんだ、って感じの職場もあるらしいですけど、ここは御主人様が御主人様ですからね。もう身分関係ゆるゆるです…………連隊長に見つからなければ、ご主人様に対してタメ口きいても多分許されます。

そんな感じの職場で88号が自ら金一封などと自信満々で述べた提案は、その自信にふさわしいものでした。


「はい、トラップを起動させるスイッチをわざと見つかりやすい場所に作るのです」
「……ほほぅ、それは何故?」


これだけを聞いたとき、何を言っているのだ、と思われることでしょう。そんなことすれば冒険者達が避けて通ってしまうじゃないか、と。
私もそう思いました。が、そう思わせることこそが彼女の話術の巧みなところでした。この後に誰もが驚くような展開が待っていたのです。


「ふっふっふ、それだけでは確かに意味のないことです。ですが、もしその隣に『押すな』と書いてあればどうでしょうか?」
「「「っ!!」」」
「…………」


な、なんという恐ろしい策でしょうか。人間達の生態に詳しく、さらに察しの良い私やその他の鋭いメイドたちはあっという間に88号の言いたいことが理解できてしまい、その巧妙さに思わず息をのみます。
連隊長はまだ理解できないのか、まだ微妙な目で88号を見ています。

ふっ、愚かな連隊長です。88号、説明してあげなさい!
私の心の声が聞こえたわけでもないのでしょうが、88号は大きな声でそれを連隊長に説明してあげていました。


「そう、あからさまなスイッチ、そしてその隣に書いてある文字。人間が押さずにいられるでしょうか? いや、そんなわけは無い。人間は脆弱すぎる肉体でありながら好奇心という感情によってこの世界に繁栄してきた生物です。この人間心理をついた巧妙な罠からのがれられるはずがありませんっ!」
「…………」


そう、人間は「押すなよ、絶対に押すなよ」といわれると絶対に押してしまう性質があると聞きます。ならばそれを逆用すれば…………今までは回避されたり、そもそもスイッチがうまく入らないので起動しなかったりしたのが嘘のように、命中率100パーセントを誇る罠が出来てしまうということです。
恐ろしい、なんと恐ろしい罠でしょうか。悪魔のごとき鬼謀ですね、88号……いえ、まあ私達従業員のほとんどが魔族で吸血鬼なので事実「悪魔」で「鬼」なのですが。


「却下」
「がーんっ!」


にもかかわらず、却下されてしまいました。
連隊長は固定観念というものを打ち破る訓練をしたほうがいいのかもしれません。





その後もなんだかんだとしていたら、気付けば外ではもうとっくに日も落ちている時間帯。斯くして一日が終わります。夜勤の者達はこれからが仕事時間になるわけですが、私は今週、来週と夜勤は入っていないので、これで終わりです。その分シフトが変わる明日からは、随分朝が早くなるのですが。
早起きをしなければならない明日のことを考えると憂鬱になりそうなので、脳裏から追いやって晩御飯を食べることにします。

ディナーのメインは牛肉の香草焼きでした。ご主人様用のメインを作るついでに塊のまま大きなオーブンで焼いたのでそれほど手間は掛かってない、とはユメ様は言ってましたが、赤ワインとハーブの入ったタレに漬け込んでいるだけあって、とろっとした脂にハーブの香りが良く合います……などと評論家じみたことがいえるようになるとは、私の舌も随分肥えたものです。
ああ、この巣に来てよかった……ちょっと最近、食べすぎが心配ですが。

それに豆っぽいスープもついてましたし、グラス一杯分だけでしたけど、ワインもありましたね、けふー。
あと、ドフィノワーズとかいうのも有ったんですけど、正直言ってこっちは私にはグラタンとどこが違うのかわかりませんでした。まだまだ修行が足りないということなのでしょうか。

まあ、とにかく新たな食材が入ったので今まで残っていた古くなりかけのを使い尽くそうということなのでしょう。かなり豪華でした。
個人的にはりんごのコンポートの入ったババロアがデザートについていたのが高得点です。ふわっとした甘みが広がった後にりんごの香りと味が一気に来て、すっごくおいしかったです。

と、いうわけで大満足の晩御飯でした。
流石にいつもここまで豪華なわけではないですが、それでもユメ様が御主人様の元に来てからは、パンとスープだけ、なんていう貧しい食事になったことはないですね。この巣、本当に食事という意味での労働環境は整ってますよ。
前に行ったラスキートの方の巣なんてひどかったですからね。海の中にある関係上、毎日魚ばっか。どれほどお肉が恋しかったことか。

ここではいつもお肉かお魚のどちらかは出てきます……お肉のほうが圧倒的に多いので、カロリーが心配ですけど。
あ~、おいしかった! ブラボー御主人様、ラブリーユメ様、って感じですね。

さあて、もうちょっと酔いがさめたら最近完成した大浴場にいって、一日の疲れを癒したいと思います。


それでは、お仕事と大雑把なシフトの説明は、今日はここまで。
こんな感じで私達のお仕事は日々進んでいきます。
商会から買い受けられた以上、基本的に私達は御主人様の所有物です。気まぐれに壊されても、捨てられても文句は言えない立場です。それは常に自覚しておかねばなりません。
そうされないためには……頑張るしかないですね。御主人様は頑張ってさえいれば、私達を見捨てるような方ではありませんから。
では、お互いに頑張りましょう。





そう一言最後に述べて、メイド77号は自身の魔力で今日一日中浮遊させていた記録魔法用の媒体を停止させた。
今日は一日今度入ってくる新人教育用に研修用の映像を作るために魔法を一日中起動させていたことでそれなりに疲れは生じていたものの、彼女は自分に数年ぶりに後輩ができることを喜んでいた。

いろいろ余計なこと言い過ぎということで後でクーに山ほど添削を食らうことになるとも知らずに、「これで臨時ボーナスが出る~」などとうれしげに呟きながらではあるが。

Comment

いやー、ドラゴンに首ったけの新作楽しみにしていましたよ。
これで残る番外編はアンリエッタとレコンキスタの話だけですね。
ほかにも番外編のネタがあればよろしくお願いしますね。

相変わらずほのぼの。メイド可愛いなあ
山一つをくりぬいて作るのですから、物凄い広さになるのは必然。そうなるとメイド1000号とかまで居たりしそうですね
ずらっと並んだメイドさんの群れ……。これはモフらない訳にはいきませんぞ!

食事に豆のスープ…マルトー作なのか?
牛肉の香草焼きと書いてあるけど、どうしても捌かれたマルトーさんにしか見えない自分はかなり重症かもしれないと思いつつ…。

ワルド警報ってメイドが買取られてるって事は既にワルドはサイトに殺された後じゃ?
まぁ番外編だし、面白かったので細かいことはいいか。
実はサイトだからトドメまでは刺してなくて、ドラゴンを倒せば恩赦が出るとかいう条件付きで
捕まってる可能性もありますしね。
非公開コメント

プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
カテゴリ
カウンター
検索フォーム
QRコード
QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。