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鬼畜ま!10

十話














 ネギの首筋にエヴァの牙が迫っていく。
 しかし、後一歩でようやくこの十五年越しの願いがかなうと言うのに、エヴァの胸はまったく高鳴らなかった。

 どうした、エヴァンジェリン。お前は「悪の魔法使い」だろう。
 ようやくあの忌々しい「登校地獄」の呪いから逃れることが出来ると言うのに何を躊躇う事がある。

 そう心の中で発破をかけるものの、牙はネギの首筋30センチほどの空中に止まったまま、これ以上まったく進まない。


「やめてください、エヴァンジェリンさん!! 怖い、怖いですよ。うわーん、誰か助けてー! おねーちゃーん!! 明日菜さーん!!」


 見苦しく自分の下でわめいているコイツのせいだ。




 確かに自分は女子供を殺さない主義だ。
 しかし、ナギは死んでしまった以上、サウザンドマスターとまで呼ばれた魔法使いの掛けた呪いを解除できるほどの実力者で、しかも悪名高い自分の呪いを解除してくれる者が存在するとは思えない。

 事実、学園長の近衛の爺はどれほど自分を利用して利益を上げようとも恒久的に呪いを解呪しようとするそぶりすら見せず、逆にこちらが解呪のための情報を集めることすらいろいろと妨害すらしてきたこともある。
 であれば、ここでこのぼーやを殺すことになっても血を吸って自力で解除をしなければ、自分は一生ここで中学生をやる羽目になってしまう。
 いや、吸血鬼である自分に寿命なぞ存在しない以上、一生などと言う明確な区切りは無い。
 誰かによって倒されるまで、この地で永遠に、飽きるほど長い生を紡がなければならないのだ………近右衛門やその子孫に時折便利に使われる中学生をやりながら!

 であれば、たとえほんの少し自分の主義主張を歪めることとなっても、あの憎きサウザンドマスターの息子を手にかけるしか選択肢が無いではないか。


 しかし、牙が進まない。


 まるで全身が見えない蜘蛛の糸でからめとられたかの様にまったく動かせない。
 早くしなければ何処からかこの事を嗅ぎつけて近右衛門達が来てしまうだろう。
 そうなってはもう二度とこのような機会は巡ってこず、永遠に「登校地獄」は解除できない。
 早くその牙を突き刺し、無垢な子供の血を啜って今度こそはあの男に復讐をすべきだと胸のうちの「悪の魔法使い」が叫ぶ。
 自分の理性もそれを肯定しているため、戸惑うべきではないはずだ。






 だが…………六百年もの時を超えて悲痛な叫びが聞こえるのだ。

 貴族として、何一つ不自由の無い、優しい人たちの間で生活を行っていた少女。
 この世は絵本のような甘くて幸せな世界で、いずれは自分も母のようにどこかの国の素敵な王子様と出会い、真っ白なウエディングドレスに身を包んで父と母と友人達に祝福されながら幸せな口付けをかわすのだと信じて疑わなかったあの子。

 その子が、わずか齢10のときに、すべてに祝福されていたあの誕生日の夜に、狂った男に襲われたときの悲鳴。


 幾度もやめてと叫んだ。
 何度となく涙を流した。
 絶え間なく両親に救いを求めた。


 しかし、その願いは聞き遂げられることはなく………その悲鳴を耳に残しながら、その少女の魂は闇に堕ち、夜の住人へと変わり果てたときの絶望の叫びが。
 一夜にして両親と友人を失い、永遠に光の下で許されることはなく、血を啜っては命をつなぐ化け物へと代わった少女の悲しみの声が聞こえるのだ。


 そのときの悲鳴がネギの声で思い返され、それがきっかけであの時感じた絶望が頭の中にフラッシュバックする。
 こんな、だまし討ちのような方法で魔力を取り戻して、あのナギの墓に胸を張って罵倒しにいけるか?
 たとえこの父親が自分に呪いを掛けたとしても、それがこの10歳にもならぬ、自分が闇に堕ちた時と同じ年齢の少年に何の関係がある?
 今自分がやろうとしていることと、600年前少女を襲った狂人が行ったことと、何か違いがあるか?

 自分は今まで600年間「誇りある悪」であろうとして、生きてきた。

 その誓いを破ることは、このエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルを、この身へと貶めた「父親」の様な下種と同類だと認めることとなるのではないか。
 そんな自分の中の「誇りある悪」が、血を吸えとささやく「悪の魔法使い」と自分が主導権を握ろうとしのぎを削っている。


 隣で茶々丸が完全に動きが止まったエヴァを心なしか心配そうに感じられるレンズで出来た瞳でこちらを伺っている。
 その奥で先日の戦いでエヴァの魔力が枯渇しかけているため魔力が供給されず、ほとんど動けないただの人形としてずっと座っているチャチャゼロが、感情を表さないガラス球の瞳をむけ、こちらに頭をたれている。

 そして、自分を罠にはめてこんな状況に十五年も陥れた男と、つい先日馬鹿笑いをして倒した自分に背を向けて去っていった男が脳裏をよぎっていった。


 結局エヴァは………




 ネギの首筋に牙を立てることが出来なかった。


「くそっ!!」


 罵声と共にエヴァは、ネギの座っている畳の横にあった座布団に拳を叩きつけた。
 その物音で、もうだめだーなどと思って眼を瞑っていたネギが、悲鳴を上げるのをやめ、恐る恐る眼を開いた。


「ふんっ! お前があんまり情けない悲鳴を上げるから興が削がれた。見逃してやるよ」


 そう言い放ち、エヴァは残り少ない体内の魔力を慎重に紡ぎだし、ネギの体内に入った魔法薬の効果を解除して痺れを取ってやる。
 動けるようになったにもかかわらず、なぜ自分が解放されたか理解していないのか、ネギはポカーンとした間抜け面をさらしている。

 その顔を見て、やはり自分の選択は間違っていなかったのだと思わず口元をにやりと歪める。
 しかし、それを見て先ほどの恐怖を思い出したのか、ひっ、と短い悲鳴を上げておびえるネギを見て、やはり死なない程度に血を吸っておいたほうが面白かったかもしれんと、エヴァは嗜虐心がむくむくとわきあがってくることも感じた。






「エヴァンジェリン、なぜか封印解除を諦めたようです」


 ようやくエヴァの別荘近くの場所にそろって待機していた近右衛門達は、その声を聞いてとりあえず胸をなでおろした。
 こちらからエヴァの住居を建てるときに仕込んであった盗聴器によって、邸内で行われていたエヴァとネギの音声を拾っていた諜報部員が、近右衛門に告げる。
 つい先ほどまで準備が整わず音声を受け取れなかったため、イマイチどうしてこういった流れになったのか不明だが、どうやら最悪の事態は避けられたようだ。

 魔法的な技術によってでは、結界等の技術も得意とするエヴァの情報を拾うことはほとんど不可能だったが、中世の生まれらしくエヴァは機械の類にめっぽう弱かったため、こういった盗聴器の類はこちらの用意した住居のいたるところに仕込んである。
 無論、最新鋭の機械技術と魔法技術の結晶である麻帆良学園謹製ガイノイド、絡繰茶々丸にとっては感知可能であるはずだが、普段は家屋を構成するネジ等に偽装しながら監視機能を死なせておいた上に、スポンサーという立場を最大限に利用した近右衛門による圧力によって、茶々丸を製造した麻帆良大学工学部の魔法教授が仕込んだウイルスによって感知できないようにしてあるため、いまだ発見に至っていない。

 現状において結界を張るなどといった警備員業も行っており、この学園の守護者とでも言うべきエヴァだったが、その本質は欧州最高額の元賞金首ということもあり、決して全面的な近右衛門達の信頼を得られているわけではない、ということを端的に表す仕打ちだった。本人 (?)は自覚していないものの、茶々丸はエヴァの従者であると同時に、エヴァとその協力者を監視するためのスパイでもあるのだ。


 ちなみに同様の仕組みは、ランスの住居にも仕込んであったのだが、最初にシィルが入ったときにランスの命令によって行われた「物質調査」という名の魔法によって全て発見されてしまい、直後に破壊された。
 折を見て仕掛けなおしているのだが、なぜか「おいしそうなにおいがするれす」といってことごとく発見するあてなによって全て食われているため、いまだ効果があまり無い。
 そのため、現在ランスの住居における監視は、双眼鏡や覗き穴による光学観測と集音機等の原始的な装置による監視のみとなっていた。

 しかし、光学観測や音響装置は上位魔族並みの五感を持つランスによって発見されやすい上に、万が一こちらの仕業だとばれれば命すら失う可能性がある以上、それほど積極的に情報を集めることは出来なかった。
 また、何とか感知できている音声も聞こえてくるのがほとんどあえぎ声なので、職業柄辛抱強いはずの諜報担当の魔法教師が「もういやだ」と悲鳴を上げかけているという理由もあるが、それはさておく。



「どうします、再びエヴァンジェリンがその気になる前に突入して、ネギ先生を確保しますか?」


 諜報部員が近右衛門に対して判断を求めてくるが、いくら長年の経験を持ってしても状況を理解するには少々時間がかかっていた。


(どういうことじゃ、ここで先ほどまで言い争いをしておったということは、あの「別荘」には入っていなかったということじゃろう。しかし、付近一帯の魔力の流れからして、この場で戦闘が起こっていたわけでもないようじゃ。
 あの優しい子のことじゃ、戦闘すら行わず境遇に同情して血を渡そうとしかのかのう? しかし、封印された状態では、我々の接近を感知できたわけでもなかろうに、なぜエヴァは途中でやめたのじゃ?)


 吸血鬼の正体がエヴァだとわかったからこそネギがエヴァの家に乗り込んだと思っていた近右衛門にとって、まさか魔法薬によってだまし討ちされたなぞ気づくはずがなかったための推論であり、十五年にも及ぶ封印生活によって狂おしいほど感じていたエヴァの外への渇望を知っていたからこその疑問だった。


 だが、どちらにしてもあの誇り高いエヴァンジェリンのことだ、こちらが余計な手出しをしなければ自ら発した言葉を反故にすることは無いだろう。
 いや、むしろこちらが突入することこそ、無駄な怒りを買うことになり、考えを変えてネギの血を吸い尽くしてしまう可能性を高めることになるだろう。


 つまり、とりあえず危機は去ったということだ。


「いや、それには及ばん。自分で言った言葉を破るエヴァとも思えんし、もう大丈夫じゃろう。みなの者、ご苦労じゃった、A班以外のものは持ち場に戻ってもよいぞ」


 そういって近右衛門は、タカミチを含めた最低限のいざとなったら突入できるだけの戦力だけを残して解散を宣言する。
 ここまで近くに近づいていれば、仮に急にエヴァの気が変わったとしても魔法教師達だけで今のエヴァなら十分対処できると判断したためだ。

 その言葉を聴いて、集まってきていた学園のほぼすべての魔法教師たちが、顔に安堵の表情を浮かべながら、各々の方向に散っていく。一時的に学園の防御を最低限に削ってまでこの地に集結していたため、ひょっとするとよからぬ輩の侵入を許してしまったかもしれない。
 各所に散っていた魔法教師達に危険がなくなったと通信している諜報部達に、近右衛門は一応念のためこの後のエヴァたちの会話の流れも録音するようにと命じた後、自らも放り投げて来た書類を片付けるために学園長室へと戻っていった。彼の身を取り巻く状況は、こんな緊急事態においてもエヴァ一人を警戒しているわけにはいかないのだ。



「ふん、いつまで間抜け面をさらしている。レディの部屋に用もなくいつまでもいるものでは無いぞ。さっさと立ち去れ」
「エヴァンジェリンさんは、父さんのことを知っているんですよね………」


 自分が助かったことを理解して震えていたネギが、その震えが収まってもいまだ去らないことになんとなく罰の悪さを感じたエヴァは、とりあえず自分の心の平静を保とうとネギに向かって声をかける。
 しかし、それによるネギの返答は、エヴァが一番触れられたくないことだった。
 それでも、先ほどの自分の仕打ちを思い出し、答えないという選択肢は取れないエヴァは、どうせこの後授業に出るたびに聞かれることだろう、と自分で自分をごまかしながら、しぶしぶ答えた。


「ああ、知っている。あいつがサウザンドマスターと呼ばれ始めた頃から……十五年前私を封じ込めておきながら暫くたってくたばるまでな」
「今、どこにいるかごぞ………え? くたばったって、父さんがいつ死んだんですか!!」
「…………は?」


 捜し求めた父が死んだと聞かされて、思わずエヴァに詰め寄るが、エヴァは魔法界で流布されている情報と同様に1993年に死んだと思っているから、それも当然だった。
 それを答えると、ネギは1997年の雪の夜、出会って杖をもらっているということを告げる。
 そのことを聞いてエヴァは、自分の追い求め続けていた男がいまだ生きているということで、隠し切れない歓喜に染まった。


「くくくくくくく、やっぱりな、あの男がそんなにあっさりくたばるタマでは無いと思っていたぞ。今すぐここに引っ張ってきてこのふざけた封印を……………チッ、そうだったな。どうせ出られないんだった。くそ、ナギといい、あのランスという男といい、どこまでもふざけたまねを」
「!! エヴァンジェリンさん、ランスさんのこともご存知なんですか!!」


 聞かれたくないことパート2を自分の口から半ば語ってしまったことに、エヴァはしまった、と思うが一度発してしまった言葉は戻ってこない。
 いつになく押しの強いネギの言葉に、仕方なく、めちゃくちゃでかい借りがあるとだけ言葉少なく答えるエヴァ。


 だが、耳にしたのはその言葉だけにもかかわらず、それを聞いたネギは、おそらく自分と同じようにエヴァとランスがトラブルを起こし、その結果エヴァが負けてしまったのだろう、とこの上なく聡い頭で正確に推測する。
 封印されている現在のエヴァの実力をよく知らないネギは、魔法史で習った闇の福音の逸話をとっさに思い出し、それすらも打破するランスを止めるには、自分の信じるマギステル・マギになるためには、今のままの自分では何年たってもだめだ、と今まで以上に自分の上達の必要性を強く思い始める。

 そして、暫く考え込んだのち、ネギはエヴァにとって驚くべきことを口にし始めた。



「エヴァンジェリンさんが、まき絵さん達を襲ったのは魔力を集めるためですか?」
「……ああ。そうだが? 魔力さえあればあんな男に引けは取らん」


 なぜ突然そんなところに話が飛ぶのか疑問に思ったものの、まあ、別にいまさらどうでも良いことなので、本当はネギに対する挑発といった意味もあったのだということだけは伏せて答えるエヴァに、ネギはさらに突っ込んだ質問をする。


「それは封印を解くためで、僕の血があれば解けるんですよね」
「ああ、感謝するんだな。本来であれば死ぬぐらい血を吸い取って解呪するんだが、お前が余りに情けないから見逃してやるんだ」


 だが、その軽口にも自分の考えに没頭してしまっていたネギは明確な反応を示さずに次に問うた。


「つまり、僕が死ぬくらいの量の血があれば、解呪出来るんですよね」
「くどいぞ………おい、ぼーや、一体何を考えている?」
「エヴァンジェリンさん、幾つか僕のお願いを聞いてくれませんか? そうしたら、僕の血を差し上げます」


 その言葉にエヴァは表情を消して、ネギを見つめる。
 ネギは、先ほどまで自分を殺そうとしていた吸血鬼の視線を受けて、僅かに身体を恐怖で震えさせながらも、十五年も学生時代というひと時の泡沫に閉じ込められている自らの生徒を信じようとする気持ちと、自分の夢を紡ぐために代価を支払う覚悟を行っていた。


 それを見たエヴァは、ネギが本気でこの取引を言っていることを悟る。
 このガキ、いやこの男は、自分の封印を解除する代わりにこの闇の福音を何かで使役する契約を結ぼうというのか。

 だが、頭ごなしに否定することは無い。
 過去にそういった契約はいくつも結んできたからだ。

 魔法使いの基本的な行動原理として「等価交換の法則」という言葉が用いられる事がある。神秘の行使者たる魔法使いは、たやすく他者の要求に答えるものではなく、それなりの理由がなければ魔法を使うべからず、という教えだ。
 もっとも本来の「等価交換の法則」とは、錬金術書には偽物が多いから、正しい錬金書を見つけるにはそれに値する魂、つまり眼力が必要だ、というパラケルススの言葉を曲解したものではあるが、ある程度のメリットがあれば実際にそれに対する対価を払うことはやぶさかでは無いとエヴァは思っている。
 少なくとも、戦場における卑怯と異なって、自分から結んだ契約を破ることなぞ中世から生きてきた大魔導士として論外だ。

 そのため、エヴァはネギのことを未熟な小僧ではなく、初めて対等な取引相手としての目で見た。
 そして、その目で見られたネギも、ランスと出会ったことで自分の目標を明確に見定めて、確実に魔法使いとして成長するため、しっかりと取引相手の目を見定めた。
 身体を鍛え、技を修め、魔力を編み込み、策を練って、いつかランスと対峙する為に。


「………いってみろ」
「はい、条件は四つ。まずは代価として支払う血液の一回に吸う量の制限。約38キロの僕の全血液量は、体重の約8パーセント。約3リットルです。僕が死ぬ程度ということなので、解呪には致死量の全血液の三分の一、約一リットルが必要ということになります。これを何回かに分けて……200ミリリットルを一カ月おきぐらいでどうですか?」
「…………」


 どうやらネギは、自らと取引を行おうと思ったときから、かなり細部にわたるまでしっかりと代価を考えていたようだ。

 エヴァは無言で考える。
 血を一度に吸うことを考えれば、分割して吸うことは魔力の吸収効率をかなり落とすこととなる。
 しかし、それでも解呪に必要な魔力をそれなりに吸収できることは確かなのだから、魔力を出来るだけ使わないように少しずつ溜め込んでいけば解呪できるということとなる。
 すなわち、時間はかかるかもしれないが、いつかは確実に解呪できるということであり、何のあてもなくここでナギが来て解除してくれるという今まで十五年間ありえなかったことをこれからも期待して延々と待つことを考えれば、はるかにましなことだと考える。
 数値から計算すると、最速ならば五回も吸えばよいということであるし。
 そして、通常の献血車で取られる献血の際でも、200ミリリットル献血では約2~3週間、400ミリリットル献血では約3~4週間でもとに戻るといわれており、ネギが子供で血液を製造している骨髄も未発達であることも考えると、その半分と言う周期の期間も妥当であると思う。

 この条件は悪くない。むしろ、かなりいいといっていいだろう。
これは対価ではなく、寧ろエヴァにかなり有利な条件だからだ。


「……続けろ」
「はい、次に、条件の一つとして、封印が解ける前も解けた後もこの学園に害を及ぼすのをやめてもらえますか?」


 これもまあ、理解できる。
 この学園に世話になっている形となるネギにとって、学園長やタカミチ、明日菜などに迷惑をかけたくないということなのだろう。
 確かにこの学園そのものもかなり腹立たしいものの、実際に自分を謀って(エヴァ主観)堂々と生きていたナギや、自分にこれ以上無い屈辱を与えたランス、といったこの学園よりも八つ当たりに向いた対象がいる以上、それほどこだわることでは無いだろう。

 そして、これを拒否すれば、おそらく高確率でこの温和な少年であっても取引を続ける気をなくすだろう。封印をとく代価の一つとしては、高値であるとはいえ仕方が無いかと思う。


「いいだろう。封印が解ければこの学園には害を及ぼさないと誓ってやる。次は?」 
「はい、この学園にしっかり通ってください……僕は先生ですから」


 思わず内心苦笑する。
 魔法使いになるための試練のおまけである教師という職業まで契約に持ち込んでくるとは。まあ、今のように延々と縛り付けられるわけではなく、自由に外出できることを考えれば、まあご愛嬌だろう。
 こう見えても六百年は生きている上に十五年もここに縛られていたおかげで、本気を出せば大卒程度の学力もあることだし、あと一年ぐらい我慢できない事も無い。


「ふん、足元を見てくれるな……まだ私をここに縛りつけようというのは気に入らないが、まあいい。それも約束してやろう」
「………ありがとうございます。そして最後に……僕の魔法の先生になってください。お願いします!!」


 そういって、こちらに向かって勢いよく頭を下げる。
 その下げた頭を見て、思わずエヴァの表情が怪訝そうに崩れた。
 完全に予想外の提案だったからだ。
 封印が解けたときにこの自分の力を利用する、などといったことかと思えば、よりにも寄って自分に教えを乞おうとは。そもそも、自分のときのようにこの年で命を狙われているわけでも無いだろうに、なぜこんな子供が自分の血を邪悪な吸血鬼に捧げてまで力を求めるのだろうか。


「おいぼーや、なぜそれほど力を求める? 近衛の爺からは今でも結構使えると聞いているぞ」
「…………マギステル・マギになるためには、ランスさんと話し合えるようになるには、今よりもっと力が要るんです!!」
「…………ランス?」


 なぜここでランスという男の名が出てくるのか理解できなかったエヴァは、さらに詳しく聞くことにした。

 その結果は、ここまで思いつめているとは、と笑いだしたくなるような物だった。


 ネギは、ランスがタカミチと試合を行った際に圧勝したのを見て(これを聞いてタカミチの力量をよく知っているエヴァはいっそうランスに対する警戒を強めた)、立派な魔法使いであるためには、礼儀の無いランスを倒せるぐらいの力がいると考えているのだ。
 殺したい、倒したいではなく、あくまで倒せるだけの力を持って話し合いを行いたいというのが、この甘い理想主義の少年らしい。

 しかし、礼儀の無さや間違った行動を直せるようになりたいというのであれば、実際には押さえつける力ではなく、ランスを言いくるめることの出来る言葉こそ磨くべきではないかとエヴァは思う。
 実際に今回のケースとて、直接戦闘に長けたタカミチよりも弁説に優れた学園長によってランスを何とか扱えているのだ。

 それに、所詮「立派な魔法使い」といっても、問題が起こってからナギのように力で解決するのでは、自分のように憎悪ばかりが連鎖する愚策であり、本当に世のため人のために働きたいというのであれば、相手を攻撃する魔法なぞにこだわらず、もっと有用な魔法の使い方を考えるのと同時に政治家様にでもなって問題が起こる前に解決するべきだろう。

 そもそも、そのご立派な魔法使い様が、アメリカ軍のベトナム戦争やイラク攻撃による無辜の市民の虐殺に対してはなんら抑制をしなかったように、所詮マギステル・マギなぞは魔法使いだけに認められる基準に従って、魔法使いのための立派な仕事をした者に対する称号なのだ。
 世の役に立っている魔法使い、と認定するのは、あくまで魔法界の住民であってその時点で世の「本当」の庶民とは少々違った考え方をする人間の集まりなのだから。


 兎に角、マギステル・マギになるということが直接世のためになることとはいいきれないとあのいい加減なナギを間近で見たエヴァは思っている。

 正体を明かす事も出来ない、よくわからない基準に従ってとある人間を悪人と勝手に断定して法にも則らずに殺人をも犯す。そんな正義の味方なぞ、その存在を知った一般庶民からすればいつ気が変わってこちらに牙をむくかわからない怪獣と同じであろう。
悪をなす前にその力のありようから悪と断じられたエヴァは心底そう思う。



 が、そんなことよりも一心にマギステル・マギを目指してきた年若き少年にとっては、まずランスと同じ土俵に立って押されない程度の力が欲しいということだろう。
 子供じみた正義感と言い切ってしまえばそうだが、これはこれで面白い。
 万が一、自分の封印がなかなか解けなかったとしても、今度は自分の育てた弟子がランスをぼこぼこにし、父親であるナギを封印解除のために引っ張ってくるのだ。

 それに、「あの」サウザンドマスターの息子を、弟子の名前で散々こき使える。

 才能はあるだろうから、自分に逆らえないように、自分の足に口付けをするほどまでに徹底的に身体で覚えこませておいて、ナギより強くして親子で戦わせるというのも面白いかもしれない。面倒になったら、「世界を見て来い」などいって適当に放り出せば良いし、これが最後の条件なら悪く無い契約だ。

 そう思うと、思わずにやけてしまいそうな唇の端を意志の力で押さえつけて、出来る限り厳格に聞こえるように常夜の闇を生きる賢人は厳かに宣言した。


「言っておくが、私の修行は尋常じゃ無いくらい厳しいぞ」
「!! はい、ありがとうございます。よろしくお願いしますね、エヴァンジェリンさん」
「…………それから、私のことは師匠(マスター)と呼べ」
「はいっ! 師匠」


 そこまで考えて、いろいろな思惑からも師匠になることを承諾したエヴァンジェリンだったが…………うかつに師匠と呼ばせると、いつか弟子に倒されるというジンクスは、どうやら知らないようだった。


Comment

自分の血液を取引材料にするネギの冷静さに乾杯!

いやー、冷静っすね、このネギは。タカミチが目の前で余裕のフルボコボコにされたのがネギ少年に大きな影を落としているようで・・・

ランス参入による本編改変が大きく出ている今話、非常に面白かったです。

今後の執筆活動、かんばってください。

なんだかわくわくする展開に
普通ならエヴァの言う通り口車でも磨いた方がいいきがしますが、ランス相手だとやっぱ力が必要な気がしますよねー
必要な力が大きすぎるのが問題ですが

No title

昔の中国や日本、韓国に比べれば今のアメリカがやったとこなんてお子様レベルでしょうよ。
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プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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