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鬼畜ま!8

八話

「氷結武装解除!! 」 


 一般に魔法使いは後衛型だという。呪文詠唱の時間が必要だからだ。そのため、基本的には接近戦を主とする魔法剣士とは区別されている。
 しかし、よほどの大魔法でもない限り、ある程度の実力者であれば呪文の詠唱に何分もかかるということはない。

 実際今回の詠唱もほんの3秒ほどで完成している。
 また、エヴァほどの上級者であれば精神統一などほとんど必要とせず、魔力があり、基本的に詠唱さえ出来れば魔法は発動する。魔法使いであろうと魔法剣士であろうと、このクラスになるとはっきり言って得意はあっても苦手はない。
 現時点においては封印によって、エヴァの魔力は極限まで削られているが、その長年の経験によって生み出されたとんでもなく高品質の魔法薬は、いまの少ない魔力を十分補っていた。

 結果として、試験管と小さなフラスコに入れられた二種類の薬剤によって、エヴァの魔法がランスの剣の間合いに入る前に発動した。



 がきっ!


 しかし、強制的に物品を凍りつかせ、破壊する「氷結武装解除」が発動しはしたものの、カオスもランスの鎧も服にも別段の変化は無かった。

 ランスの世界で冒険者などに使用されている衣服は、モンスター等の外皮などの素材が使われているものや魔法が織り込まれているもの、悪魔や下位神の力を借りて生み出されたものなどであり、防御力という形で表されている物品そのものが持つ強度が高めてあるものがほとんどである。
 そのため、見た目は同じただの布に見えても、一般の市民が着ている衣服と、冒険者が着ている衣服は強度も値段もずいぶんと異なる。
 そもそもレベルアップと金銭をもとめて、一日何十回もの戦闘を迷宮に住む怪物どもと繰り返す冒険者達の装備品が通常の物質で出来ているのであれば、一日で破損して使い物にならなくなってしまうだろう。
 ましてや超一流の冒険者であるランスが装備しているものは、そこらの冒険者が装備している武具とは格が違う。強力な防御力に加えて、小さな傷ぐらいであれば自己再生を行う。それに加えて盾や指輪などは特殊な能力を持つ物も多い。


 だが、それ以上に今のエヴァの武装解除を強制する魔力では突破できない差がランスとの間には生じていた。




   魔剣カオス。



 ランスの愛剣であるカオスは神によって直接作られた、文字通りの伝説の武器だ。
 超神プランナーへの「魔人を殺せる力」という願いと引き換えにその身を剣に変えた人間。
 意思を持ち、ある程度の変形、伸縮を行い、刀身から発する闇のオーラによって物理干渉すらも可能としている1000年を生きる魔剣。

 そして、持つ者に魔人や魔王の絶対防御すら貫くという特異な力を与えるが、生半可なものでは振るうことすら不可能であり、よしんば使用することが出来たとしても振るうたびに剣に染みついた破壊衝動が持つ者の属性を悪へと傾けていく諸刃の剣。
 その破壊衝動は本来であれば、カラーの命と呪いと引き換えに作られるクリスタルリングの使用によるカルマの増大など児戯に思えるほどの勢いで持ち主の体を喰らい、その精神を蝕みただただ破壊を振りまく狂戦士へと変えていく。
 「魔人から守れる力」を願ったため使用者を守るために人化できる聖刀日光とは、似たような能力でありながら決定的に異なり、「魔人を殺す」ために使用者の体すら食いつぶしながら、ただ殺すために1000年存在してきた。

 そのため、ランスによって封印をとかれるまで、魔王になるほどの実力者、ガイをもってすら本来の力を持って使用することが出来ず、ほとんど真価を発揮することなく元魔王ジルと共に長年封印されていた。神によって創造されていながら、悪魔にすら轟く悪名を持ち、永遠の八神の肖像すらも足蹴にするランス以外には絶対に本来の力を発揮できない人類史上最悪最強の魔剣。


 全人類のわずかな希望として神の戯れに地上に下された魔人を傷つけることが出来る二本の一つ、魔剣カオス。
 ようやく使い手に恵まれた歓喜を溢れかえらせるかのように、その神代の時代から続く正真正銘の魔剣の放つ持ち主の筋力、反射神経、闘気の増幅能力を呼ぶ圧倒的なまでの闇のオーラに包まれているランスに対して、エヴァが今の魔力で放った氷結武装解除はあまりにも貧弱だった。

 そのため、結果としてはエヴァの放った氷結武装解除は巻き込んだ地面を少々凍らせたのみでランスの力の象徴であるカオス自体にはまったくといっていいほど効力を及ぼさなかった。彼を壊すつもりであれば、最低でも魔人の中の魔人と恐れられた世界最強の一角、地竜魔人ノスほどの力が必要であろう。


「くっ!!」
「なんだ? 魔人にしては貧相な攻撃だな、がはははは。だが手加減はせんぞ、喰らえ!!」
『クカカカカ、わしは痛いぞ、苦しいぞ! 泣け、喚け、避けろ、逃げ惑え! さあランス、わしに魔人の血肉と苦痛を貪らせろ!』
「おうよ! とっつかまえて3Pパーティだ!!」


 そして、抵抗(レジスト)のそぶりも見せず自分の魔法を無効化したランスをみて、ランスの魔法に対する抵抗力の強さを感じると共に、かけられている呪いのせいでここまで自分は弱体化したのかと歯噛みするエヴァに、カオスの一撃が迫る。Japanでは魔人戦とはいえ色々なことによって不完全燃焼だったカオスのテンションは、えらいことになっていた。
 氷結武装解除のせいで一旦集めた闘気が少々減りキャンセルされたのかランスアタックでこそなかったものの、闘気を剣に込めた一撃である全力攻撃をかなりの速度で放った。

 対物理障壁は常時展開しているとはいえ、この相手にはいったいどこまで当てになるのか不安に思ったエヴァは、弱まっているとはいえ吸血鬼の強大な身体能力をもって一瞬で間合いを広げてかわす。
 が、並みの魔法剣士の剣速とは一線を画するランスの堂々たる大剣捌きを見て、エヴァは接近戦を避けることを誓う。

 確かにエヴァは合気柔術や鉄扇術も達人級であり、接近戦でもそんじょそこらの魔法剣士に負けない自信はあるが、過信はしていない。
 いかに相手の攻撃を受け流すことが出来るからといって、合気道場の師範がライフルの弾をノーダメージで捌くことが出来るわけではない。
 いかに相手の隙に乗じて投げ飛ばすことが可能といっても、柔道のオリンピック金メダリストが乗用車を正面から吹き飛ばす投げを放てるわけではない。
 結局、人間の限界を超えた何かに対しては、「達人」級というものはあまり有効に働かない。廻し受けでは矢や火炎放射を防ぐことはできても鉄砲は防げないのだ。

 そしてエヴァは、剣の振るう速度や体捌きから、もはや対戦相手は「達人」ではなく、自分と同じの「人外」であると認識する。それは、成人男子よりわずかに強いぐらいにまで弱体化した今の腕力ではろくすっぽうにダメージは与えられないだろうという確信にも繋がった。
 無論、吸血鬼であるエヴァはありとあらゆるダメージを無に返す、「再生」という能力があるのでたとえ人外相手であろうと多少のダメージは平気だが、現在の魔力では少々使いづらい上に流石に首や心臓に致命傷が当たるときついし、この能力の発動自体が疲れるしメンドいからキライである以上、わざわざ相手の圏内で戦う必要は無い。


 その剣速を見て、自分の弱体化のみが氷結武装解除が効かなかった原因ではなく、この黒剣の剣士自身もレジストなしで魔法をほとんど無効化するという、決して油断なら無い相手であるとエヴァは認識を改めたのだ。




 そのため、エヴァは蝙蝠で作ったマントで空に舞い上がった。上空に上がると風の影響で魔法以外のメイン武器である糸や鉄扇、体術等は使いにくくなるのだが、もとよりこの相手の攻撃を受けるガチンコ勝負という選択肢は考えられない以上、直接的な攻撃力、防御力に欠ける糸等をメインに戦う事はためらいがあったからだ。やはり頼るべきは自らの人生を語るべき魔法であろうため、そのための舞台を空中に移した。

 人間は基本的に地上で生活しているため、足元や頭上から攻撃をされる空中での三次元戦闘にはあまり慣れていない。
 無論、エヴァとて普段は地上にいるのだが、600年を超える人生経験と蝙蝠による飛行をお手の物とする吸血鬼であるという性質によって、確実に人間よりも自在に空に位置を取れる自信がある。
 空中とはそもそも、逃げるに易く、追うに難い場所であるのだ。


 そうやって、距離をとりつつ攻撃をすれば魔法薬の消耗という痛い事実はあるものの、格闘技や武術を主体としている多くの魔法剣士とて、得意としている近接攻撃ではなく魔法媒体で飛行しつつ魔法を主体に戦うしかなくなる。
 そうであれば、この弱体化した身体であっても、一流の魔法剣士と十分渡り合うことが出来る。


 が、ここでもエヴァの予想外のことが起きた。


「こらーーー! 空を飛ぶなんて卑怯だぞ、さっさと降りてきて俺様にやられやがれーー!!」


 ランスは空を飛べなかったのだ。




 喋る剣といういかにもアーティファクトっぽいものを持っていたため、思わず魔法剣士だと思ってしまったが、考えてみればこの国の剣士の主流は魔力ではなく気で自身を強化するものであり、普通空など飛べはしない。
 あの男の格好もこの国では奇異に見えるが、自身の故郷であるヨーロッパでもこの国の神鳴流のように、近代武装に頼らず剣と鎧で武装する悪魔祓いがいないわけではないと思い出す。

 つまり、どれほど優れていようが相手は単なる剣士であり、空中にいる自分には届かないということだ。
 そのことに思い至ったエヴァは、形勢が完全に逆転したことを悟った。


「あーっはっはっは、地に這い蹲るしかない人の身は不便だなあ、今楽にしてやるぞ!」


 そう言って、ランスの攻撃が届かない空中から虎の子の魔法薬を触媒にかなりの魔力を込めて攻撃魔法を放つ。


わりと彼女は調子に乗りやすかった。


「リク・ラク ラ・ラック ライラック! 氷の精霊11頭 集い来りて敵を切り裂け 魔法の射手 連弾・氷の11矢!!」


 空中から魔力を用いて鋭い氷柱を飛ばして地上のランスに魔法をぶちかます。
 流石にいかに無礼な相手であろうと学内の警備員を殺害すると学園長からぐちぐちといわれると分かっているのか少々手加減はしているものの、「悪の魔法使い」を自称するだけあって、出来る限り鎧の覆われていない顔や腕、太ももといった部分を狙っている。
 常人であればぎりぎり死なないものの、お世話になった看護婦さんに一世一代の告白を決心するほど長期間病室に縛り付けられることになりそうな一撃だった。

 ある程度の追尾能力を持ったそれは、何本かはランスによって振るわれたカオスによって相殺されたものの確実にランスの鎧に覆われていない部分に当たった。

 しかし、武装解除などではない、本格的な殺傷用の魔法を放ったにもかかわらず、


「いちちちち、こいつ、何をする!! 変な氷の矢を使いやがって」


 放った魔法の効果は先ほどと大して変わらなかった。
 神楽坂明日菜のように魔法自体を無効化するのではなく、極めた神鳴流のように全て避けて切り払うのでもなく、当たったとしてもほとんど効果をもたらさない絶大なる硬さを持った絶対防御。それは魔法攻撃よりも直接打撃にたいする防御を得意とするものではあるものの、今のエヴァの魔力程度ではこの鋼の結界をぬけることは出来なかった。

受けた剣を潰し、当たった銃弾を弾き、薙いだ刀を欠けさせ、突いた槍を折り、飛来する矢を阻み、直撃した魔法を防ぐ。
レベルアップシステムという創造神ルドラサウムの加護と、才能限界無限というランスにのみ与えられた奇跡の結晶は、この世界のものにとっては悪魔の祝福を受けたかのような防御力をランス自身の肉体に与えていた。


「……………あきれた頑丈さだな。いくら全力でないとはいえ、私の魔法に直撃しておいてほとんど無傷とは………氷爆っ!」
「いててててててて、くそう!!」
『ラーーンス、何やっておる、ちゃんと戦わんか!』
「黙れ、馬鹿剣、お前を投げるぞ!」


 空中にいることでほとんどランスから攻撃を受けないと分かっているエヴァはそう呟いて再び攻撃したが、反射的にランスが振るった剣の一撃である程度威力が相殺されたことを差し引いても効果はやはりほとんど変わらなかった。
 ランスにはほとんどの攻撃は直撃したものの、目に見えるほどのダメージを負っている様子は無い。口では痛がっているもののぴんぴんしているランスを見て、改めて相手が空を飛べない事を内心あざ笑う。


 封印が解かれて全力を出せれば地上であっても負けるとは思わないものの、現時点でまっとうに正面から戦えば、明日にはネギ少年との戦闘があると思われるにもかかわらず、手持ちの魔法薬をすべて使い切ってぎりぎりの戦いをするか、最悪の場合こちらが押されるかもしれなかった。
 相手はそれほどの剛剣と耐久性を持っているのだ。茶々丸がいない以上、ひょっとするとこちらが一方的に敗れるということも十分ありえるかもしれない。
 それほどの相手が、こちらが軽く飛翔するだけで手も足も出ないとは!!

 思わず嘲笑が口元にこみ上げてくる。


 まあ、ここ空中に陣取っていれば、よほどのことが無い限り負けることは無いだろうが、相手が銃器や遠当て系の能力を持っていないとも限らないため、念のため周りの蝙蝠に心持ち大目に魔力を注いで対物理結界を強化しておく。
 気と魔力は相反するので、たとえ相手が気による遠距離攻撃を持っていても、魔力による結界を張っていれば同じクラスに所属している桜咲刹那の斬空閃程度の攻撃は防げるためだ。

 こうすることで後はここから魔法で攻撃するだけでいずれランスは手も足も出ず敗北するだろうということがエヴァには確信できた。


 しかし、エヴァにとって本番は明日からだ。
 このままエヴァが攻撃し続ければ、そのうち苦も無く倒せるだろうが、前座ごときでせっかく補充した魔力を使い切るわけには行かないという懐事情がある。
 一方的に攻撃したことで多少気が晴れたため、今日のところはこちらから引いてもいいかな、という気になってきた。

 どうせもう暫くすれば封印も解けるということもエヴァの勝者の余裕に発破をかけた。
 魔力を取り戻し、封印を破ったときにこそじっくりと遊んでやろうと思い、エヴァが最後に遊びの攻撃をしようと声をかけると………


「ふふん、悪いがまだ予定があるんでな、また今度遊んで「こっそりランスアタック!」………何だと!」


 瞬間、BGMが旧東ドイツ国歌もどきに変わった。




 口上中は攻撃してはいけないなどというお約束はランスには通用しなかった。
そして、エヴァは性格的にわりと油断しやすかった。サウザンドマスターの前でその悪癖が出てしまったばっかりに今こんな苦渋を舐めているという反省もなく、あいも変わらず相手を見下す傾向が強かった。
彼女は戦士ではなく、あくまで平穏を求め続けてそれでもなお夢を折られた少女なのだから。

 その結果としてこっそり闘気を練っていたランスは必殺技を放ち、尋常ではないくらいの密度の気の塊をエヴァの眼前にまで迫らせることに成功した。



 ランスアタックは必殺技としては最上級、最強の技ではない事はランスも理解している。
 闘気による肉体強化と剣速上昇、そして剣戟強化により一瞬で同時に五撃を放つ事を可能とするリーザス赤軍の「赤い死神」リック=アディスン将軍の必殺技バイ・ラ・ウェイには攻撃回数で劣る。
 腕の一振りで数人を吹き飛ばし、拳の一撃で幾人も沈め、その剛脚の一閃で五体を穿つ、使用者の体力が尽きるまで続く終わらない乱舞を放つヘルマン廃皇子パットン=ミスナルジの武舞乱舞ほどの攻撃範囲も持っていない。
 極限まで高めた闘気を二本の剛剣から放ち、全てを抉り穿つと噂に聞くヘルマン第五軍将軍ロレックス・ガドラスの必殺技弐武豪翔破ほどの破壊力も無いだろう。
 Japanで会った弓の達人、山本五十六が全身全霊を掛けて加速し、神風の放つ矢など歯牙にもかけぬ、光に匹敵する速度で放たれる必殺の狙撃、疾風点破ほどの命中精度と射程距離もない。

 しかし、闘気をためるまでに必要な時間の短さと、遠近両方に使い分けることの出来る性質は、使い勝手という面では他のどんな必殺技をも凌駕する。
 一軍の将軍などではなく一介の冒険者であるランスは、必殺技としてランスアタックに一撃の威力よりも使い勝手を優先させたのだ。



 そのため、ランスの必殺技であるランスアタックは、かつての世界で最もといっていいほど汎用性に富む必殺技であり、幾種類もの活用方法がある。
 基本的にランスはランスアタックを、強力な一撃必殺技として活用している。
 すなわち、普段どおりの剣撃に闘気を加えることによって剣のみではなく、ぶち当たった地点を爆発させるような強力無比な一撃へと昇華させるものだ。

 しかし、ランスの一撃はただでさえ強力なため、単に雑魚に向かって剣の届く範囲のみを攻撃するのであれば通常攻撃と全力攻撃のみで事足りる。
 つまり、ランスの代名詞といえるほど多用されているランスアタックは、実際には接近戦以外のありとあらゆる場合にも使えるような汎用性を持つ。
例えば、剣を受けた相手の間近で鍔迫り合いをしながら闘気を爆発させる事によって防御ごと相手を粉砕したり、大地にたたきつける事によって広範囲の相手の行動を制限したりといった方法を持つのだ。

 今エヴァに向かって放ったのはそんなランスアタックの使い方の一つ。
 剣に込めた闘気のみを相手に向かって放出するというものである。
 神鳴流で言うところの斬空閃のようにある程度距離が離れた相手に使用する。

 剣の重量や切れ味までは飛ばせない分、通常のランスアタックに比べて威力は劣るが、それでも天才科学者マリア=カスタードの作り出した兵器、重爆撃砲チューリップ一号を超える威力をもち、軍団一つを飛び越え司令官を狙い打つことすら可能なこの使い方は、主にドラゴン女や偽エンジェルナイトといった通常攻撃では届かない空中にいるモンスターに振るわれていた。


 そして、この必殺技で多くの冒険を潜り抜けてきたランスは、どのような場合に自分のどんな技が有効なのか十分理解していた。
 そのため、自分の剣が届かないという事態に対して悪態をつくことはあっても、それなりに冷静に判断することが出来た。
 相手が油断していると見るや否や、こっそりとためた闘気を気合とともに一気に放出した。やたらと出すのが早いのがランスの特長だった。






 たまったもので無いのがエヴァだ。
 相手が遠当て系の能力を使ってくることも想定に入れていたとはいえ、その飛び道具にこんな馬鹿みたいな密度の気が込められているなどとは考えてもいなかった。そもそも、暦戦の戦士であるエヴァにしてみれば、これほどの気を一瞬で飛ばす事は一流の戦士でも不可能なことは常識なはずなのだ。
その過去の経験からなる気を溜めるための前動作をすべて無視して、必殺の一撃がもう目前に迫っていた。


「くうぅぅぅぅぅ!! 」


 氷盾を作り出す間もなかったため、周りの蝙蝠に魔力を注ぎ込むことによって対物理結界を強化していく。奇しくもそれはタカミチがランスアタックに耐えたときの状況と酷似していた。

 足りない。
 どんどん結界の強化に魔力を注ぎ込む。
 まだまだ足りない。

 せっかくここしばらくの吸血行為によって溜め込んだ魔力が奪われていくのを感じる。
 もはや、明日以降に起こるであろうネギとの戦いのことなど完全に頭から消え去っていた。


 気と魔力は相反するといったが、それは逆に言ってしまえばお互いに天敵足りえるということだ。
 双方とも熟練した術者によって融合しようと扱われるならばともかく、攻撃的な意思で第三者に発せられた魔力は相手の気を弾き、気は魔力を打ち消す。

 望んだものではないとはいえ、魔力による呪法によって吸血鬼化という一種の状態変化魔法を維持していることとなるエヴァにとって、弱体化している今の体にあの規模の気が直撃することは多大なダメージを受けた上に「吸血鬼化」という複合呪詛(牙が生え、血を活力とし、日光に弱くなり、魔力を増幅し、五体五感が強化されるなどのそれぞれの呪詛の集まり)の一時的な強制解除、つまり死を意味する。

 新月の夜ではないため一応月光を受けているとはいえ、何しろ今の魔力量はせいぜい中級者に毛が生えた程度でしかないのだ。茶々丸によるバックアップ抜きの現状では、技術はさておきこの学園の魔法教師は愚か、ひょっとするとあの坊やにすら劣る魔法しか使えない。
 この状況になっては圧倒的なまでの人生経験に裏づけされた、ネギよりもはるかに完成された『いかに相手の照準をずらす事で攻撃をかわし、相手の動作を読んで自分の攻撃を当てるか』といった戦闘の大部分を占める経験そのままが力になる要素なぞが干渉できる段階を超えていた。


 しかし、エヴァはかつて自分の心を奪い、卑怯な手段によってこの学園に閉じ込めた挙句、自分の許しも無く勝手に死んだナギの墓を見つけ、その墓を踏みつけて思いっきり罵倒するまでは死ねないと思っている。
 それまではたとえ攻撃を防いだ後魔力不足で嬲り殺されるとわかっていても最後の瞬間まで諦めるわけには行かない。


「くうぅぅぅぅぅ、ふっ!!!」


 そのため、もはや後のことなど考えず、ありったけの魔力を注ぎ込んで何とか致死のランスアタックを瀕死の攻撃程度にまで防ぐことに成功する。


 が、その代償として自分の周りを覆っていた蝙蝠たちは完全に消滅し、エヴァは自身の飛行魔法すら維持できなくなって地上10メートル以上の高さから落下する。


「ぐふっ!! 」


 何とか頭から落ちることは避け、とっさに背中で受身を取ったもののかなりの高さから落下した衝撃で肺の中にあった空気のほとんどが吐き出され、全身を苦痛が襲う。
 本来の吸血鬼の身体能力からすればなんでもない高さであるが、自分の魔力のほとんどを使い果たし、弱体化している身にとってはかなりのダメージだ。

 もっとも、魔力が無い状態でも十分な時間があれば回復する程度のものであるが、自らを地上に叩き落した剣士がその十分な時間を与えるとは思えないエヴァは、何とか回復時間を稼ごうと会話をすることを試みる。


 ああ、魔力が、血が足りない。

かつて、世界全ての敵とまで呼ばれた『闇の福音』『人形遣い』エヴァンジェリン=A=K=マクダネルが、今は弱弱しくただの小娘のように敵の情けにすがろうとするとは。


 が、エヴァが策を練るまでも無く、当のランス本人によって時間稼ぎは成った。






「さて、お楽しみタイムだ、がははは……は?! ガキじゃねえか!! くそう、まじめに戦って損した」
「………は?」


 エヴァが自分の体を確認してみると、確かに幻術に対する魔力の供給に割く余力が無くなったことにより幻術が解けており、吸血鬼化によって成長が止められた普段と同じ姿をしている。
 しかし、それが一体現状において何の関係があるのだろうか。

 何か罰の悪そうな顔をしているが、まさか子供だから殺さないとでもいうつもりだろうか?
 だとすれば甘いにもほどがある。
 女子供には危害を加えないという自分の主義主張と似たところを見つけ、ランスに一言掛けようとするエヴァ。



 が、そんなことは当然誤解であり、そんな誤解ごと豪快なランスの台詞は粉砕する。


『本当じゃ。じゃあいいや、殺すか、ランス』
「黙れ。帰るぞ、カオス。あんなの倒しても何も面白くない。無駄足踏んだ分さっさと帰ってシィルで憂さ晴らしだ」
『おい、ランス? 弱いとはいえ魔人なんじゃからここで殺しておくべきだぞ。いつ卑怯な手をつかって寝首をかかれるかわからん。やつらは存在そのものが人類の敵だ』


 子供だからではなく、面白く無いという理由で自分を見逃すというのか?
 だがなぜ、姿を変えただけでいきなりそうなるのだろう。
 こちらとしては不本意だが、この場合であればランスというらしい男のほうではなく、その所有物であろうあの剣の言うことのほうがどう考えても正しいだろう。
 吸血鬼、という存在だけで否定されるのが世界なのだとエヴァは十分理解していた。


「うるさい、カオス。魔人とはいえ女の子をやる前に殺すなぞ言語道断、だが、俺様はロリコンじゃ無い。よってあんな貧相な体ではだめだ!!」
『一応わし、魔人を殺すための剣ですよ? そのために人の体もリアルちんちんも捨てましたよ?』
「うるせぇ! ダメだったら、ダメだっ! だいたいいくら魔人だといってもあんなのいつでも倒せるだろうが」
『……あんたならこの程度、いつでも殺せるといえばそうじゃが、魔人は魔人。人に害なす存在だ』


だが、そんなエヴァの感情など完全に無視して二人は口論を続ける。


「黙れ、駄剣ごときが俺様の決定に口を挟むな……大体、あれ本当に魔人か? サテラ以下だ、へたすりゃあのくそザビエルの使徒より弱い。弱すぎるぞ」
『…………まあ確かに。カミーラやザビエルほどのはそうそういないとしても魔人の波動はあんまり感じん上に、使徒にしたって弱すぎる? まあ、それでも魔人っぽい生き物だし、ザビエルを思い出すんじゃ』
『……』


思い出したくもない魔人の名を出されて、思わずランスの顔が苦虫を噛み潰したようになる。
己が魔人の気配を見逃したばかりに、ある少女が流した涙のことを忘れられるほど、彼は愚かではない。
それゆえ、カオスの言葉に一部の理があることだけは認めざるを得なかった。



『こないだみたいにならんように怪しいやつは今のうちに殺しておくに限る。さあ殺そう、やれ殺そう、ヤるんだったらさっさと犯して殺そう』
「だまれ、俺様に指図するな」


だが、だからといってここでエヴァをためらいなく殺せるようであれば、魔王美樹を見逃しもしないだろう。
そこが鬼畜戦士がとある歴史で真の鬼畜ではないと称された理由でもあった。

それゆえ、ランスはカオスとの会話を無理やり打ち切った。



 そしてその時点で、ようやくランスの言っていたことがエヴァにも理解できてきた。
 ランスが自分に挑んできたのは闇の福音という名を討ち取るためではなく、ただ幻術による姿が美しかったためであり、その変化が解けた以上自分には殺すほどの価値が無いというつもりらしい。
 この男にしてみれば雑魚同然の自分なぞ、その気になればいつでも殺せるアリをいちいち潰す人間がいないようなものだとでも言うのか。


「き、貴様! 私を殺すためではなく、女だから挑んできたとでもいうつもりか!!」
「違うな、いい女だったからだ。別に今の姿が不細工というわけじゃ無いから安心していいぞ。だが……そうだな、十年……いや、あと五年は早い。あのねーちゃんの姿になったらもう一回来るがいい。がはははははは」



 吸血鬼が成長するか!

 思わず反射的に胸のうちでランスの発言を罵倒する。
 600年にも及ぶお尋ね者生活の中でエヴァをそういう目で見てきた者が皆無だったとは言わない。
 闇の福音を倒し名声を手に入れ、そのついでに人知を超えているといってもよい幻術による容姿を蹂躙する事を目的として挑んできた賞金稼ぎも数多くいた。
 もちろんそれが実現することなど無く、そんなことを夢見る相手には大概自分の人形をけしかけて、腎虚になるまで快楽と苦痛と絶望をその身に刻み込ませながらたっぷりいたぶってやった。

 だが、賞金が無くなったとは言え、女としての自分のみが目的であり、それが幻であるとわかればこちらに価値が無いなどといってきた相手は初めてだった。
 名声とて女を引き付ける誘蛾灯には十分なると言うのに、それには興味がなくただ純粋に目の前の女にしか興味が無いらしい。

 そして、そんなふざけた相手にもかかわらず、現状では手も足も出ないということもエヴァの自尊心をいたく傷つけた。
 今まで常に強者として相手を見下してきた絶対の捕食者が、今度は取るに足らない餌である人間なんぞに見下されるなど、闇の福音としてのプライドが許さなかった。


「ふ、ふざけるなーーー!!」
『あー……魔人っぽい生き物、こやつはふざけてはおらん。たちが悪いことに本気でそう思っておるんじゃ』
「うるさいぞ、カオス。置いていくぞ」
『そ、それは勘弁じゃ……うーくそ、じゃあな、魔人モドキ』 


 だが、そんなプライドなど今の状況では所詮は負け犬の遠吠えでしかなかった。
 もはや振り向きもせず、ランスはエヴァに背を向けてカオスを担いで歩き出した。





 絶体絶命の危機から命だけは拾い上げたエヴァの小さな口元から歯軋りの音が鳴り、夜の闇に流れて消える。
 今追っても今度は確実に返り討ちにされる。それはこの場に茶々丸がいたとしてもおそらく変わらない。
 それが解っているからこそ、生き残ることが現時点では優先されるエヴァは取るに足らない相手といわれてもかかっていくことは出来なかった。
 今は、この屈辱を受け入れ、生き延びた事に悦びを謳おう。

 しかし、胸の内はかつてナギに罠にはめられて登校地獄を掛けられたときと同じぐらいの怒りと悔しさが沸き立っていた。
 痛む体に鞭打って、何とか立ち上がる。
 だが、その頃にはランスたちはこちらに興味が無いとばかりに歩き去っており、大きな背中が小さく見えるだけだった。


「………覚えていろ、魔力が戻ったら必ず、真っ先に殺してやる!!」


 呪いをこめてその背に声を叩きつけるように呟く。
 登校地獄にはめられてから、これほどまでに魔力が欲しいと思ったことはかつてなかった。
 
確かにあの男は強かった。だが、それはあくまで今の自分と比べればの話だ。
魔力が、魔力さえあればあんな男一瞬でひねり潰せるのに!


 この日から、今まで何年もエヴァを縛り付けていた心の中での優先順位が切り替わった。


 まずは魔力を取り戻す。これは変わらない。
 魔力がなければ何も出来ないということをつくづく思い知ったからだ。
 以下に吸血鬼といえど、この身は幼くひ弱な10の少女なのだ。

 しかし、魔力が手に入った後は、ナギの墓を罵倒する前に、何年もこの地に縛り付けられている憂さ晴らしにこの学園を破壊する前に、おこがましくも正義なぞと名乗る魔法使い全てを滅ぼす前に。
 まずはあのふざけた剣を叩き折り、あの男を自分の前に這い蹲らせて、こちらの足をなめるまで叩きのめして僕にしてやることが優先されるとエヴァは心に誓った。

 この瞬間、ある意味ナギと同じぐらいの深度でエヴァの心の中にランスという名が刻み込まれた。
 ナギに対する淡い恋心と失恋の苦い想いとはまったくの逆ベクトルで、自分を侮辱した魔法使いですらない、『人間』として。

Comment

誤字報告
>以下に相手の照準をずらす事で攻撃をかわし、
以下に→如何に

触れる幻術ということでもしや?と思いましたが持ち越しになりましたねー
続きが楽しみです

全裸待機してたのに…!

誤字報告+感想

>暦戦の戦士であるエヴァにしてみれば
→歴戦の戦士であるエヴァにしてみれば


ある意味でエヴァにとってランスが「一番」の存在になりましたね
この憎しみが次第に変化していくのかな?

非公開コメント

プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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