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鬼畜ま!7

七話

「いいえ、残念ながらいません。振り向いて欲しい方はいるんですけどね」



(むむ、…………相手はいったい誰なんだろう)

 野次馬根性満載の朝倉はその返答だけでは満足できなかった。当然だ、彼女達は女子中学生という種族は世界で一番他人の恋愛ごとに首を突っ込みたがるものなのだから。
 クラス全体も一部の例外(例:まさか、高畑先生のことを!!)を除いてそれを望んでいると感じ取った朝倉は、具体的な相手の容貌を聞き取ろうとさらに突っ込んだ質問をしようとしたが、その質問を言う前にしずな先生が入ってきたので中断することになった。
 思いのほか時間が経過していたようだ。

 朝倉は思わず舌打ちが出そうになるが、これからもまだまだ機会はあると思ってここは引き下がることにした。


「ネギ先生、身体測定の順番が回ってきそうなので、次はこのクラスですよ。3-Aのみんなも早く準備してくださいね」
「あ。そういえば学園長先生がそのようなことをおっしゃっていましたね」
「あわわ、忘れていました。わかりました、しずな先生。で、では皆さん身体測定ですので、えと、あのっ、今すぐ脱いで準備して下さい」
「…………え? 身体測定というものは先生と一緒に受けるものなのですか?」


 ネギのあまりにアバウトの指示に対して突っ込みというほどではないがシィルに疑問を示し、教師らしくしようと誓いを新たにした新学期早々ミスをしそうになったということでテンパリかけていたネギがハッと息を呑む。
 実際には、身体測定が行われている教室についてから脱ぐ物であり、そこには当然男性教師は入れない。

 しかし時は既に遅し。
 ネギを見る3―Aの面々は嬉し、恥ずかし、軽蔑、怒り、すこし期待を含んだ目など様々な視線でネギを見ていた。

 そして……


「「「ネギ先生のエッチ~~~ッ(はぁと)」」」


 その結果として鳴滝姉妹と桜子の見事に声のそろったからかいに、顔を真っ赤にして教室を飛び出すネギの姿があった。






「ねぇねぇところでさ、最近噂になってるあの話……どう思う?」
「ああ、アレでしょ? 桜通りの『吸血鬼』」
「なにそれ!? 私知らないよーっ!」
「ウチも知らんよ」
「えっとね、休みの間からはやった噂なんだけど……満月の夜になると桜通りに出るんだって。真っ黒なボロ布に包まれた……血まみれの吸血鬼が………」
「「「きゃーっ!!?」」」



 生徒たちの黄色い声が聞こえる中、ネギは身体測定が行われている教室の前の廊下にて出てもいない冷や汗をぬぐい、先ほどのことを落ち込んでいた。


「あう~~~~~」
「あはははは、大丈夫ですよ、ネギ君。からかわれるということは見方を変えてみれば慕われているということですし」
「うう~~~僕は先生なのに」


 いまだに生徒にからかわれても受け流せない自分が、教師としてきちんと教えられるのかと、図書館島の一件で少しは着いてきた教師の自覚というものが崩れ落ちそうになるのを必死で立て直そうとするネギ。
 そして、沈んでいきそうになるネギをフォローになるんだかならないんだか微妙な言葉で慰めるシィル。

 彼女の主であるランスが無駄にポジティブなため、彼女はあまりうまい人の慰めかたというものを身に着けていないことが悔やまれる。
 真面目なだけに一旦悩み出すとさながらデフレスパイラルのように底なしに沈んでいくネギを助けたのは、


「せんせ――! 大変や――!」


 という、確か別教室で視力検査を受けにいっていた集団の一人である和泉亜子のせわしない足音と大声だった。


「はっ、どうしました、亜子さん? 何か身体測定であったんですか? 」
「ちがうちがう、まき絵が大変なんや!」
「佐々木さんですか? そういえばホームルームにはいらっしゃいませんでしたがどうかしましたか?」
「それがシィル先生、私も今聞いたんやけどまき絵が桜通りで……」
『え!? 何、まき絵がどうしたの!?』
「うわわわわわわー!!!」
『…あ』

 
亜子が先を言おうとした途端にドアが開かれ、3-Aの生徒が揃って色とりどりな下着姿で出てくる。
 いくらなんでも無防備すぎるのではないかと思うが、あまりこちらの世界に詳しくないシィルはこれが普通なのかな? と疑問に思いながらもぼろが出ないように口をつむぐ。
 そもそも彼女の普段着も布の面積的には大して変わらなかったりするので、恥じらいという面では口を出せるはずもない。



 しかし、勿論そういったことに免疫の無いネギはびみょ~に芽生え始めた男心に引っかかったのかノックダウンしてしまった。
いくら誓いを新たにがんばろうと決心したとはいえ、やはり一朝一夕には変われないネギだった。


 まき絵と聞いて、思わず唇を強く噛んだひときわ幼い金髪の少女がいたことにも気づくことなく……






 保健室のベッドでは静かに寝息をたてて眠るまき絵の姿があった。
 そして、それを看病するしずな、担任としてこちらに来たネギとシィル。そして、その常人離れした身体能力を持って即行で身体測定を終了した後、なぜか無理言ってこの場に入ってきていた明日菜が保健室にはいた。ちなみにいい意味でも悪い意味でもお祭り好きな他のクラスメート達は明日菜ほどの脚力を持っていないので身体測定が終了しておらず、その結果として当然明日菜たちに追いついてきていなかった。


「それでしずな先生、彼女はただ眠っているだけに見えるんですが何か怪我でもなさっているんですか?」
「それがシィルさん、なにか桜通りで寝ているところを生徒が見つけたらしいのよ。医学的には外傷も無いんだけれども、あんなところでいきなり寝ていること自体が不自然でしょう」
「まあそりゃそうよね、いくらまき絵でも朝から花見酒で酔っ払ってるって事は無いでしょうし」


 タカミチのお見舞いなどで顔を合わしているためか、生徒が倒れるという非常事態にうろたえているネギよりも早くシィルがしずなに話しかけた。
 それに対してしずなは、身体的には異常は無いとしながらも、あんなところに寝ていること自体が異常だと告げる。

 まあ、たしかにいくらまき絵が(クラスの成績を通常とは逆の意味で引っ張る)曳航あるバカレンジャーの一人、通称「麻帆良の桃色のアホウドリ」ことバカピンクだといっても、明日菜の言う通り外でいきなり寝ているというのは異常である。そのこと事態にはシィルもネギも納得した。



 しかし、幾らここが生徒達の健康管理をしている場所とはいえ、保健室程度の設備ではわからない病気とてあるはずである。
 それを無視して異常が無い、と断言するしずなにランスの補佐として様々な冒険をこなしてきたシィルの勘は違和感を訴える。

 そしてその疑問は、同様の疑問を感じたのか、混乱状態から復活してずっと何か魔法っぽい手段でまき絵を調べていたネギがつぶやいた言葉を偶然耳が拾ったことによって氷解した。


「………まき絵さんからは少しだけだけど魔法の力を感じる。生徒に害を及ぼす魔法を使える人がこの学園の中にいるって事に」

(あ、なるほど。つまりこれは多分ネギ先生だけで問題が解決できるかどうかの試練みたいなものなんだ。私たちにもたまに冒険者の実力を見るとか言って試験をする依頼者の方がいたけどそれみたいなものなのかな)



 これは実際には学園長か誰かが行ったやらせの事件であり、ネギをより魔法使いとして成長させるための試練であるとシィルはかつての経験から解釈した。彼女は意味もなく魔法的効果を一般人に付与するような猟奇犯罪者に触れた事はないからだったが、この場合そのあてずっぽうは見事に当たっていた。
 ちなみにランスを試そうとしてばれた者は、身分の高低を問わずすぐに後悔するはめになったがそれはさておく。自由都市郡やリーザス辺りの地区で恐怖と共に語られる、シィルの主の鬼畜戦士の二つ名は伊達ではないのだ。

 まあ実際に学園長は現場の地区を見まわっていた他の魔法教師と元賞金首につけてある監視員からの報告によってこの吸血鬼の正体を知っていたものの、直接的に大きな危害を加えていないことと、吸血鬼の目的がわかっていたことからわざと放置していたのだから、やらせと言えない事も無い

 これは、ランスたちが来るまでは吸血鬼事件をネギに担当させることで、ネギにある程度の危機感を与え従者との契約を促そうとしていた近右衛門の計画であり、そのためにすでにウェールズから仮契約魔方陣を作成できる一匹の使い魔を召喚しようとしていた。
 まあ、多少のリスクはあるものの魔力の大部分が封印されている状態の吸血鬼相手であれば、こちらがこっそり援護しながら戦わせれば十分ネギに勝機があると確信しているから、一種の安全な経験値稼ぎとして当初から用意されていた計画である。学園側としてみれば、登校地獄+ナギに対する微妙な好意によりさほど残虐な行為に走る事も出来ない元賞金首は、実に利用価値の高い駒だった。

 もっとも、ランスの戦闘を見てこの上ない危機感を感じたであろう現状のネギにとってはあまり必要の無い試練であるが、魔法学園的にはたいした損害も出ないし計画を破棄する理由も無いため一応継続されているのだ。
近右衛門としてみても、ランス一行への対抗手段を学園内部で育てる事が出来るならば、それに越したこともない。


 普通に考えれば10歳の少年には荷が重いと思うが、ネギは天才であると聞いているためそんなこともあるんだとぐらいに思っているシィルはある程度落ち着いてまき絵を眺めることが出来たが、本人の努力や経験にはまったく関係ない特殊な体質を除くとほぼ一般人である、クラスメートが原因不明で倒れているのを見た明日菜はネギが黙っていることで不安に感じたようだ。


「ちょっとネギ! なんでさっきから黙りこんでんのよ、何かわかったの?」
「え、え~と、いえ。まき絵さんはただの貧血ですよ!! あと僕は今日、帰りが遅くなるので晩御飯、いりませんから」
「あ、うん……?」
(私はどうしたらいいんでしょう? 手伝ってもいいのかしら)


 どこか納得いっていないながらも、ネギの勢いに押されてうなずく明日菜を尻目に、シィルは自分がどうするべきかを悩んでいた。こういう悩みに肉体労働を専門に担当とする彼女の主は関与できないから独力でだった。







 そして、時刻は吸血鬼騒ぎが起こる前日の深夜に戻る。


『ふう、考えてみるとここでは、わしシィルちゃんたち以外の人間と喋れんし、おぬしとずっとだんまりのまま二人というのも退屈じゃのう。なんかせんか、ランス』
「なんかって何だよ」
『エロトーク』
「…………………」
『魔剣とエロトーク』
「誰がするか、この馬鹿剣がっ!」


 などと、いつもと変わらぬ馬鹿話をしながらランスとカオスは麻帆良学園の敷地内を歩いていた。喋る無機物であるカオスは当然魔法関係者以外と会話は出来ない。
 ちなみにあてなは踊りながらスキップしてどこかに遊びに行った。今まで基本的に人間社会に対してそれほど知識があるわけではない彼女にとって、両世界間のギャップなぞ何のその、この学園都市は遊園地に等しいらしい。毎日が実に楽しそうだった。

 近右衛門は生徒がいる学園の生活圏内ではランスに外出しないように契約条件に付け加えたかったようだが、一箇所に押し込められることを嫌ったランスは当然その条件を蹴った。
 もっとも近右衛門のせめてもの抵抗のおかげで、敷地内で人に出会った場合は魔法のことや異世界のことを口外しないようにということは堅く誓約させられた。

 一応喋る剣や時代錯誤な鎧などは認識阻害の魔法を掛けた上で透明化しているが、魔法や異世界などといったことを除いても、ほとんど一般常識が無いため突っ込みどころ満載な一人と一本だ。といっても、近右衛門以外の人物では監視は出来てもランスの行動の制限なぞできるはずもない。下手すれば声をかけただけでマジに殺られる。

 しかし、この学園とてある意味世間一般からは規格外である。
 刀や銃器に見えるものを普段から持ち込んでいるものや、明らかに忍者といった存在、ロボットや怪獣などもたまに闊歩していたりする。
 そのため、学園全体にも弱い物ではあるが一種の認識阻害の魔法がかかっており、異常な物を異常と認識し辛くなっている。

 つまり、この学園に住んでいるとある程度一般常識というものが麻痺してくる傾向があるため、そのくらいのことであればどうにかごまかせると踏んだのであろう。いや、ごまかせて欲しいと願ったのかもしれない。


 侵入者退治にも飽きてきたランスは、適当に警備部に連絡を入れた後、そのままシィルの待つ宿舎へ直帰してもよかったのだが、月の光に導かれて気の向くまま足の向くまま敷地内を歩いていたが、そのうち敷地内の一角になんだか見覚えのあるものを発見した。


「これは、桜じゃねえか」
『フム、ゼスの桜通りを思い出すのう』


 そう、そこは学園が誇るソメイヨシノによる桜並木である。
 麻帆良学園園芸部が世話をする桜はこの時期になると毎年満開の華を咲かせ、ここを訪れる者の目を楽しませている。

 あまり風情というものとは縁の無い二人であるが、それなりに目を奪われ足を止める。
あえて二人ともJapanでの花見酒のことは話題に出さない。ランスは過去の感傷を嫌うし、カオスにとってもあの事件は後味の悪いものだった。たとえ、自らの1000年にもわたる念願である魔人退治が成功したとしても。
具体的に言えば香ちゃんかわいそう、ザビエルがっでぃむ、ついでに魔王ヤりたいor死ね健太郎消えろ、な気分だった。


『桜といえばゼスでシィルちゃんと愛を誓わなかったらしいじゃないか?』
「…………俺様と奴隷が? そもそもそんなことはありえない。それよりせっかくの満月だ。この散ってる花の下でやるというのも風流だな、がはははは」
『(シィルちゃん、不憫じゃのう)…………おぬし風流という言葉の意味を解って言っておるのか? じゃが、確かにこの花の下というのもなかなか乙で………げへへへヘ』


 非常に中身の似通った二人がそんな桜の花色の妄想を浮かべていると、何かが通り過ぎるように一陣の風が吹き、木々に咲いていた花と地面に落ちていた花弁を吹き飛ばし桜吹雪を作る。

 と同時にその風の中にごく少量であるが血の匂いが含まれていることに気づいたランスは、桜吹雪を見ながらも思わず身構える。


「む? ……何かいるな」
『ああ、何かあったようじゃのう』
「ムムムムム……そっちだ~~~」


 カオスが言い終わるかどうかというときに、周囲のあやしい気配を探り終えてそちらに駆け出すランス。冒険者たるもの、トラブルには進んで突っ込んでいかねばイベントが進まないのだ。





 大地を縮めたかと見まごうばかりの速度で駆け出したランスは、あっという間に探り当てた気配のところに到達する。
 そこには、ランスとカオスの予想通りフラグの一つが存在していた。そこにいたのは、倒れこんだこの学園の制服を着た生徒と、一人の妖艶な美女だった。


「何だ、もうかぎつけてきたのか。ネギの坊やへの警告とするつもりだったが、予定が狂ったな」


 その蜂蜜色の髪はこの花びらの洪水の中にいても輝きをなくさず、しなやかに踊っている。
 その琥珀色の瞳は自らの犯行現場を見られたというのに甘く笑っている。
 その何の人工色も加えていないにもかかわらず、鮮やかな朱を引いたような口元はわずかに尖った真っ白な歯を見せて、嘲笑を含めながらもこちらに語りかけてくる。
 その柔らかなアルトの声は艶やかに耳に響いて、たとえ目をつぶっていてもこれは美人が話しているのだな、と理解できる。
 自分こそが美女だ、という自負を持つ幾人かの負けず嫌いな女性を除いて、おそらく万人が美しいと認める造形を持っている。


 そんな美女が桜並木の中で佇んでいた。



 美女はかなりの長身を非常にきわどい衣装で包んでいながら、腕に抱き上げていた少女を近くにあった桜の幹のそばに無造作に置く。

 単なる魔法教師では止めることが出来ないと思っているのか、視線には警戒する様子も無いこの美女は、封印されているとはいえ現時点での学園における最強の存在であるエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルであった。
 ちなみに美女の姿は幻術でごまかしている。せめてもの見栄+一応の変装だ。

 とはいっても並みの幻術ではなく、ほとんど実態を変化させる変身術といってもいい。
 この幻の姿で触れることも出来れば、攻撃することも出来るという600年の英知が詰まった幻術だ。




 エヴァがランスを侵入者であると思っていないのは、こんな怪しい人物が闊歩していられるほど自分を縛り付けているこの学園は甘くないと感じているからであろう。
 どう見ても迷い込んできた一般人というには無理があるが、気配を隠すそぶりも見せないランスが侵入者であるならば、自分のところに辿り着く前に他の警備員に出会って騒ぎになっていると考える程度には、エヴァはこの学園の警備網と自分の張った結界術を信頼していた。




 自分の知らぬ間に学園が雇った単なる警備員であろうと推測したエヴァと、そんなことはどうでもいいランスという二人の危険人物の目がそれぞれ、何だこいつ、といったふうに細められる。

 お互い特殊契約によるものであるとはいえ、ある意味同僚でありながらランスとエヴァは初対面である。
 ランスは警戒網の一角が空けられた森の出口において警備員業(本人的には経験値稼ぎおまけ付き)を行っており、エヴァは主に学園内への侵入者を感知する結界を張っており、気が向いたときにつぶす程度しか警備員として活動をしていない。

 そのため、これだけ灰汁の強い二人でありながら、いまだに出会ったことが無かったのである。
 また、我の強い二人にうまく説明する言葉を考え付かなかった学園長が意図的に二人の行動範囲をずらして会わないようにしていたという面もある。



 ちなみに、二人(+1)の第一印象は


(何だこの男は? いまどきあんな格好をしているということは古の武具から力を引き出すような特殊魔法の使い手か? それにしては魔力は感じないが……生命力は有り余っているように見える。ふふ、坊やとは違った意味で食欲がわくな)
(あんなやらしいボンテージを着て学校を闊歩するということで恥じらいの無さはマイナスだが、スタイルその他は非常にグッド。特にあの髪と瞳がなんともいい感じだ。総合評価AA+だ!)
(乳でけー)


 ずいぶん温度差が感じられる感想だが、基本的に身内以外は敵とみなすエヴァと、美女であれば敵とかそんなのは関係なく、まずはロックオンするランス・カオス組であればこんなものであろう。その生において常に追われなければならなかった一人の少女と、運と実力と才能に裏づけされた天上天下唯我独尊傍若無人鬼畜戦士たちの明確な人生の温度差でもあった。
 にらみ合いに移行するかと思われたとき、エヴァがランスに声をかけた。


「私は真祖の吸血鬼、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルだ。闇の福音と言えば少しでも魔法を齧った者であれば聞いたことがあるだろう。今回はお前には用がない。さっさと立ち去るのならば見逃してやろう」


 エヴァにしてみれば、この後ネギ=スプリングフィールドとの一大イベントが控えているため、面倒なことをするつもりは無く、少々脅してこの不埒な乱入者を追っ払うつもりだった。確証は取れていないが、学内での吸血行為自体はおそらく近右衛門からの認可が下っているだろうという読みもあった。




 だが、その言葉を聴いた本来傍観者であるはずのカオスが、エヴァの思いもよらぬ反応を示した。


『吸血鬼じゃと………貴様、魔人かっ!』


 そう、彼らの世界では、吸血鬼といえばカオスの仇であり、VAMPIRE OF BLOOD POOLとも呼ばれる魔王自身と、その血をもっとも濃く受け継いだ四天王と呼ばれる強力な魔人の事を指すのだ。
 魔王と魔人とは、約1000年もの間、決して滅ぼすことが出来ない世界全てを戯れに支配する魔物たちの王と、その王に見出された元となる生物の域をはるかに飛び越え、限られた手段以外では傷一つ付けることすら出来ない強力な力を持つ魔王の従者達のことだ。

 カオスは魔人の気配を感じることが出来、レッドの町の神官であるセルから魔人や魔王の伝承を聞いているため、すぐさま気配を感じず、伝承とは風貌が異なる相手がまさか魔人であるとは最初は思っていなかった。



 しかし、ここは異世界である。
 自らの知らない魔人や魔人の気配を消す技術が存在する可能性も否定できないとカオスは考える。

 何より、カオスの世界では吸血鬼を語る様な愚か者など存在するはずが無かった。
 魔人を語ったが最後、それこそ本物の魔人を凌駕するほどの力を持たなければ、市民は怯え、恐れ、恨み、自らを特別だと勘違いした二流冒険者達には名声のため狙われ、国家権力により徹底的な監視がつき、場合によっては無用に混乱を生んだということで抹殺されてもおかしくないのである。
 最悪の場合自分らの名前を語ったとして魔人本人の手によってこれ以上無いといった残虐な手段で親類縁者が皆殺しにされたということも魔王ジル期の初期の記録には残っている。

 もっとも、ここはカオスたちのいた世界ではないため、そんなことは関係ないのだが、結局、吸血鬼という生物がごく普通ではないにしろ存在する世界に来ていながら、カオスもいまだに異世界に来たということを実感として持っていなかったということである。人間、理解していても生まれ育った環境をそう簡単に忘れて新しく覚えなおす事など出来はしなかった、たとえそれが千年を生きた「元」人間であったとしても。


 しかし、そういった事情を知らないエヴァは剣が喋ったことに少々驚きながらも、自らも無機物である人形を操る魔法使いであるためか、あっという間に精神を立て直し、むしろ珍品であるカオスの驚愕を自らに対する恐怖込みの賞賛であると感じたのか含み笑いをこめて答えた。


「魔人? まあ、そう言えないことも無いな。脆弱な人間などと一緒にされるのは不愉快だからな」


 そういって、その麗しい唇の奥のきらめきを見せ付ける。
エヴァンジェリンにしてみれば、自分を吸血鬼という身の上に変えたものに感謝することこそは無いが、単なる人と同列にみなされるのも面白くないための単なる戯れの一言だったが、異世界人ランスたちに対して「魔人」という言葉は特別な意味を持っていた。
 相手をただの美女だとおもって目じりが下がっていたランスだが、カオスの言葉を聞いて警戒態勢に移る。

 恋人のジーナを目の前で魔人に殺されたため他の何よりも「魔人を倒せる力」を願い、その身を剣へと姿を変えたカオスはもとより、冒険者をやっていたランスにとっても魔人とは基本的に仇敵である。ましてやゼスにおける好みの女性に対する馬鹿理想主義者の残虐行為とJapanにおけるザビエル戦以後、魔人や使徒に対するランスの感情はえらい事になっている。
 間違っても油断して向かってよい相手ではないことに加えて、許せる相手でも無いのだ。




 が、同時にランスは魔人と聞いてもかつての世界における他の人間のように必要以上に恐れることは無かった。
 実際にランスは何人もの魔人を倒したことがあるし、魔人の絶対防御を貫くことが出来るカオスを持っている以上、むざむざと逃げるという選択肢は頭から消えている。

 そして今なら、シィル・あてなとのパーティを組んでいる状態であれば、世界最強の一角、魔人四天王が一人、カミーラすらごくあっさりと倒せる自信すらある。
 今は回復係であるシィルがいないことは少々不利に働くが、魔人を倒すことが生きがいであるカオスはもとより、これほどの美女という賞品を目の前にぶら下げられて我慢できるほどランスはおとなしくなかった。


「がはははは、前途有望な少女を毒牙にかける魔人め、めっためたにしてお仕置きをしてやる!」
『いいぞ、ランス! わしを振るえ! 拳を唸らせっ! 技を放て!! わしの体にやつらの苦痛を感じさせろっ!!』


 そういってカオスは普段抑えている全てを蝕む闇色のオーラを刀身から噴出させ、ランスは自身の必殺技であるランスアタックをすぐにぶち込めるように構える。


 なぜかいきなりやる気になったランスを見て、まさか闇の福音という名を聞いても向かってくるとは思わなかったエヴァだが、いくら封印されているとはいえ自分とやりあう気になっている獲物をわざわざ許してやるほど丸くなったつもりは無かった。


「ふん、やるというなら遊んでやろう。せいぜい持ちこたえてみせるんだな」




 こうして、夜の麗人と鬼畜戦士の出会い頭の戦闘は始まった。

Comment

さて盛り上がってまいりました!
この流れならエヴァが犯られちゃってもおかしくないな。
ランスはロリババアならOKなはず。
まあ関係最悪になってしまいそうだが。
最近ランス作品を見かけないのでこの作品続きを楽しみにしています。
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プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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