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ドラゴンに首ったけ48

その48










帰ってきたクーは、真っ先にブラッドのいる竜の間に向かう。
扉の前まで近づいて、半ば開け放ったところでようやく防音性に優れた部屋からすえた匂いと甘い声、乱暴な水音が立っていることに気づいていったん手を止めたが、すぐにそのまま開けて中に入る。


「御主人様………旧転移魔法陣室の封鎖と、それに変わる新たな転移魔法陣を建設しました」
「そうか、ごくろう」
「あ、ああ、あ……あっ、あうッ…ああん! ブラッド様ぁ……」


案の定と言うか、予想通りの光景。ブラッドがそーいうことをしているらしい。しかも同時に三人。と言っても、一人、やたらと胸のでっかい少女は精も根も尽きた感じでベッドに横たわっているが。
ブラッドのその行為に夢中になっているのか、生返事しか帰ってこない。竜という種族は元々快楽という行為と無縁だったはずだが、それだけに「はまる」とずぶずぶとおぼれていく。このまま報告を続けても、終わったときには多分碌に覚えていないだろう。

仕方がないので、クーはしばらく待ってみることにした。


今、ブラッドに背後から組み敷かれているのがフェイだろう。
自分が出て行くときにはこわばった顔をしてブラッドから罰を求めていたはずだったが、後ろから激しく突かれている今の彼女の顔は見事に蕩けきっていた。
他人の性行為を見ることにはもはや特に感慨のないクーだったが、見知った少女の普段見せない顔を見る、ということにはそれなりに感じるものもある。

勿論、最愛の主に対しても。



「あっ、も、もうしわけありません、ブラッド様ぁ」
「今やっていることがおしおきだってことがわかっているのか? 気持ちよさそうな声ばかり上げやがって」
「そ、そんなことは……」


乱暴に、それこそフェイの体を使ったブラッドの自慰行為のような激しく荒い行為だったが、それでもフェイは感じているようだ。
侵入者をあっさりと通し、主の身に危険を迫らせたことに対する罰、ということだけはかろうじてまだ覚えているようであるため、ブラッドの注挿にあわせて腰をみだらにくねらせながらも、フェイは否定する。
だが、快感にとらわれて甘い声で、とろけて汗まみれの顔で、される否定は彼の劣情に油を注ぐだけの効力しかない。
行為に更なるスパイスを投じるべく、ブラッドはさらにフェイに言葉を投げかけていく。


「黙れ、使えないカスめ」
「うぁ……も、申し訳ありません」


言葉でブラッドになぶられるたびに、フェイが体を震わせて喜びをあらわにする。
彼女は働きには褒め言葉を、失敗には罵倒を求めているがためにいつもよりも厳しい言葉をブラッドは投げかけるが、それすらも今のフェイには快感に変わっているのだろう。

自身に対するブラッドのさげすみと、主を守れない情けない剣士、ということを自分自身で、そしてブラッドの言葉で直接的に突きつけられることで、マゾヒスティックな快感に染まったフェイの顔は、蕩けきってなおブラッドに対する想いにあふれていた。

それを見てクーは、己のはらわたの中が熱く蕩けていっていることを自覚する。
ついこの間、リュミスに会いに行く直前に初めてブラッドにその身をささげたにもかかわらず、体はもうその味を覚えてしまっているみたいな気がして、クーは顔を赤らめる。

自分が抱いてもらったときはすごく優しかったブラッドが、こんな乱暴なことを、たとえ相手が望んだからといってとっていることが驚きであり、その相手が自分であれば、という想像による快楽をさらに強くする気がして、クーは僅かに体を震えさせる。


「本当にわかったのか? おらぁ!」
「ふぁ! 深ぁ……そ、そんな………っ、お、くぅ…奥までぇ……!」


そんなクーが見ていることなど両者は気にも留めずに、罵倒の言葉とともにいっそう深く叩き込まれた一撃に、フェイはひときわ大きな声を上げた。
両者の我慢が、理性が、ごとりと音を立てて崩れて消えていき、官能のもやの中に飲み込まれていく。いや、そんなものなどは無からなかった、といわんばかりに二人そろって無理な姿勢から強引に口付けをかわし、おぼれていく。
絡み合う舌と唇は、両者以外の存在をまったく意識していなかった。


「ちっ、いい加減にしろ! 別に女はお前だけじゃないんだぞ」
「も、申し訳ございません」
「謝る前にしっかり締めろ」
「はいっ……あんっ」


膣壁をこすり上げながら、重ねて命令してくる主に、フェイは感極まったのかぼろぼろと涙をこぼしながら首を揺らす。

これは、そういったプレイである、有る意味自分が望んでいるからブラッドもこういう役を演じてくれている、とはわかってはいるものの、最愛の主から見捨てられる、という感覚はフェイの中から溢れて零れる。
ゾクゾクと、背筋を通る恐怖とともに彼に尽くさなければ、という思いが強くなる。


もう、抵抗できない。
端からさしてなかった快楽におぼれることを浅ましい、と思う精神によるリミッターがフェイの中からあっさりと振り切れる。
男の匂いに包まれて、体はすでに快楽を求める雌の体と化していた。獣のように突き入れられるたびに全身を貫く快楽に、フェイはもはや翻弄されるだけだ。

そんなじっとフェイを見つめながら、ブラッドはフェイの体に逆にすがるような切ない気配すらたたえて、無心に腰を使い続ける。そこには、自らの脳天に迫った剣の恐怖を忘れようという想いすら見て取れた。
怪我が治るまでの二、三日で貯まりきった精力を使って、女の体におぼれることで、自分の身を脅かし、散っていった愚かな侵入者のことを忘れ、また再び略奪行為を行おう、という想いが。

それをとろけきった頭でも無意識下で感じているのだろう。求められている、という実感がその肌から伝わってくるような感覚を覚えて、フェイが目を細める。とたんにフェイの全身から、すうっと力が抜けて神経と言う神経を数倍の官能が走り抜ける。


「うぁわ……」
「あんっ…………あっ、下さい……中に下さい、ブラッド様!」


ブラッドの高まりを受けて自身の内部がいっそうきつく締めあげているのが自分でもわかる。ブラッドを放すまいと、もっと強く触れ合おうと、膣を自分で狭めている。それは、ブラッドに安心感を与えるとともにフェイ自身にも快感をフィードバックした。

気持ちいい……このまま奥の奥まで射精されたら、あのもはや癖になった感すらあるにおいの元を体の芯で受け止めたら、もっと気持ちいいに違いない。

そんなフェイの表情を読み取ったのか、さらに遠慮を取っ払って、ぐちゃぐちゃと卑猥な音を立ててあわ立つ愛液が飛び散るのもかまわず、ブラッドは腰を振りたくって射精感を加速させる。


「あっ、あ、あ、ああ、ブラッド…様ぁ!」
「くっ、フェイ、出すぞ」
「あ…はいっ!」


フェイ自身も、脳に白く霞がかかっていくような快感の中、絶頂へと駆け上がっていく。
最後に、この霞の無効に突き抜けるような刺激を受けたら、また自分の中の忠誠がひとつ強固になるようなアレが来る、と言うことがフェイにもわかっているから、それを抑える気はさらさら無かった。
丹田からあふれ出る想いを、ブラッドは遠慮なくフェイの中へと吐き出した。


「くっ……」
「あ、ああぁーー!!」


胎内を撃つ熱さに、フェイの全身が硬直する。
筋肉と言う筋肉がしまって、こみ上げ、荒れ狂う快感が脳へと伝わるまでの伝達経路でのロスをなくす。どくどくと、子宮口をたたく絶頂の気配。痙攣するブラッドのものと、逆流するその排出物。見なくてもわかる。
その感覚とともに、脳裏を白く染め上げて、フェイも上り詰めていった。

永遠にも思えた絶頂の時間だったが、現実の時間にしてみればごくごく僅かですぐにその勢いは段々と収まって言った。
まだ続いているブラッドのものが僅かに震えるたびに、フェイは反射的に腰をうごめかせ、剛直からさらに精を搾り出していく。
たっぷりと精を流し込まれたお腹に、いけないとは思いつつもフェイはそれ以上の快楽に悦びの声を上げた。勢いよく、人間の限界など軽く声で大量に出されたもので軽く張った下腹は、焼けるほどの熱がゆっくりと巡っている。


「ふー、ふー、ふー」
「あ…………ブラッド…さま……」


だが、ブラッドはまだ満足していない、とばかりにフェイの膣内からずるりと己のものを引き抜くと、無言でフェイの頬にそれをぺたぺたと触れさせた。股間から流れ落ちる精の感触と、鼻先の強い精臭が、そのままの快感の中で意識を手放して眠りこけそうになっていたフェイの目を細めさせ、目覚めさせる。

何もかもが神経に甘く絡み付いてじわりと痺れさせる官能に繋がっているみたいだ。
中から漏れ出しているものと鼻先に突きつけられたものからする精液の熱とにおいに包まれながら、ぼんやりと力みの無い顔に微笑を浮かべるフェイ。


「…………」
「ふぁ……あむっ…」


大きく胸を上下させて胸いっぱいにその香りを吸い込みながらも、うっとりと声を漏らしたフェイは、何もいわれずとも自分から舌を出して鼻先に突き出されたそれにしゃぶりついた。




まだまだ終わりそうにない二人の行為に、クーはそれ以上の報告をあきらめ、ため息をひとつ吐いただけで退室することにした。
目線の先に、自らの胸元とは別格の気配を漂わせる少女がブラッドたちの行為に触発されて目を覚ましかけている、という事実もその決意を加速させた。
どうせフェイが崩れ落ちれば、選手交代になるだけなのだ。

仕方がない、と思ってクーは、一礼してつい先ほど開けた扉を再び通って閉めた。

何せ彼女は忙しい。
リュミス対策に隠し持った二本の剣を獣人の少女に渡して、さらにもう二度と奪われる様なことなど無きようにする方策も二人で考えなければならないのだし。
日々遊んでいるブラッドのために、クーは毎日を一生懸命に働いていた。










元トリステイン魔法学園のチーフコックであり、さらには竜の巣の総料理長であった経歴を持つマルトーは、自分が作ったスープを口にしながら、頬杖をついて退屈そうに夜の時間を一人で過ごしていた。

ここは、タルブ村の隣に位置する小さな村。
シエスタの紹介でここに居を構えることとなったマルトーは、アレほど好きだった料理を仕事とすることも無く、単なる農民としてたった一人でこの村に住んでいた。


「ふぅ…………もう寝ちまうか……」


さきほど自分で作った料理をさも不味そうに一気に喉の奥に半分ほど流し込んで、マルトーは呟く。
ほとんど野菜だけで、動物性のものがまったく入ってないために旨味があまり無いそのスープを作ったのは確かにコックであった自分なのだが、それでも不味いものは不味いのだ。だしもろくにとっておらず、包丁を振るったのも適当、煮る時間も適当。うまいはずがない。

進んで飲みたいものではない、とまだ半分ぐらい残るそれの中に入っている芋をスプーンの先端で突っつく。
と、そこまで考えたところで、単なる一農民である自分が飲むのなら、野菜だけのこんな不味いスープがお似合いか、とマルトーは自嘲する。


だが、それが間違いであることは誰よりも己が知っている。
たとえ貧しい食材しか手に入らなくても、日々の糧となるものの種類が偏っていても、工夫と時間さえかければ最上級のものにも負けない味になることは、自分の舌にわからないはずが無い。
そして、人はそれにこそ喜びを感じられるのだ、ということも。

野菜だけしか手に入らぬことが悪いのではない。その料理に手間と愛情を込めないことが、この味の一番の原因だ、とは誰に言われるまでも無く、コックであったマルトーには痛いほどわかっている。


だが、マルトーにはここ最近料理をする気が起きないのだ…………正確には、あの日竜の巣で作った食事を最後に、彼はコックたる自分の腕前を振るった料理らしい料理を一切していない。

あの剣を入ってきた侵入者の少年に渡した瞬間には、僅かな罪悪感は消えないものの確かに自分のやることは正しいのだ、という実感がマルトーの中には溢れていた。
かの少年が拒まなければ、一緒に竜のところまで言って決別を叫んでやる、と思えるほどに。
それこそが、己自身は戦えないマルトーに出来る精一杯の誠意だった。


それゆえ、半ば無意識に、ではあるがある種の誓いを立てたのだ。すべての片がついてから、あの少年に自らの最高の料理を振舞おう、と。
自らの代わりに横暴な竜をやり込めてくれた少年に、最上級の礼をすることで一緒に快哉を叫ぼうと。



だが、竜は倒されなかった。
誓いは、果たされなかった。


最高の環境を知ってしまった後で、次善の環境に甘んじることは、とてもとても難しいことで……心をあの場所に残したまま新たな道に進むことは、とてもとても苦しいことで……何かの区切りがつくまで、きっと単なる一般人である自分は新たな一歩を踏み出せない。
竜を自ら倒すと言い切れなかったように、勇者ではないマルトーは再び料理をするために、もう一度誰かによる何かのきっかけが欲しかった。

奴隷根性、誰かが何とかしてくれるだろうという甘え、結局は貴族などの上位者の言いなりになっているのだ、ということは半分わかっていても、今まで何十年もの間平民として培ってきた精神は、何かの外部的要因がなければ動けだせなかったのだ。


そして、そのきっかけは。


「こんにちは、マルトーさん」


少女の姿をした死神としてマルトーの前に現れた。







「ああ、ひさしぶりだな……………ユメ嬢ちゃん」


かつての己の同僚であった、獣人の少女、ユメ=サイオンの姿がそこにはあった。
突如、家の扉を開いて入ってきたユメの肩にあの日少年に渡した剣があることを見て、マルトーは彼女の用件を悟った。それでも、有る意味彼女は自分が待ち望んでいたものだ、と取り乱すこともなく彼女を迎える。

マルトーが覚悟を決めたことを理解したのか、巣にいたときと同じ呼称を聴いたことで悲しげな顔をして、ユメはマルトーを問い詰める。
その声は、同じ職場で働いていた同僚にこれ以上ない形で裏切られた悲しみに満ちていた。


「どうして…………ブラッドさんを裏切ったんですか?」
「それは…………」


ユメの声を引き絞るかのようなその問いに対して、きっと自分は彼女が満足するような返事を返せないだろう、とマルトーは言葉に詰まる。
きっと竜にその身のすべてをささげている彼女と自分では、根本的な価値観が恐ろしいほど食い違っているのだろうから。

所詮、獣人である彼女は、人間である自分と相容れない存在なのだから。

それでも何かはいわねばならぬ、という感情が声にもならない声として喉の奥から漏れ出たり、詰まったりしている。
こんな日がいつかは来るのではないか、とは思ってはいても、それへの対策などまったく進んでいなかったのだ。


「いえ、いいんです」
「?」


だが、自分から聞いておきながらユメはマルトーの返事を待つことなく、その話を打ち切った。
闇の浮かんだ、それでも美しい笑顔が明かりに照らされて、その白い肌を見せる。
ランタンに注された獣脂の獣臭い香りが当たりに広がり、それによって生み出される僅かな明かりに狂気が透けて見える。

そう。
ユメは、竜の生贄ユメ=サイオンは、断じて甘いだけの少女ではない。


「正確には、『どうでも』いいんです」
「………」
「………厨房を今は私が任されていることも、この間のシチューが上手に出来たことも、テファちゃんの捕虜に対する扱いが悪くなったことも、ブラッドさんがようやく完全に元気になったことも、もうあなたには関係ないことですから」


自分のやったこと、楽園を自ら放棄したことを直接的にたたきつけられ、マルトーの顔が僅かにゆがむ。
だが、それこそが他人任せに竜の打倒をたくらんだ自分にとって相応しい断罪だ、とマルトーは甘んじてその形を変えた罵倒を受け止める。

ああ、ずっと後悔とも満足とも言い切れない感情があの日から残り続けていた。
あの日、竜があの誰ともわからない少年によって倒されていれば、きっともっと感情の整理がついただろう。今も細々とであってもコックを続けていただろう。

だが、彼は結局戻らず、いまだに竜は空を飛ぶ。

自分のやったことは間違っていないはずなのに、後に残ったものは何も無かった。



竜は許せない。
剣があっても自分では倒せない。
あの少年は、竜を倒したかった。
だからこそ自分の願いをすべてあの剣に託した。
すべてが正しい。

にもかかわらず、ただ自分が最高の職場を失っただけで、世界は何も変わっていない。
あの竜のやっていることは今でも許せない。
そのため、もしあのときに戻れたとしても今も同じくあの竜に対して笑顔で料理を作れる自信は今も無い。


だが、料理人としての後悔が何も無いか、と言えばNOだ。

今でも総計としては、竜を許せない、と言う方向に心の天秤は常に傾くものの、時にはそれが逆転する瞬間とて、無いとはいえないのだ。
あんなことをしなければ、今も自分は楽しくコック人生をやっていれたのに、という自分勝手極まりない感情が。


「そうだな……ユメ嬢ちゃんが正しいさ」


だが、それを表に出すことは許されない、と思ってマルトーは出来る限りの平然を装って、言葉を返す。
竜を許せなかった自分を許せない少女がいても、それは仕方がないことなのだ。

いや、ひょっとするといつかこんな日が来ることを、ひょっとすると自分は望んでいたのかもしれない。楽しんで料理が出来なくなったあの日から。

喉元に迫った少女の形をした刃を見てもなお、マルトーの心は水面のように落ち着いていた。そう、竜を許せない、として彼女の主を殺そうとした自分は、直接戦ったわけではないにせよ、間違いなく竜を殺そうとし、殺されることを覚悟した戦士となったのだから。


「あれ? 潔いんですね…………ブラッドさんを裏切ったくせに」


マルトーが取り乱さないことをつまらなそうにユメがいう。
かつてはブラッドを殺そうとした獣人の少女ユメは、その過去とは真逆に完全にブラッドの行為を肯定している。竜に生贄としてささげられたという、ある種マルトーととても近い立場にいたにもかかわらず、その答えは一切ぶれなかった。
主の敵対者に武器を渡し、竜の巣の情報を持ったまま逃亡した愚者を殺そう、と思うほどに。

ちなみに彼女、あの日マルトーの残した数々の料理を誰一人箸をつけることも許さず、すべて廃棄している。



そしてマルトーもそれを、同じ職場でそれなりの時間を共に過ごしていた時に捕虜などに対する言動から時折漏れ出ていた黒い気配を十分知っていた。
知っていて、彼女を、主を裏切った。

だから…………


「ああ。いまさら後悔してもな……ユメ嬢ちゃんがあの竜が正しいのと思ってるのと同様、俺は間違ったとは思ってないからなおさらだ…………さあ、やってくれ」
「ええ。では」


さよなら


無言で別れを告げながら一瞬で抜刀したユメが、竜殺しの剣をサイトにも負けないほど綺麗な型で振るい、マルトーの全身を切り裂いたときでも、やっぱり、としか彼は思わなかった。
元々戦いなどとは縁がないマルトーは、腕が折れても、頬が削げても、腿が焼かれても戦い続けたサイトとは違い、そのたったの一撃で声も無く絶命した。
マルトーの道は、この瞬間に未来永劫閉ざされた。


「…………」
ざく…ざく……ざく


浴びるように全身に血を受けながら、ユメはその降りかかってくる暗褐色の生ぬるい液体をよけようともしなかった。
それどころか、もはや絶命し、ただの死体と化したマルトーを壁に縫い付けるようにしながら、共にすごした時間の記憶をその血で洗い流すように無言で斬り刻み続けた。
それはマルトーが望んだ形ではないものの、間違いなく同僚に対するある種の感情が見て取れる行動だったということに、彼女は果たして気付いただろうか?


竜をも切り裂く魔剣は、その切れ味をただの人に対しても如何なく発揮して、切り刻む。
持ち手の意思とあいまって、あっという間にマルトーの体がまるで獣に対するもののような短時間で切り裂かれていく、バラされていく。

そこには元同僚に対するためらいなどなく、最愛の男を傷つけられた女の怒りだけが残っていた。死すらも生ぬるい、といわんばかりにその死してその屍さえもなお辱めていくユメからは、無表情ながらも鬼気すら感じられた。


フェイをも上回る剣技は、マルトーに苦痛さえ与えずに彼の存在をこの世から消し去った後でもなお、躊躇もなくしばらくの間は振るわれた。



「ふふ、ブラッドさん」


完全にばらばらになったマルトーを通してみる愛しい男の幻影にそう一言言って、ユメは最後に剣を振るって血糊を竜殺しの剣から振り払う。
たった一人で住んでいたマルトーの家の壁に血が飛び散るが、ユメは気にした様子も無い。むしろ、積極的に汚そう、とばかりに何度も剣を振るって血糊を吹き飛ばし、最後に剣をぬぐった布をその場に投げ捨てる。
こうしてユメは、ついさっきまでマルトーであったものを忌々しげに、悲しげに、一瞬見つめただけで、部屋を出て行った。


後には、あの日竜の巣に残った豪華極まりない料理の数々とはまったくもって正反対な、血潮の飛んだ飲みかけのスープだけが残った。



その49へ

Comment

うほっ! ユメがヤンデレった……。さよならマルトー
こういう部分をしっかり書くのは良いとおもいます
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プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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