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ドラゴンに首ったけ45

その45











『ーーーー!!』
「効くかそんなもん!! デルフ、頼んだぞっ!」
『おうともよっ!!』


ブラッドは、体内に溜め込んだ魔力をブレスに変え、思いっきり眼前の敵に叩き付けた。
放つのは、自らの持つ血族のうち人間相手に最も効果を発揮する火炎竜のブレスだ。
だが、自らの巣内ということでどうしても全力を出し切れない状態ではなったブレスは、忌々しいことに先ほどまでと同様相手の持つ剣にその大部分を吸収されてしまい、ろくな効果を上げなかった。


ここは竜の巣、転移魔法室。
ブラッドの元いた世界とここハルケギニア世界を直接に結ぶ魔法陣のある部屋だ。
普段は青白い魔力光で常時照らし出されているだけの物静かな部屋は今、最大の戦場になっていた。


ブラッドがブレスを吐く、あるいはその巨体を生かしてなぎ払う、どんな武器より堅い爪を使って切り裂く。
それらの攻撃によってその敵であるサイトは、徐々に体を引き裂かれ、焦がされ、体の各所を損壊させながらもなお生き残っていた。


「とっととくたばれーーー!!」
『死ぬのは貴様だっ!』


そして、その対価としてサイトは確実にブラッドの体にも傷を刻んでいっていた。


(人間風情がっ!)


憎憎しげにブラッドは竜の巨体を持って威圧感たっぷりでサイトを睨み付ける。
今までも侵入者と巣の中で戦うことは、それほど多いとは言わないまでも何度かはあった。
そのすべてをブラッドは圧倒的な防御力で防ぎきり、一息で葬り去ってきたにもかかわらず、今回の相手はいまだに健在である、ということが竜の姿をとっていることによる凶暴化の影響もあって、自らが思っている以上に血筋にコンプレックスを持っているブラッドをイラつかせる。

法を守らない者は法の庇護を求めることが出来ないように、殺す覚悟とは殺される覚悟があるもののみに許される、とは確かに真理かもしれないが、それはあくまで対等な立場にあっての話だ。竜族であるブラッドには当てはまらない。
生まれたときから、自覚が薄いとはいえ絶対者(ただし、身近に神レベルがいる)であったブラッドにしてみれば、自分の命を狙っておきながらまだ死なないサイトは、耳元でぶんぶんうなり続ける蚊レベルのうざったさだった。



確かに今回の侵入者は強い。
その一撃は重く、その身のこなしは軽やかだ。
巣の防衛部隊のほとんどを壊滅させたとはいえ、それでも結構な数が残っていた魔物たちは愚か、あのフェイすらも抜いて自らに迫るだけの実力はある。今まで戦ったことのある侵入者達の中では、一番ではないだろうか。
だが、それ以上に相手が右手に握っている剣がブラッドを不快にさせる。


(あとでユメとクーにおしおきだっ!)


いっそこの身に流れるすべてを破壊してしまいたくなる暴力的な衝動に従って、巣ごとこいつをぶち殺したい、という思いを、ブラッドはこの後に待っているであろう目くるめく官能世界を想像することで必死で抑えた。

最初はブラッドが圧倒的な展開を見せていたのだ。

クーに言われたとおりこの場でおとなしく待っていると突入してきた侵入者といきなり相対し、斬りつけられたことで、慌てて竜の姿をとることになったため若干混乱していた。しかも、侵入者と相対するときのブラッドの主な武器であるブレスは相手の剣のわけのわからない特性によって致命傷だけは防がれる。
正直、びびった。

とはいえ、所詮相手は人間だ。ブラッドを殺せる唯一の機会であるはずの、人から竜へと変わる瞬間を狙うことすらできていなかった。

そして、竜の姿をとってしまえば生半可な武器はブラッドの防御を完全には抜けることが出来ない。ちまちまと、それこそ巨体からすれば微々たる程度にしか傷つけられない侵入者を、周囲に気を配りながらじっくりと調理できていた。
確かに、ブラッドには特に大した戦闘用技能もなければ、戦いのための技術もない。だが、それでも竜族というものは、圧倒的な身体能力は、ただ単に近づいてぶちかます、だけの攻撃を必勝の策に変えるはずだった。相手の攻撃とてほとんどは鱗を傷つける程度で巨体からすれば問題ない程度のダメージしか与えられていなかったのが、それが途中で一変した


「ルイズが、マリコルヌが、マルトーさんが、俺に力をくれたんだ! お前を倒せと願ってるんだ!!」
『その剣は!!』


相手が、どこに隠し持っていたのか竜殺しの剣をとりだしたのである。
余裕をかまして喋りだした侵入者によると、どうも自らの巣の料理人であるはずのマルトーがユメから盗み出し、それをよりにもよって侵入者に渡しやがったらしいのだ。
彼を雇い入れたクーと、何故か竜殺しの剣をあっさり盗み出されたユメに一言文句を言ってやる、と思うのも仕方があるまい。
だが、それもこの戦いを終えてからの話である。

何せ相手が持っているのは、竜殺しの剣。
名前からしてブラッド死にそうである。
そしてその何人もの竜族の血を吸った剣は、ブラッドに対しても実に有効に働いた。




「うおりゃぁぁぁ!!」
(いだだだだだだだだっ!!)


鈍い音とともに、ブラッドの肩口の鱗が切り裂かれ、剥がれ落ちる。猛烈な痛みに思わず反射的に爪を振り回す。相手にうまく当たったその爪だったが、いっそ憎らしいほどに見事に力を受け流した相手は、こちらの勢いを上手く利用して自分との間合いをあけた。高さが高さだったので着地のときに結構な音を立てたが、即座に先の攻撃の慣性に乗せて追撃した尾がこれまたかわされたことから、上手く受身を取ったのでダメージはほとんど無かったようだ。

が、そのほとんど効かなかった攻撃の代償として、部屋を支える柱の一本が尾の先端に当たってしまって倒壊する。技量も経験も無しに反射的に振るってしまった尾が、障害物も地形も獲物も区別せずになぎ払ってしまうのも、これでもう7本目だ。
これ以上やると、この部屋ごとこの付近一帯が倒壊することになってしまう、と思ったことが、さらにブラッドによる攻撃を躊躇させる。

が、サイトはそんなことなどお構い無しに倒壊した柱の陰から弾丸のように飛び出し、今度はブラッドの脛の辺りを切りつけた。当然剣はやすやすとブラッドの体に食い込み、剣の長さ分だけの傷をブラッドに与えた。

思わず漏らした悲鳴とともに、痛みに思わず大地を思いっきり踏みしめてしまい、またも部屋の床にヒビを入れてしまうブラッド。


(ま、まずい……これ以上壊してしまうと部屋そのものが……)


これ以上破壊すると、魔法陣が使えなくなってしまう、と焦るブラッドを尻目に、サイトは冷静に先の衝撃で跳ね上がってきた瓦礫を竜殺しの剣とデルフで弾き飛ばす。流石に細かいものまで完全には弾ききれなかったらしく、サイトの服に赤い染みがいくつも増えるが、気に留めた様子も無い。
またも冷静に距離をとった。

柱の陰に隠れ、家具の陰に隠れ、ブラッド自身の陰に隠れる。
そうしておいて、一瞬の隙を突いて攻撃を与え、すぐさま離脱する。
ヒット・アンド・アウェイを地で行くサイトの攻撃は、本来であればブラッドの敵とはなりえない動きである。迎撃部屋でたまに侵入者相手に戦っているように、抵抗も回避も防御もすべて無視して当たり一帯をなぎ払ってしまえば、どこに隠れようが、どこに逃げようが一瞬でその五体を破壊しつくせるはずである。

が、それは出来ない。出来るはずが無かった。
ここは迎撃部屋ではなく、本来であれば魔法によって隠されていることで侵入者などは言ってこれるはずもない、居住空間の一室である。
下手にこの部屋を破壊すると、この周囲をも巻き込んでしまう可能性が高い。

そうである以上、当たり一帯を破壊しつくすことなどできるものか、と思ったブラッドはまたしてもちまちまと牙と爪を使って被害を最小限にとどめよう、と努力しながら戦い続けた。

すべては、すべてはここが転移魔法陣室であることと、侵入者が竜殺しの剣を持っていることがいけないのだ。


(俺は混血なのに……)


ブラッドという竜は、竜族の中で最も竜殺し系能力に抵抗力を持つ竜である。

竜殺しの剣の最大の特徴は、その剣の持つ呪力である。
その力は、竜に相対したときに発動し、竜の力を封じ込め、それを持つ竜以外の種族の身体能力を著しく強化する。まさに竜を殺すために作られた武器である。
が、これは基本的に天界や魔界と竜族が戦争していたころの武器なので、当時ほとんどいなかった混血の竜にはほとんど効果を発揮しない。そのため、血統を尊ぶ竜が望んで作った混血竜、世界最多、七種の竜の血を引くブラッドには、竜殺しの呪力はほとんど効果を及ぼさないはずである。
事実、ブラッドは竜殺しの剣を持つ竜殺しの一族であるユメをかろうじて、とはいえのしている。しかも、竜殺しの剣だ、とクーが鑑定するまで、彼女が竜殺しの一族であるとすらわからないほど呪力の補正を受けずに。

片翼を切り裂かれたのは、あくまで剣の切れ味と、それを振るった獣人であるユメ自身の身体能力と剣の腕のせいである。彼女が竜殺しだったからではない。


竜族最強のリュミスベルンすら殺せる可能性を多大に持つ竜殺しの一族+竜殺しの剣という組み合わせにすら、勝利できる。
それこそが、ブラッドという竜の強さである。

屋外においては、おそらくユメのような混ざり者ではなく生粋の竜殺しが竜殺しの剣を装備した状態ですら殺すことが出来ないという、血統を尊ぶ竜が好んで作った混血であるブラッドに備わった、特有の特殊能力だ。

だからこそ、現状がブラッドにはおかしくてたまらない。


「うぉりゃあああああ!!」
(何で俺に対して竜殺しの力のひとつを発動させられる! ユメでも無理だったんだぞ!!)


だが、どういうわけか、相手が持つ竜殺しの剣は、ブラッドの力を封じ込める、という力こそ発揮していないものの、相手を強化するほうは発動しているとしか考えられないほどの身体能力を相手に与えている。
その竜族の天敵といえる剣はどう考えても人間ではありえない身体能力を相手に付与しており、それが決して戦闘経験豊富といえないブラッドを戸惑わせていた。
ガンダールヴという力を知らぬブラッドからすれば、サイトの身体能力の上昇は竜殺しの剣による補正のようにしか思えなかったからだ。

加えて、竜殺しの剣は混血竜に対してもその切れ味は衰えさせず、鱗をバターのように切り裂き、その肉を的確に抉っていく。剣としての性能は特に血筋に影響されないのだ。
もはや先ほどまでの余裕の源はほとんど失われたといっていいであろう。


そのためブラッドは、この侵入者がかつて獣人の身体能力と竜殺しの剣の切れ味を持って彼に挑みかかってきたユメ=サイオンと戦ったときと同じぐらいの強敵だと認識していた。
あの時は、二人とも巣ではなく屋外にいたことと、ユメが動きにくい服装をしていたために辛うじて片翼を切り裂かれる程度で済んだが、今回は……


(立場が完全に逆になってるじゃないか!)


またも崩れ落ちてきた天井の瓦礫の陰から、サイトが迫る。

早い。
竜であるブラッドが一瞬見失ってしまうほどその動きは早かった。
トリステインという国に対してではなく、ルイズという個人そのものに致命的な損害を与える竜という存在への怒りは、七万の兵以上にサイトに力を与えていたのだから。



いらだたしげにブラッドが、可能な限り制御したブレスをたたきつけるが、やはり混血。制御が甘く、力の余波が余計に部屋を破壊する。あわててブレスを途中で止めるが、当然ながら壊れたところは戻らない。

しかも、そこまでの犠牲を払ってはなったブレスの効果は、というと今ひとつ。またも相手が左手に握った剣に吸収されてしまう。
無論、制御が利いていないため収束率の悪いブレスの全部が全部、所詮は一本の棒状であるデルフに吸収されるわけではなく、相手の肩口やふくらはぎ辺りに一条のダメージを与えることには成功していたが、それでもその程度。致命傷だけはあの剣の効果と体捌きで避けられている。

ブラッド自身は気がついていないが、所詮ブレスは直線だ。それほど戦闘経験があるわけではないブラッドのブレスでは、何回か見られれば、発射されるときの頭の角度を見ればある程度は予測がついてしまう、ということもこれほどまでに避けられてしまう理由だった。

今まではそんな見切るようなことを許す前に相手を倒してきたためにそんな欠点に気付くことも無かったが、サイトは確実に学習していた。
相手が部屋を壊すことを嫌がっている、ということもなんとなく理解したサイトは、柱を盾に、壁を背にすることでブラッドの攻撃の方向を限定した、ということも理由のひとつである。


(くそっ、クーはまだか……ユメでも、フェイでもいい! せめてこの周囲からメイドたちを遠ざけてくれないと……)


竜殺しの剣の効果に加えて、今ブラッドとサイトが戦っている場所、転移魔法陣の置いてある部屋は、ブラッドの普段生活している場所である竜の間やメイド達の休憩室、ユメやテファの部屋などと同様、生活スペースの中に位置している。

が、本来であれば侵入者を撃退する箇所の巣と、ブラッドらが住まう部分の巣は侵入者があると分断され、侵入者は居住部分を素通りして宝物庫へとつながる道を通ることになっているはずである。
下手に竜を退治しようとするやつの目を黄金の輝きで眩ませ、とっとと帰らせるように仕向けるためである。ブラッドたちにしてみれば、人間が持てる程度の量の財宝をとられるよりも、ずっと居座られるほうが迷惑なのだから。


(こんなんだったら、適当に財宝持って帰ってもらったほうがどんなに楽なことか!)


にもかからわらず、今回はその装置が働いていなかった。
侵入者が一人、ということもあってどうせ奥までたどり着けないだろう、という判断の元、巣に残っていた十人にも満たないメイドたちは、ブラッドが当時この巣にいなかったこともあって、他のメイドの救助や捕虜や生贄らの安否確認のほうに人手を割いていたためだ。ここでも人手がネックになる。
ルイズはサイトと肩を並べて戦えてはいなかったが、確実に彼の手助けが出来ていた。

結果として、ブラッドは近くに従業員がいるかもしれない、つくりも戦闘用の部屋ほど頑丈ではない居住スペースで戦う羽目となっていた。


結局ブラッドは、自身も予想しなかったほどそのルイズとサイトの攻撃によって苦しめられていた。


「まだまだーー!!」
(こんな、雑魚相手に!!)



そもそも、ブラッドは竜としては力も、その在りようも弱いのだ。

昔々の大昔、それまで繁栄を極めていた竜族がその危機を迎えた時代があった。
三界すべてを巻き込んだ大戦と、その後の人間による竜狩りの時代だ。

そのころの竜は、ブラッドたちとはほとんど別種族といっていい。
今の竜族は半ば絶滅の危機に扮しているため、ほとんど天界、魔界によって保護されているようなものであるが、かつての竜族は、その数は神族、魔族と比べると二桁三桁少ない数しかいなかったにもかかわらず、その彼らと肩を並べる、いや彼らを凌駕するほどの戦闘能力と独自に発展した文明を持っていたのだ。

数に劣る古代の竜が何故神族、魔族と戦えたのか。
それは、彼らが竜族、と名こそ族とついてはいたものの、常に一人だったからだ、といわれている。

神族らに敗北を喫し、人の姿とその姿に合わせた伴侶を押し付けられるまで、古代の竜とは、完成した生物だった。
ごくごく少量の食料のみでその生を紡ぐことが出来、睡眠などほとんどとる必要もなく、魔力は無尽蔵に己の身から取り出せ、その寿命は永遠と等しかったと竜の村に伝わる文献には残されている。

すべての知識を習得し、ありとあらゆる呪文を紡げるほどの知能と、不滅の体。
その力を持って、世界に君臨していた種族は、弱い生命体ほど子をたくさん産むのとは正反対に、ほとんど種族保存、ということに興味を示さず、むしろそういった行為とそれに基づく感情を本能に従った野蛮な行為として忌み嫌っていた。その結果として彼ら竜族は誰かと行動を共にする、ということはほとんどなかったと言い伝わっている。
たった一人で、誰かに合わせることもなく自由自在、高速精密に空を飛び、自分以外のすべてを巻き込み、消しつくす勢いでブレスを吐くことで、世界最強、神族と魔族という宿敵同士の二大種族が手を組まないと対抗できないほどの力をかつての世界に示していた。

そう、彼らは自分以外の誰の犠牲も気にすることなく力を振るうことが出来たから、強かったのだ。
愛情を知らず、友情を生まず、信頼など持たない。協力という概念を捨て去ることで、同時に足手まといとなるものすべてを切り捨て、いつでも最大最強の力を振るうことを可能とする。
それこそが、身体能力や魔力以上に竜を強からしめた理由であり…………神族と魔族の協力による各個撃破によって竜が滅ぼされかけた理由であった。



彼ら古代の竜族から比べれば、人または他種族との混血に当たる今の竜は随分違う。
友を持ち、仲間を持ち、生贄相手に愛を注ぐ。
それは、確かに竜族の結束を固め、他種族と交流を深めるというプラスの効果をもたらしたが、同時に神族らの狙い通り、先祖が持っていた力を奪って彼らを弱くした。

マイトは姉への愛情ゆえ、ブラッドとの友情ゆえに、自らよりも圧倒的に強い雌竜と戦うこととなった。
ライアネは、他の竜への信頼ゆえにその竜に不意を突かれ、敗れることとなった。
あのリュミスすら、ブラッドの心を掴むためにライアネには強く出られなかった。

ガンダールヴや虚無の使い手を強くする感情というものは、竜をある意味では弱くするのだ。
そして混血であるブラッドは、その感情とはほとんど無縁だった古代の竜と最も遠いところにいた。

つまり、竜族最弱、といわれるブラッドは、その力自体が弱いことに加えて、巣の中では巣を壊すことを、それによって生贄たちに被害が出たり、修繕費のことでクーに怒られたりすることを恐れて、ろくに力を振るうことが出来ないのだ。
巣の外で天敵である竜殺しを排除することに成功した竜族だったが、一度手に入れた人のぬくもりは、手放しがたいものだった。




相手は人間の癖に、獣人、下位魔族なみの身体能力を発揮しているうえに、容易に自らを傷つけることが出来る武器を持っている。
こちらは、自分の巣をおおっぴらに壊して巣に住まう生贄や従業員達を殺すわけにはいかないため、全力を出せない。

ブラッドの能力はあくまで堅い、速い、強い、なので、竜殺しの剣によって防御が殺され、洞窟によって空を飛ぶことが出来ず、最強の攻撃手段であるブレスのほとんどを相手の持つ詳細不明な魔法障壁で防がれる以上、有効な攻撃手段は慣れない肉弾戦しかない。
が、どういうわけか相手はどこを引き裂いても、痛みを感じないごとくこちらに向かって攻撃を繰り返してくる。致命傷だけは巧みに避け、防ぎ、片腕を、片足を盾にして、こちらの心理を読みきって部屋を壊させようとして、ブレスを、爪を、牙を外させる。

直撃させれば殺せるはずなのに、その直撃だけがさせられない。

緩慢に、緩慢に相手をちびちびと削っていくしかブラッドには出来なかった。



町をなぎ払うときはほとんど戦いと呼べるようなものではなく、巣の内部では普段モンスターにまかせっきりでほとんど戦わないため戦闘経験に欠けるブラッドでは、この限定条件の中ではガンダールヴのルーンに与えられた偽りの戦闘経験に満ちたサイトには敵わなかった。


「ルイズ、待ってろよっ!」
『やっちまえ、相棒!』
(クーは……まだか!)


本来まともにやれば負けるはずがない相手に、ブラッドは大いに苦戦……いや、敗北しかかっていた。
限界を超えることによる自らの崩壊をも承知の上で、己を捨てて、愛すべき主人と仲間も置いて、たった一人で戦うサイトは確かに古代の竜のように強かったのだ。








(ブラッドさん、ブラッドさん、ブラッドさん、ブラッドさん!!)


無事でいて、と祈るような気持ちでテファは巣の中を駆けていた。
必死で駆けるが基本的に重心が上半身に偏っている彼女はそんなに運動神経がよくない。
それでも一瞬でも早くブラッドの顔を見ようとテファは一生懸命走った。

自分と姉ら家族の無事を確認した後、一番最初にテファがその身を案じたのは、ブラッドという青年だった。
自分とは違う種族で、エルフである自分以上に人間に恐れられているらしい。実際に、かなりおっ奇異その姿を見たことも何度もある。子供達と一緒に一回でいいから背に乗せてくれ、と頼んだときは断られてしまったが……それでも、自らに安住の地を、姉に頼らずとも自らか手を得ることの出来る職を、一生得られることなど無いだろうと思っていた同僚を与えてくれ、そしてなにより友となってくれた優しい青年である。
年齢は随分離れているようであるが、それでもテファにとって見れば友人であり、相手もそれを肯定してくれた。テファにとってブラッドは恩人であり、一番の親友でもあるのだ。
サイトに対するルイズとは違う形ではあるが、テファもブラッドにある種依存していた。


ちなみにブラッドからしても、テファは友達に位置するのではないだろうか。
彼女は、クーともユメともフェイとも違う。

テファはブラッドを始めから恐れない。
竜という存在の意味を本当の意味では理解していないがゆえに、己の前の存在が自分の喉下に常に刃を突きつけていることを理解していない。
その刃の存在を理解してそれでも彼を受け入れている存在、つまりユメのようにその刃が自分に向けられることなどないだろうと思っているわけでも、フェイのように自分に向けられてもかまわない、と思っている者などの誰とも違って、テファはブラッドが刃を持っている、それによって自分を殺せる、ということを端から想像だにしていないのだろう。

今までと確かに違う反応は、ブラッドを喜ばせ、楽しませていた。



まあ、それはさておきいくら結構鈍いテファとはいえ、彼が人間相手に何かひどいことをしている、ということはなんとなく最近わかってきていた。ブラッドからは罪悪感、というものがイマイチ感じられなかったためわかりづらかったが、それでも時折姉が自らに向けてきたような視線を感じることがあるからだ。

正直言って、ブラッドや姉にそんなことはして欲しくないテファだったが、同時に自らの生活がそういった活動によって支えられていることは、なんとなく理解できるようになっていた。
これもここに来て、クーやユメ、メイドたちなどと会話を交わすようになった結果である。端的に言えば、交流人数が増えたことによって、視野が広がった。

森の中に篭っていたときの数百倍の頻度で人と出会う竜の巣での生活は、遅れがちだったテファの一般常識に対する知識を急速に吸収させていた。おそらく、そう遠くない時期にテファはブラッドとやっているあの行為についても、ブラッドのハルケギニアでの略奪行為がどれほどに非道なことであるかも理解するであろう。


それでも―――未来においてはブラッドの行為への嫌悪感がその友情を凌駕する可能性は否めないまでも―――今の時点ではテファにとってブラッドは紛れもない大切なお友達だった。
困っている人を助けなさい、という家訓を持っているテファにとって、その友人が人を困らせているのではないか、という現状は非常に悩ましいものである。


ブラッドと会ってしまうと楽しさが先行してしまいそんなことなど考えることもない分、独りになった時たま~に考えるのだが、正直言って料理をして、洗濯をして、掃除をして、寝る、という生活だけを母が死んでからずっと何年も続けてきたテファは、人生経験がまだ圧倒的に不足している。
こういうときどういった結論を出すのが妥当なのかまったく見当がつかなかった。


(姉さんやブラッドさんを傷つけるって言うんなら…私……)


だが、それも昨日までの話しだ。
マチルダが傷ついたことでテファの覚悟はある程度固まった。

マチルダが怪我をしたことはある程度必然だったのかもしれない。
と、いうのも、マチルダも自らには語らないまでもどうやら後ろめたい仕事をしていたらしい、ということがようやく最近テファはわかるようになって来た。マチルダが一生懸命テファにお金を送っていた時分にはわからなかったことであるが、皮肉なことにマチルダとともに過ごす時間が増えたことで、彼女が自分に向ける後ろめたさのような感情に気付けるようになったのだ。

とにかく、そういった行為によって姉とて人を困らせていた以上、それによって人から恨みを買っていることはあるかもしれない、とは思う。その人がマチルダに対して怒るのも無理はないから、こういったマチルダが痛い目にあうのも当然なのかもしれない。自分が嫌なことをされたからといって嫌なことを仕返すのは正直どうか、とテファの倫理観では思わないでもないが、そういう人もいることぐらいは理解している。
あるいは、ひょっとしたら、神様が罰を下したのかもしれない、と。


だが、同時にテファは思うのだ。
『何もここまでやらなくてはいいではないか』、と・


(姉さんだって、ブラッドさんだって事情があるのに、いきなり殺そうとするなんて……)


姉がそういった行為を行ったのは自分のためだ、ということまで今のテファは理解できている。自分が暢気な生活をしていたその裏で、いかなる辛酸をマチルダが舐めたのか、ということが理解できることによって、さらなるブラッドへの感謝が重ねられている、という面もあるが、それはさておいて。

自分のためにマチルダが罪を犯した、というのであれば姉ではなく自分にだけ天罰は落ちればいいのに、何故神様は姉まで傷つけたというのだろうか。
自分が先ほどのように怪我をしたのはある意味では仕方がない、と思う、思えるテファであったが、それにマチルダまで巻き込まれた、となればその誰かがやった魔法攻撃の正当性を認めることは難しかった。

困っている人であれば、誰であろうと助ける、という信念を持つテファだったが、ブラッドら他者と交流することで、そしてルイズのエクスプロージョンをその身に受けたことで、ようやくその「身内」と「困っている人」の利害が相反することがあるのだ、ということを理解した。


(勿論、その人にだって事情はあるんだろうけど…でも……でも)


そうなってしまえば、いかに聖女のように育ってきた彼女であっても、「困っている人」のほうを優先することは難しかった。
忘却の魔法によって、今まで直接的な争いの現場を避けることが出来たときならばさておき、今こうしてエゴとエゴのぶつかり合いを目の当たりにしてしまった以上、見ず知らず、顔も知らない他人のために身内が傷つけられることを是とすることは出来なかった。


そのため、テファはその豊かな胸元でぎゅっと手を握り締める。
自分に直接危害を加えたわけでもないブラッドに迫る侵入者に対して問答無用で攻撃するのは正直気が引ける。
だが、それでもテファはブラッドを、自らの友達を守るために、「困っている人」である侵入者に対して敵対することを決意した。

こうしてごくごく当たり前の仲間意識を胸に抱いて、テファはようやくブラッドを発見した。
今まさに、脳天に竜殺しの剣を突き立てられそうになっているブラッドの姿を。


「ブラッドさん!!」


それを見たテファは、思わず反射的に駆け出して手を前に出した。








「御主人様!!」


扉を開けた瞬間、己の心臓の鼓動が一瞬停滞した感覚を確かにクーは覚えた。
確かに、損害状況の把握や、部下達への指令。援軍に来るかもしれない冒険者達の迎撃態勢に、フェイを倒した当たりから行方をロストした侵入者の場所の把握、とやることが山積みだったので、結構時間はとられた。

が、いくらなんでもこんな光景はあんまりだ。

激しい音がブラッドが待機している、本来であれば侵入者など入って来ているはずもない部屋の方向から聞こえてきたような気がして、大急ぎで主の元へと向かったのだが、その最悪の予想はどうやら当たってしまっていたらしい。

扉を開けた先には、半ば気絶しているのか顔を地面につけた状態の己の最愛の主の正面を駆けて、今まさに剣を振りあげている竜殺しの剣を持った少年の姿が見えたのだ。


(どうして侵入者が、こんな場所に、こんなに早くっ!)


何故、とか、どうして、とかいろいろ思うところはあるが、思わず一瞬硬直してしまって何も出来ない。
反射的に商会の規則やここが洞窟内ということも忘れて、攻撃魔法を打ち出そうとしたクーだったが、それは叶わなかった。彼女とて、メイドたちと同じ、ギュンギュスカー商会の商品のひとつなのだから。


(あ……封印が!)


当然ながら、彼女も自衛以上の戦闘行為は商会の許可がなければ出来ないよう封じられている。上司から許可を得る、または以前コーヒーを入れていたときのような制御には多量の魔力を必要とするが直接の攻撃力自体は少ない魔法や、荷物を運んだりたんすを投げ飛ばしたりする念動魔法のように戦闘に関係のないことであれば魔法を使えるのだが、こと攻撃魔法だけは使用できない。かといって、今から飛ばせるものを探して念動魔法を使用する時間は無い。
このときほど商会の規則を、真の意味で己の身がブラッドのものでないことを恨んだことはなかったが、今この場でそんなことを言ってもどうしようもなかった。

どうしよう、どうしようとかつてないほど混乱の境地にいたクーだったが、その混乱が収まる前に先ほどの侵入者がついにブラッドの頭頂部にまで達して、今まさに剣を振り下ろそうとした。


それを見たクーは、混乱の境地をそのままに、駆け出して手を前に出した。



その46へ

Comment

ううーん、ブラッドがダシにされて、サイト救済~みたいな?
どう考えても、このサイトは強すぎるだろ……せめて設定からの整合性をきちんとはからないと。ま、そうしたら瞬殺か。困ったものだ
キャラの物語と、ゼロ魔的茶番はどうもしっくり来ないなぁ
続きを楽しみにしています

確かにちょっと強すぎるなあ、とは思いますねえ
元々ゼロ魔ってファンタジー世界で大活躍する現代(?)兵器って感じで、サイト君の強さって大した事無いんですよね。17巻だとちょっとポーション使った殺し屋というか道化っぽいのに簡単に負けちゃってますし

ゼロ魔らしく破壊の杖……はゲルマニアに献上されてしまったにしろ、44のコメにもあったようにガンダールヴの槍ことタイガー戦車だとか、タルブ村にあるはずの竜の羽衣の機関銃あたりでも持ってきていれば印象は違ったかもしれません。この作品だとゼロ戦って登場していないと思いましたし

巣ドラ世界にもゼロ魔世界にも無いはずの機関銃ならば十分に意表をつけるでしょう。威力としてもデルフより強いでしょうから、剣士であるフェイが負ける理由としても最適では?
ブラッドも目に弾丸を当てられればどうにか……。鱗には無駄でしょうが

おもしろいでの、よし!
あと少しで完結ですね!待っとりますよ!!

プロローグのせいでサイト敗北が分かってしまうのが残念です
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プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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