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鬼畜ま!5

五話
 細かいところをつめていって、近右衛門とランスが交わした契約は簡単に言うと大体次のようなものだ。


1 この学園にいる間はランス達の諸経費はすべて近右衛門が負担する。
2 ランスがこの学園を出て行くときは、近右衛門に一声かけてからいく。
3 学園内への不法侵入者に対してランス達が行った殺人、傷害、破壊行為その他はすべて近右衛門らが事後処理をする。
4 近右衛門らがランス達に対して何か依頼をする場合は別途に契約を結ぶ。
5 ランス達が元の世界に帰る方法を、近右衛門はその人脈を使って探す。
6 出来る限り、ランスは生徒には関わらない。
7 仕掛けられた場合を除いて、ランス達から学園の生徒、職員、客などに危害を加えない。



 といったものだ。

 本来であれば学園中の魔力を結集してでも契約をキーにこっそり「登校地獄」並みの呪いを掛けたいところだが、呪殺が魔法の代名詞であった古の過去ならともかく、現代の呪いという物は対象者にばれずにこっそりかけられるほど便利な物ではない。
 それこそサウザンドマスター並みの魔力とセンスと経験がなければ、施術中は巨大な魔法陣の中央部から術者は動けず、対象者には多大な違和感を与え、術者と対象者との間にパスが繋がるため対象者からも大体の術者の位置が特定できてしまう上に、対象者の魔法抵抗が大きければ失敗する可能性とて決して低くは無い。
 もともとは、捕らえた囚人に対する行動制限から派生したものが契約呪術なのだ。
 ランスであればこの学園内のどこに魔方陣を描こうとも、パスを通じてあっという間に発見され、怪しい場所全てを先ほど見せたランスアタックという技で破壊することすら可能だろう。

 確実に、いや五割でも成功できるという確証が無い以上、ランスを完全に敵に回すという危険を犯してまで行うのは割に合わないと判断した近右衛門は、ランスが傭兵であるということを信頼して書面による契約に誠意を求めた。
 そして、ランスも別段そのことに対して不満を持っているわけではなかったため、この選択肢は当面の対処としては正解であったと言えるだろう。

 もっとも、契約内容に対しては遠慮することは無いため、近右衛門はランスがあまり交渉ごとが得意で無いと見てもっと条件を付け足そうとしたのだが、それらはすべて見た目以上に老獪で頭の回るランスの帯剣、魔剣カオスによってほとんど止められた。
 普段はふざけてはいても、カオスはもともと盗賊といういわばアンダーグラウンドに生きる人間であったし、その思考は1000年という時を経て、かなりの海千山千だった。そして彼は、ランスとは違いこの世界における近右衛門の重要性をそれなりに理解していた。

普段こういったことにめったに口を出さないカオスだったが、ランスと異なりきちんと現状を理解している。
たった三人と一本の異邦人なのだ、楽しければそれでいいという即物的なランスとは異なり、カオスの目的である魔王と魔人の殺害のためにも、元の世界に戻れずにこんな辺境で倒れるわけには行かない。自分が最年長としてほかのものを助けなければならないという柄にもない使命感もある。

 彼は魔人を殺す事の出来る世界に戻るためなら、普段の柄にもない口を挟むこともいとわなかった。そして、ある意味似たもの同士として誰よりもカオスのことを本能と直感で理解している彼の相棒も、いつになく饒舌な彼をいぶかしく思うことはあっても口を挟むことはなかった。

 魔人退治にかけるカオスの千年もの執念と相対してみれば、齢100にも満たない近右衛門が勝利を収めるのは難しかったようだ。

 ランスの武力を見て、近右衛門側はあまり無理を言うとランスが暴れだした時にとめることが出来ないため、あまり強気に出ることが出来なかったことも、ランスに都合のいい契約となった一因だ。さらに言うなら、ランスの持ち物であるマジックアイテム、根越栄太の効果もあったようだ。
 まあ、学園内で飼っている吸血鬼との契約と似たようなもので収まっただけ幸運というものであろう。なんと言っても基本的に衣住食だけでおかしいぐらい強力なパーティの力をほぼ自由に使えるのだから。世には某汎用人型決戦のパイロットになるだけで出撃一回一億円とか言われる事もあるのだから、それを思うと破格といっていいだろう。


「ふむ、ではシィル君は数日後に始業式があり、そのための手続きがあるからこちらに来てくれたまえ。ランス君とあてな君はどうするかね?」
「眠いから風呂入って寝る!」
「あそこの森でカブトムシを探すれす」
「そうか。ならばとりあえずは賓客用の宿泊施設があるから、あてな君も一旦そちらに行ってもらえるかね。場所がわからなければ困るじゃろうから、あー、弐集院先生。彼を案内してくれるかね」
「解りました。それではランスさん、あてなさん、こちらへ」
「うむ、しっかりやれよ、シィル」
「はい、ランス様」
「ばいば~い」


 麻帆良学園は巨大な学園都市である。
 そのため文部省の高官が意味もなく視察に訪れたり、企業等がご機嫌伺いをしに来たり、ひょんなことから大金を片手に慈善家が寄付の話を持ってきたり、ことによっては雪広財閥のトップが訪問してきたりすることもある。
 そういったときのために、学園内には通常の職員用宿舎や学生寮とは別に、それなりの設備が整った宿泊施設がある。
あれも政治、これも政治だった。

 ランスの機嫌を損ねるわけには行かないため、その中でも高級な部屋をあてがっておく。
 無論、今は幸いな事に誰もいないから良いとしても、長期間ランスが宿舎に滞在するとなるとランスと賓客がいさかいを起こす可能性が高いため、近いうちに別の建物を建造する予定だ。

 金額はかかるが、魔法の力や学園の技術力を使い、いつも発注している女市覇建築士に頼めば数日で建造できるはずだ。
 ちなみに女市覇建築士とは、鉄筋とコンクリート面積を対価として特殊な構造計算書を元に儀式を行うことにより建物を魔法によって短期間で建築する、ということに特化した学園お抱えの魔法一級建築士である(ディメリットとして、耐震強度が低下する)。

 この女市覇建築士のように、関東最大の魔法協会という強力な裏の顔を持つ麻帆良学園は魔法教師以外にもさまざまな分野における魔法の使い手を多数擁しており、それが諸組織の反感をいっそう買う原因にもなっている。

 まあ、それはさておきあと数日は何とか現状の宿泊施設で騙し騙しやっていくべきだろう。
 ランスがあてなと弐集院を従えて歩いていくのを横目で見ながらそんなことも考え、近右衛門はシィルに話しかけた。




「それでは、シィル君は教育実習生ということでネギ先生が担当している3-Aに行ってもらうことにしよう。ネギ君はまだ子供のため、そういった点での生徒達のフォローをお願いしたい」
「えっと、大体解りましたが……その、教育実習生って要するに先生ですよね? 私が他のひとにこの世界のことで教えられることなんて多分ないんですけど……」


 とりあえず耳障りのいい建前を述べながらも、できるだけシィルの行動範囲を常時監視可能の3-Aと職員室に限定しようとして教育実習生に任命しようとする近右衛門に対して、シィルが根本的な疑問をぶつける。


「む、そういえば専攻の教科のことを忘れておったわい。ふむ、シィル君、得意なことはなにかね?」
「えっと、とりあえず魔法はある程度使えます。後、ランス様の荷物もちもやっていました。普段は、お料理やお掃除、造花の内職、魔池の充電のバイトなんかもしています」
「…………ふうむ、難しいのう。家庭科の教員といっても、この世界の料理などは知らんじゃろうし」


 見事に教職員としては使い物にならないシィルの特技に、予想通りとはいえ近右衛門は頭を抱える。まあ、シィルは元貴族とはいえ、祖父に教わっていた魔法教育を除いて三大国において最もゆとりを極めきったゼスの義務教育学校にしか行っていないため、家事ならばさておき、学業においては当然といえば当然なのだが。
 仕方が無く、次善の策として考えていた方針で進めることとする。


「……そうじゃ、保健体育にしようかのう。あれならば、授業時間など無いに等しいし、少なくとも中学校で教える範囲内であればシィル君に教科書を渡せば、ぼろが出ることも無かろう」
「? ………よく解らないですけど、よろしくお願いします」
「ウム、では戸籍などを作るので一度先ほどの学園長室まで戻ろうかのう。あー、ネギ君、君も来たまえ、この後彼女に学園を案内してほしい。
 む、そのまえに着替えが先じゃな。申し訳ないが、木乃香に着の身着のままで学園に来ざるを得なくなってしまった女性がいると事情を話して、服を借りて学園長室まで持って来てくれんかね」
「は、はい。わかりました、学園長」


そういうと、ランスがいなくなったことで緊張が解けたのか多少子供らしさを取り戻したネギはダッシュで木乃香がいるであろう寮の自室に向かった。


「これこれ、学園内で走るものではないというのに。
 ではお待たせしたのう、シィル君。まずは学園長室に戻るとするか」


 ネギに向かって聞こえないであろう注意をした後に、近右衛門はシィルの方に向き合っていった。とにかく、今の時点においてはランス一行を飼いならす事が最優先事項だ。

 すると、


「あの、すみません。もしよければ、先ほどのタカミチ先生のところに寄っていっていいですか」
「む? なぜ高畑教員のところに? 何か言いたいことがあるのならば、言付かっておくが」


 あれほど徹底的にずたぼろにしたタカミチに、まだ追い討ちをかけるのか、と警戒して近づけないよう防護線を張る近右衛門の言葉を、シィルの次の発言はひょいっと跨いできた。


「いえ、ランス様のランスアタックを受けて生きているのはすごいですけど、先ほど見たところかなりの重症みたいだったので。私はヒーリングが使えますから、治療のお手伝いが出来ないかと思って」


 そういって笑うシィルの顔を、近右衛門は思わず穴が開くほど見つめてしまった。
 彼女は奴隷ではなかったのか?
 それが、主が倒した敵を勝手に癒していいのだろうか?
 近右衛門の疑問の視線を感じたのか、シィルは今度は照れくさそうに苦笑いをした。




「いたいのいたいの飛んでいけー。えい、ヒーリング」


 冗談のような詠唱が終わったあと、ぽわわーといかにも回復していますよー、といった光がタカミチを包んだ。定型にのっとった呪文により精霊に呼びかけ、奇跡をなす近右衛門たち西洋魔法使い達からすれば悪い夢のような魔法詠唱だが、実際これで効果があるんだから仕方ない。
 その光が収まった後には、まだ目が覚めてはいないものの、ほとんどの傷がふさがったタカミチの体があった。
 治療のためはだけていた上半身を見ても、明らかに呼吸も落ち着いている。

 思わず周りにいた魔法教師からどよめきがもれる。
 彼らにとっての回復魔法とは、あくまで自然治癒を促進するだけのものだ。
 そのため、一定以上の重傷者に使用すると、ただでさえ怪我をしたことによって失われている体力を根こそぎ回復のために奪い取ることとなり、最悪傷は治ったにもかかわらず死亡させてしまうことになりかねない。
 例えるなら、体力の無い老人に対して病気の治療のためとはいえ、長時間の手術を行うようなものである。

 それに対してシィルのヒーリングは、外傷とともに明らかに失われた体力そのものも回復させている。
 そう、彼女の世界では息がある限り、死んでいない限りたとえ瀕死の者であっても、即座に回復できる…………回復させられるのだ、創造神の望む戦いのために。



「……ふう、命に危険のある傷は塞ぎました。体力も回復しておきましたので、半日もあれば気がつくと思います。でも、私の気づかなかった部分もあると思うので、念のために病院か神官様に検査をしていただいて二、三日は安静にするように伝えておいてください」


 確かにシィルが自分でもいっていたように気付けなかった傷がタカミチの体には残っている。
ランスアタックなどという安直極まりない、ふざけた名前でありながら化け物のような威力を持つ技を防ぐためとはいえ、「戦いの歌」による防御能力を高めるように無理やり体内から魔力を汲み出したことの後遺症は回復しきれず、いまだタカミチは身体に深刻なダメージを受けているということは先ほど診察していた保険医にはわかっていた。
 しかし、完全に死の危険からは遠ざけてしまったことの驚愕と共に、自らの必死の努力の代償に習い覚えた魔法とあまりに異なる優れた能力に嫉妬交じりの複雑な声色で保険医の魔法教師が声をかける。


「すごいものね。私達ではどうしようもなかった高畑先生を、ほとんど一瞬で」
「いえ、私なんてまだまだですよ。私のお知り合いのセルさんという神官の方ならもっと上手に回復できるんですが」


 しかし、若さゆえかその声に組み込まれた複雑な感情を読み取ることは出来ず、純粋な賞賛と感じたのか照れくさそうに笑うシィルを見て、近右衛門はランスと共にいるからというだけで彼女を疑った自分を少々恥じる。


(いい子じゃのう。彼の奴隷として従わされているだけで、彼とは違うんじゃな)


 ということで、乱暴かつ傍若無人なランスと比較して、近右衛門の中でのシィルの好感度がぐーんと上がり、そのシィルをこき使っている(と思っている)ランスの好感度が少し下がった。
 実際には、シィルはランスに進んで従っているという面もあるのだが……

 そんなこんなで、保険室内に暖かで複雑な雰囲気が流れる中、その雰囲気をぶち壊すように廊下から爆音が響いてきた。
 こんな時間帯に迷惑なことである。
 その爆音は、この部屋の前で止まったかと思うと、大きな音を立てて扉が開いた。


「高畑先生――――!」







 時刻はしばらく戻って場面も移り、女子学生寮の643号室。


「ふう………春休みは宿題が無いのが一番幸せよね」
「そうやなー、でも明日菜、いつも最終日にしか宿題やれへんからほとんど変わらんのとちゃう?」
「うっ……いいのよ、気分が違うの、気分が」


 二人の少女が自室でテレビを見ている。

 一人は髪を二つにくくったサイドポニー、一部では海老の味がする怪獣の名で呼ばれる髪形をした活発そうな少女であり、もう一人は長めの髪をそのまま流したどちらかというとおっとりとした印象を受ける幼い少女だ。
 どちらもまだ年齢的に美女とはいえないまでも、十分美少女といえる。

 この部屋の住人である神楽坂明日菜と近衛木乃香だ。
 朝早くであるが明日菜は二日に一度くらいは新聞配達のバイトがあるため生活リズムが朝方になっているためすでに起床しており、春休みという事もあって暇をもてあましている木乃香もそれに付き合ってすでに起きている。

 ただし、結構前に起きた明日菜と今さっき起きたばかりの木乃香といった違いこそあれ、両者とも起きているだけという感は否めない。
 ネギは書置きを残して昨日の晩に出て行ったようであり、こんな朝早くから暇を潰す手段もあまりないため、テレビでもつけてみるかといった感じでさほど熱心に見てはおらず二人とも部屋でまったりしている。
 見ている番組も「日本?の歴史? 農耕編」という教育番組だ。
 どうやら適当にチャンネルを回したらしい。

 三人の何かがデフォルメされたらしい丸っこいキャラクターが歴史を説明するというオーソドックスな内容だが、キャラクターは特に意味のあるように聞こえる会話はせず、画面を見るだけで雰囲気を感じ取る、人形劇のような内容のようだ。

 といっても文字だけではさっぱり解らないため、適当に翻訳しよう



「くるる、るるるるー(アレを見たまえサントス君)」
「くくるるるー(一体何事だね、カマクラ君)」

メンドイので以下くるるー略

「この辺一面が泥だらけになっているよ」
「ふーむ、これはきっと大規模マットプレイの後の大地に相違あるまい」
「と、いうと?」
「きっとローズがここで女の子を引き連れていや~んあはは~んなことを」
「な、何だってー!! ずるいずるい、麻呂も仲間に入れてたも」
「何でいきなり平安貴族やねん」
「!! ローズ、一面見渡すばかりにたわわに実った黄金色の女の子達は?」
「この星俺達しかおらんやん」

(注:ペリーとかもいます)

「それもそうか」
「うわ~~ん、そんなことない、そんなことないもん。嘘だといってよバー兄」
「誰がバー兄だ、カマクラ」
「それで、何してんの?」
「ん、田んぼ作ってた」
「ぷぷ、馬っ鹿でぇー。あれは自然に生まれてきた象で耳を引っ張って作った象じゃないんだぜ」
「ダンボちゃうわ」





…………教育番組だろうか?


「つまらない番組ね。やっぱりこの時間帯はろくなのやって無いわ」
「えーやんか、たまには朝から二人でゆっくりとテレビ見るのも。それによー見ると意外とこれ面白いで」
「木乃香はそうかもしれないけれど……私は楽なのはいいけど暇なのは嫌なのよ! 何か面白いこと無いかしら」


 などといっていると、当然何かが起こるのが世界のお約束である


「明日菜さーん、木乃香さーん」


 突然そんな声が聞こえ、扉が開け放たれ、最後の同居人が飛び込んできた。


「あら、ネギ。どうしたの?」
「木乃香さん。すみませんが、服を一式貸してください!」
「え? いきなりこの服脱げってことなん?」
「……!! 何言ってんのよ、このエロガッパ! こっから追い出すわよ」
「ぐ、ぐ、ぐ、ぐ、ぐ~!!」


 木乃香の的外れな返答が頭にしみこむまで数秒を要したものの、明日菜は今までボーっとしていたのが嘘のようにあっという間に距離を詰めて、ネギをぐいぐいと締め上げる。
 本来であればネギの頼みこそあれ、不謹慎なのは木乃香であるはずなのだが、興奮した女性には理屈は通じない……それがたとえ、いまだ少女と呼ぶべき年齢であっても。基本的に明日 菜の認識としては、ネギ=エロ餓鬼、ということも悪影響を及ぼした。

 そんな光景を見てもここでは日常茶飯事なのか、木乃香は明日菜の行動をとめず、のほほーんとした態度を崩さない。
 それどころか、無意識か意識的にかは解らないが、さらにネギに対して追い討ちをかけた。


「ネギ君ももうそんなお年頃かー。もう、ネギ君も男の子やさかいにそういうなんに興味を持つんはわかるけれど、そういうなんは、明日菜のいないとき、二人っきりんときに言わなあかんよ」
「何言ってるのよ、木乃香!」
「ち、違うんですよ、明日菜さん、木乃香さん」


 これ以上問い詰められてはかなわないと、ネギはあわててある女性がちょっとしたトラブルに巻き込まれて(まあ、事実トラブルによってきたわけだし)着の身着のままになってしまったため、とりあえずこのかの服を貸してもらいに学園長の依頼で来たと説明を始めた。

 下着の類はサイズやいろいろな問題があるであろうからさておき、当座の服は確かに必要なため、朝早くで購買も開いていない今はとりあえず身内である木乃香に服を借りるよう学園長が言ったとの説明もあって、明日菜はなあんだ、という顔。このかはなぜか少し残念といった顔をしていた。


「そういったことならさっさと言いなさいよね」


 説明するまもなく締め上げた己のことを完全に棚に上げて、明日菜はそう言い放った。
 少々理不尽だと思うものの、ネギはそれが明日菜さんなんだ、と思い直し説明を続ける。


「す、すみません、明日菜さん。そういうわけで木乃香さん、お洋服お借りできますか」
「ええよー、おじいちゃんの言うことやし。それにしても服も持ってこられへんかったなんてえらい目に会いはったんやなぁ」


 そういっててきぱきと箪笥から服を出して紙袋に入れ、ネギに渡そうとする木乃香。
 気遣いからか、出来る限りフリーサイズの衣服を見繕うあたりがしっかりしている。
 それに礼を言って受け取ろうとしたそのとき、ふとネギが気がついたかのように明日菜に向かっていった。


「そういえば、明日菜さん。さっきタカミチが大怪我したんですよ」
「なんですって! どうして、いつ、どこで、今どこにいるのー!!」


 思わずネギの襟首をつかみ、上下左右に振り回す。振り回されたネギはほとんど明日菜の声を聞き取ることは出来なかったが、かろうじて聞こえた「今どこにいる」との質問に答える。


「ごほっ、多分、今、保健室に」
「高畑先生―――――!!」


 いるはずです、と繋げるまもなく明日菜はネギの襟首をつかんだまま、即座に保健室に向かって飛び出していった。
 後に残されたのは、明日菜の勢いにネギに服を渡し損ねた木乃香だけだった。


「あー、服持っていってあげな」






そして場面は再び保健室に戻る。


「高畑先生――――!」


 と、愛に萌える明日菜が取り繕うことも忘れ扉を勢いよく開けたその先には、ベッドの上で服をはだけた(治療のためです)愛しの高畑先生と、その傍らに佇む下着姿(にみえる)かなり可愛い女性。
 恋しまくり乙女の神楽坂明日菜の頭からは、先ほどのダッシュのせいで先ほどネギから聞かされた事情も、そばに学園長その他がいることもすっとんでいる。

 ベッドの上の半裸のタカミチと、下着姿(に見える)の女性。これしか視界に入っていない。


(ガーン、ガーン、ガーン、ガーン)


 いきなり入ってきていきなり白い灰となった明日菜に一同唖然としていると、なぜか爆走してきた明日菜からそう引き離されることも無く歩いてやってきた木乃香が入ってきた(ちなみにネギは明日菜に引っ張られてきたせいで完全に目を回している)。
 無論完全にテンパっていた明日菜とは違い、シィルのことを一目で理解する。


「あー、おじいちゃん、この人かいな。はい、服」
「あ、ありがとうございます。じゃあお借りしますね」
「しかし何で服も持ってこれんかったん?」
「そ、それは……」


 どう説明したものかと思い一瞬言葉に詰まったシィルの態度を、何か辛い目にあったのかと勘違いした木乃香は気を利かせてそれ以上追求せず、話題を変える。


「それにしても変わった服やなあ」
「そうですか? 私のいたところでは普通でしたけど」
「そうなんやー、外国の人って進んでいるんやな」
「あ、このお洋服も素敵ですね」
「そうやろ、うちのお気に入りなんよ」


 二人の女の子が普通の年頃の会話をする中、いつまでも明日菜は燃え尽きた灰から戻ることは無かった。

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プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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