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凍った大地のプロローグ(ランス9)

ちょっとした小話。ちなみにぶれいど☆ブライダーズはスルー予定です。







山道を、一人の男が歩いている。
冷たい風が吹きずさみ、思わず首をすくめたその男はこの寒冷な国を旅するにはあまりに軽装であったが、有り余る生命力によるものかそれは動きの鈍さにはつながっていない。
歩く、ただそれだけの動作なのに、ともすれば駆けるや跳ねるような印象を与えるのだ。
吐く息は白く、足元からは泥が大きく跳ねる。
この貧しい土地を歩くのに慣れていないのは間違いないが、それは何一つこの男の動きを阻む理由にはならないようだ。

やがて、男は足を止める。自分の進路上に連なってこちらに向かって動く隊商を発見したのだ。
男の優れた視覚だからこそこの距離でも発見できたそれらだが、ここが一本道で迂回できるような場所がないことを考えれば遅かれ早かれ相手も己の存在に気付くであろう。

ようやく己の足が見つかった。そんな思いが思わず口元に笑みとして浮かぶ。
方向としては彼らが来た方向こそが己の向かおうとする方向で目的地としては真逆であろうが、そのあたりは連中に引き返させればいい。
腰元の剣に一度だけ視線をやった男はずかずかと今までよりもさらに歩幅を大きくしてすすむ。
恵まれた脚力からくる前進は、両者の距離をあっという間に詰めてゆき……やがて両者は邂逅する。


「おっと、兄ちゃんごめんよ。狭いけど当たらないように気を付けてくれよ」
「お前ら、俺様を載せてヘルマンに向かえ」
「……は?」


隊商の先頭にいた男のかけた言葉は、山道にとおりすがる相手にかける言葉としては不適当であったとは思えない。
うし馬車三台にそれぞれの御者、そしてそれを護衛していると思われる冒険者六七人というこの山道を通るにはそこそこ大所帯であり向かいからの通行の邪魔を多少なりともしているという自覚があるのか、下から出た無難に場をやり過ごそうとするものであった。

それだけに男―――黒い魔剣を持った戦士、ランスのかけた言葉の異常性に思わず言葉を投げた御者の男の反応が止まる。
そんな相手の態度など歯牙にもかけず、ランスはさも当然のことを命ずるかのように縁もゆかりもない相手に対して自分を運んでいきたいところに行け、と要求した。


「いやいや、ちょっと待ってくれよ。荷物がいっぱいだし、そもそも兄ちゃんはヘルマンに向かうんだろ? 反対方向だよ」
「うむ、だからお前らが荷物を捨ててUターンしろ」
「そんなむちゃくちゃな!」


明らかにこの場においておかしいのはランスの方であるが、同時に狭い山道の中のことだ。立ちふさがるような形になっているランスをよけてまでうし馬車が通れるほどの幅はない。
それゆえにやばいのにかかわってしまった、と思ってはいるのだろうが何とか思いとど間らせようとする商人と、そんなことなど一顧だにせず自身の要求を繰り返すランスとの押し問答はそれなりの応酬があったのだが、馬車の中より何かをたたくような音がしたときにそれも終わりを告げた。


「おい、今の物音は何だ?」
「……さあ? 荷物でも崩れたのかね。うちらもそれを直してとっとと進みたいからいい加減無茶を言うのはやめて通しておくれよ、兄ちゃん」
「荷物とは何だ?」
「何だって……ごくごく普通の鉱石だよ。ヘルマンで質がいいのが取れるのぐらい、冒険者なら知ってるだろ?」


これほどまでに通りすがりの男に仕事を煩わされているにもかかわらず低姿勢なその態度は、身分制度というものがそこそこ大きく機能しており、それ以上に貧富の差が激しいヘルマンから出てきた商人の態度としてはそこまで不自然なものではなかった。

が、そもそもの理屈からして常人とはまるで異なるランスにしてみればトラブルをできる限り避けようとするそんな態度なぞなんら考慮する必要のないものであり、そして優れた身体能力を持つランスの耳に飛び込んできた先の殴打音は、彼の鼻が感じていた違和感を革新へと変えるものであった。


「いや、荷物の中身は人間……それも若い女だな? そんなにおいがする」
「あんた、何者だよ!」


いくらなんでも匂いなぞというもので積み荷がばれるとは夢にも思っていなかったのか、大いに動揺してしまうその態度に、数多くの冒険を繰り返してきたランスの勘がぴんと働く。
話に聞くヘルマンの貧困と、積み荷らしき若い女。護衛にしてはやけに外ではなく中からに対して警戒心を見せる周辺の男たちと……何よりその面の不細工さ。
英雄を自称する彼にとってみれば、彼らの素性は明らかに思えたのだ。


「はは~ん、わかったぞ。お前ら奴隷商人だな」
「……余計なことを言わなければ生かして帰してやったものを」


そしてそのあてずっぽうさえも、真実を差し当てるだけの運がランスにはあった。
ランスの言葉に、今までできる限り姿勢を低くしてトラブルを回避しようとしていた御者―――いや、ランスに見事見抜かれた通り奴隷商人の声色が変わった。
大っぴらに仕入れたものならばさておき、この夜盗交じりの奴隷商人たちが購っているものは、付近の農村からさらった子供や到底公にできないルートから手に入れた目玉商品だ。ただの難癖ならばさておき、己の素性を知った人間を生かして自由にしておくことなどできはしない。
後ろから出てきた男に対して命ずる声も、今までのものとはまるで違っていた。


「兄貴、すいません。積み荷が暴れやがったのでちょっとしたしつけを」
「ちっ、まあいい。おい、この馬鹿が邪魔をしやがる。叩きのめして後ろのほうに乗せて鎖でもつけとけ」
「へい! おう、兄ちゃんよう。威勢がいいのはご立派だがこの人数相手に勝てるとでも思ってんのか?」


運んでいるものがものだけにできればトラブルは回避したかったのだが、同時に暴力を忌避するような性根などもっちゃいない。男の声掛けに応じて、馬車の中からも次々と武装したごろつきどもが出てくる。
ヘルマンという雪国から出てきたからか。その武装にはまるで美麗さはなかったが、同時に鉄の重みを感じさせるような重厚なものだった。
手入れが行き届いているわけではなかった。真新しい輝きを放っているものでもなかった。が、返り血もわずかに残るそれはむしろ迫力を残したものだ。
剣と槍に弓。それらを持って嗜虐の気配ににやけながらランスを囲っていく。
それはたった一人に対して行うにはあまりには大仰で、同時に彼らがいかに弱者相手に多人数でかかるのを得意としているのかが見てわかる態度だった。

冒険者らしき格好に尊大な態度。それなりに腕に自信はあるのだろうと奴隷商人らは見てとったが、だからといって若者の勘違いを赦すほどここはあまっちろい世界ではないことも彼らは十分に知っている。
たとえ才能限界が20を超えていたとしても、所詮はそれは人の範疇での天才だ。この人数相手にたった一人ならば、ヘルマンの正規兵士であったとしても到底かなうものではないということを奴隷商たちは実感として知っていた。
数は力だ。権力や財力と同様に、弱者に対してはあまりにも強大な。
今まで強者として弱者を食い物にしてきた彼らにとってみれば、目の前に出てきた男も今まで踏みにじってきた数多の凡俗と同様のいつも通りのちょっと活きのいい獲物に見えたのだ。


「ふん、それはこっちのセリフだ。お前ら、積み荷を置いて谷底に身を投げるなら見逃してやってもいいぞ」
「糞が、身の程をわきまえやがれ!」


だからこそこの場では、一人二人の犠牲は出るにしても、口を封じてしまうことを考えて雄たけびをあげて一斉にかかったのだ……鬼畜戦士に手を出すことの意味を知るはずもなく。






まず放たれたのは弓矢の一斉斉射。
一応捕えろ、とのことであったので頭部などは狙ってはいないが、何せ未熟な射手、使い古した弓、粗悪な矢。精密射撃を行えるほど狙い通りに飛ぶはずもなく体のどこかに当たればいい、というぐらいの精度の命中力だ。ゆえに、数で補う。
どこに当たるかは運次第、ある程度なら世色癌で治せるし、治せなかったり死んでしまうレベルの重傷となったとしても多少惜しく思う程度。そんな商品価値が低い相手に対して行われる容赦ない一斉射撃だった。
もちろん、狙いがそれだけ甘いということは、当然ながら威力の弱さも物語る。もともとこんな盗賊風情が引ける弓の強さというのも限度がある。

とはいえ、今までも人や道中出てくる魔物を倒した経験からか、何人かはレベル10を超えた人間がいたからか、普通にやっていれば粗悪な鎧程度ぐらいであれば貫くだけの威力はあり、当然それは体に当たればそれなりの傷となるぐらいの勢いはあった。
国家の保護を受けずに魔物の跳梁跋扈する荒野を超えていこうというのだ。それなりの能力がないはずがない。


「ふんっ。へっぽこだな」
「なにぃ!!」


にもかかわらず、たった一人に対して向けられた矢たちは、ランスがその黒い剣を一振りするだけで届かない。
その切っ先で叩き落としたのではない。矢尻を剣の腹で防いだのではない。中空に軽く振ったような一閃だけで剣風が巻き起こり、それがすべての矢をそらしたのだ。

ありえぬ魔技に呆然とする男たち。今までの経験上ありえぬその動作に思わず動きが止まってしまう。
彼らにはレベル21の冒険者をとらえて売り払った過去があった。その時はさすがに何人か犠牲も出たが、それでもかなりのレベルの戦士さえも倒せたのが数の力だ。
それが、こうもいともたやすく防がれたことの動揺は、彼らの先述の根幹を揺るがした。

そしてそれは、ランスレベルの戦闘者に対しては致命的な隙だった。
するり、と射手を守っていた斧を持った男がすり抜けられ、その男の背にいたガンナーにランスが、黒剣が迫る。


「死ねーーー!!」
「うぎゃーー!!」


阻む弓も、掲げた小手も、守る皮鎧もすべてが無意味。まるで薄紙ででもできているかのように何一つ抵抗を許されずに一刀両断。
あっという間に間合いを詰められた一人の男が、袈裟懸けに切り捨てられた。
男は自身が放った矢の軽さと同等の命の重量をその場であがなうことになった。

だが、当然ながらそれだけでは終わらない。円周上に弓手を配置していただけに、当然ながら血に染まった剣を掲げながらランスが向いたその隣もガンナー。二人、三人と切り捨てていくその姿は、戦闘というよりもむしろ作業感さえ感じさせる圧倒的なもの。
ファイターの男が振り返って間合いを詰め、他のガンナーがランスに狙いをつける前に、あっという間に四人の男がなぎ倒された。


「てめえ、よくもっ!」
「ふふ~ん、遅い、遅すぎる!」
「ぎゃーー!!」


が、それらがなされたからと言って男たちの状況が好転するわけでもなかった。
振りかぶった斧が振り下ろされる前に喉笛が突き破られ、新たな矢はもはや防ぐまでもないとあっさりとよけられる。
決死の覚悟で突き出された槍は穂口を切り落とされその剣が跳ね上がって腹を割るまでが一セット。拙いとはいえ四人からなる連携さえも、一閃にてまとめて吹き飛ばされる。背後から切りつけたにもかかわらず、事前に察知され振り向きざまに剣ごと首を斬り飛ばされた者さえいた。

剣技、覚悟、信念。そんなもので―――そんな努力や根性などといったあいまいなもので何とかなるような差ではない。
力の強さ。腕を振る速度。瞬発力、持久力、聴力、視力、嗅覚、決断の速さに相手に対する判断力。
すべて、ステータスという名の数字に裏付けられた絶対的な能力の差。
残酷なまでに生物としての「性能」が男たちとランスでは違いすぎた―――彼らを今まで必勝足らしめた「数の力」がまるで及ばぬほどに。


「な、なんだこいつ、化け物か!」
「冒険者の分際でなんて強さだ!!」


それを感じ取り、男たちの動きがすくんできた。
彼らとて、自分たちが世界最強ではないことは重々理解していた。
それこそ、ヘルマン軍の正規部隊が出てこれば一目散に逃げるつもりであったし、第五軍の剣豪将軍などであればたとえ相手が単身であっても挑めるなどとは到底思っていない。デカントやレッドハニーなどの中位以上のモンスターに出会った場合にも、神に祈りながら何とか生き残ろうと必死になっただろう。
すなわち、単体で自身らをまとめて打倒できる存在がいないわけではないことは知識としては知っている。

だがしかし、それらははっきり言ってありえないほどの確立であることもまた、長年の裏稼業で知っていた彼らにとって、偶然山道でであっただけの冒険者がどうしてここまで強いのか。その先入観がどうしても判断を鈍らせる。
普通に考えてこれほど強いのであれば冒険者のようなならず者稼業につかずともいくらでも身を立てる手段はあるはずであり、強大な冒険者にしても馬車さえ用意できずにたった一人で伴もつけずにこんなところを通っているはずがない。
よもや相手が一国の将軍はおろか、王の地位さえも望めるにもかかわらず即座に断って、自前で城さえ持っていながら「男の伴はいらん」「女の子も現地調達の気分」というただの趣味志向で現在ソロ活動している根っからの凄腕冒険者であるなぞとは考えることもできず、ただただ狩られる首の数だけが増えていく。


「なんなんだ……何なんだよ、お前!!」
「がはははははは、そらどうしたどうした! 死んで死んで死にまくれ!!」
「む、無理だ……この男、強すぎる!!」


ゆえに。
彼らがこれは絶対に勝てない、と気づいたころには、もはや大多数が倒れ残っているのはごくごくわずかな人数であり、それらさえも秒単位で減っていくような状態であった。そして、ターゲットが減れば減るほど、一人当たりに加えられる攻撃もより苛烈になる。駆けだす前に追いつかれ、隠れる前に見つかる。もはや逃亡さえも許さないほどに力の差は隔絶としたものだった。
あっという間にあたりは血の海、屍の山、そして動くこともできずにただただうめく倒れ伏した姿に変わる。
十数人いた男たちはあっという間に一番最初にランスと言葉を交わしていた男一人になった。
そしてその男も、逃げようとした矢先にランスに追いつかれ、思いっきり背を踏まれて刃を突き付けられていた。


「おらおら、もう終わりか?」
「ぐぇ! わ、わかった。俺らが悪かった」
「あん?」


ここからどうあがいても逆転の目はない。恐るべきことに十人以上の人間と戦ったにもかかわらず傷一つないランスのその姿を見て、あっさりと男は降伏する。
こうなってしまうと強きに従い弱きをくじく奴隷商人の男の判断は早かった。


「あんたに手を出したのが間違っていた。すぐに反転して馬車にあんたを載せる。それに、俺が持ってる金! 5000ゴールド出す!」
「ほほ~」


仲間がたおされたとはいえ、しょせんはならず者どもの集まり。さして深いつながりもなく自分の命令で配下がランスにことごとく倒されたことに対して罪悪感など持つはずもなく、ただただ己の命をつなぐことしか考えていないセリフ。
美少女が言うならばさておき、そんなよくある男のこれまたよくある誘い文句がランスの琴線に触れるはずもないのだが、背を踏まれているだけにランスの表情を見ることもできない男はつまらなそうに耳をほじるランスの下で必死になって言葉を紡いでいく。


「食いものや酒だって少しなら積んであるし、馬車にいる女だって好きにしていい! だから……だから、命だけは!」
「うむ、嫌だ。死ね」
「ぎゃーーー!!」


そしてそのまま、ざくりと刺されてその人生を終えた……隠し持ったナイフを振るう時間さえ与えられず。
人を捕まえ、それを売り払い、その金で生を謳歌していた屑は、その存在にふさわしいだけの惨めさを持ってあっさりと殺された。
正義でも、法でもない、たった一人の男の気まぐれによって。


「ふん、馬鹿が。お前が死ねば全部俺様のものになるというのにどうしてむさくるしい男なんぞを生かしておかねばならんのだ」


そういいながら足を離してあっさりとその男を意識の外側に置いたランスは、その後も何のためらいも持たずに残った生き残りたちにとどめを刺していく。
先の男と同じように必死になって懇願するものも、もはやあきらめの境地に立ち何も抵抗しないものも、はいつくばってでもなんとか逃亡しようとするものも、ただただ目をつぶり今までの行いを棚に上げて神に祈るものも一切合財区別せずに、何の感慨も持たずにその命をあっさりと奪っていったのち、今回の戦利品である馬車へと大股で歩き去って行った。









こもった埃の幕の奥から、悲鳴と絶叫、そして何よりも明確な血の匂いが香ってくる。
こちらの中からの助けを断ち切るための役割も果たす馬車を覆う幌は分厚く、自分たちを監視していた男も出ていったことから、状況を把握することはできない。


「ううっ、ひぐっ、ぐすっ」
「大丈夫、大丈夫だから……」


それでも伝わってくるそれらの声と匂いにおびえる少女―――ルシアン・カレットは、しかし己以上に恐怖を感じているであろう幼い少女を精一杯胸に抱き、神に祈り続ける。
服装こそボロだが、その野暮ったさを覆い隠すほどに整った顔立ちは美しく、だからこそ奴隷商人たちにも別格の商品価値を見出されていまだに殴られたりすることはなく、処女膜の有無は確認されたものの性暴行を受けたこともない。商品として、だがある程度気を使って運ばれていた少女は、だからこそこのひどい生活の中でもまだその心の美しいところまで徹底的に汚されはしていなかった。
ゆえにまだ長い彼女の髪、すべらかな褐色のかんばせ、必死になって涙をこらえるその濁りのない美しい瞳も相まって、その姿はまるで敬虔な信徒のようにも見える。
実際に神魔法技能を持つまでに彼女は神を信じているし、その言葉に反するような行いをしてきたこともなかったはずである。
だから、この更なる状況の悪化を示すかのような明確な死の恐怖は、彼女を一層祈りへと駆り立てる。結果として刻一刻と状況が推移するはずの戦場の気配におびえながら、胸に少女を抱き、背後にもまた少女をかばいながらルシアンはただただひたすらに神に祈る。


祈るだけならば、夜盗にもできるのに。
そしてこの世界の神は争いを望みはしても救いをもたらすことなど望んでいないというのに。


なぜこのようなことになったのか、ルシアンの乏しい知識と経験では理解できてはいない。
が、外からわずかに漏れ聞こえる情景が示すのは、明らかに争いの音。己をこのような奴隷の立場に追いやった暴力と闘争がまたも繰り返されていることを感じ取って、彼女は胸の中の少女に負けず劣らずおびえ、にもかかわらずその責任感から可能な限りそれを外に見せて他者を余計におびえさせないように気を配る……力も、知識も、財力も、権力もない、無力な少女にできることなど、それしかないがために。

それは、外から聞こえてきた悲鳴が聞こえなくなって、その代わりに一層血の匂いが濃くなった時も同じだった。
ただただ震え、あきらめ、自身の帰趨を天に預けるのみ。
奴隷商人にとらえられ、馬車に押し込められ、何か喋れば暴力を振るわれ、無理やり意思をおしこめられる。この状況が今の血の香りによって改善されるとは到底思えず、かといって何かをすればこの状況を自身で変えられると思うほどの自信もなく。
守らなければ、という思いも、なさなければ、と思う使命も、どうにかしたい、という責任感も形にするやり方を知らない。
流されるまま生きてきて、たった一つの決心で外に出たのに結局流されるままここに来て、そのままの少女。
そんな今の彼女にあるのは、祈りという名の諦めだけだった。


「さ~て、お楽しみタイムだ。ぐっふっふ。奴隷商人から体を張って助けてやったんだ、せいぜい楽しませてもらわないと割に合わん」
『ならワシにも何らかの恩恵があるべきじゃろ。むさい男を切り捨ててもなんも楽しくないし、この辺魔人の気配もせんし』
「無視無視」
『ひどっ』
「っ!!(神様……)」


だからこそ彼女は、血まみれの手が天幕をまくって中に入ってこようとするそのさなかでも、武器を探すでもなくただただ震えて胸の中の幼い少女を抱きしめる以外の何一つできなかったのである。





これが、今回の冒険譚の始まりの日であった。
鬼畜戦士と少女は、こうして出会った。
向かうは巨大、ヘルマン帝国。
今回も冒険を行って多くの女の子とHをおこない、そのついでにとある少女を助けるための物語が今、始まる。

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興味深いんだが、続き来ないかなあ 第三者目線のランスって結構好きなんだが
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プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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