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悪徳の宴・9

今回個人的には結構満足のいく出来。しかし、好みの分かれる展開となりました。


ちなみにこのシリーズ、一応時系列順に並んでいます。
が、それならば一端囚われたはずの人が再度外に出ているのが不思議な方もいらっしゃると思います……主にスイートナイツやったことない方を中心に。
まあ前回のシルヴァ君みたいに互いに足を引っ張り合ってるとか、管理局が必死になって奪還したとか言う事情もあります。
が、その根底にあるのは、原作通りのキャッチ&リリースがお約束ということです。



















拳を握り締める。
自然現象とは異なる炎が、ただそれだけで宿る。
唯一無二の鋼の相棒が生み出した力は、彼にとって紛れも無い栄光への象徴。
身に纏った闇の衣が全てを叶える夢への道筋を現す。
だからこそ彼は、その力を捨てることなど考えもせずに戦場へと赴いた。








「ははっ、体の具合はどうだい、高町なのは!」
「ファルケ!」


市街地。人避けさえしていない純然たる街に、悲鳴と破壊の音が鳴り響く。

一つは、紅蓮の炎。
機械と魔道の融合したそれは、街に備え付けてあるような防衛装置など容易く吹き飛ばし、ただの一般人が張れるような魔法障壁など紙のように食い破る。
もう一つは、桃色の極光。
紅蓮の炎などまるで児戯といわんばかりの威力で持って大気を駆け、大地を穿つ。決して人を傷つけず、しかしその代わりに敵も傷つけられないで、空しく空を切る。

その二色の大輪の花の合間を避けるように、黒い鷹が飛び、白の天使が舞う。
黒の肌に赤の筋肉、青の瞳を持った人造の魔導師は、まるでこここそが己の庭よとミッドチルダの街を駆け上がり、蹂躙し、それを止めようと誰よりも正義を体現し続けていた少女は杖を構えて敵を撃つ。

飛行魔法も魔法のレールもなしに、しかし鷹は誰よりも自由にミッドの空を飛びまわる。
ひたすらに大地を蹴り、ビルを蹴り、木々を蹴り、車を蹴り、人を蹴り、下魔を蹴る。
何も蹴り進めるものがない大空にさえも内蔵された魔道機械の演算によって自動で生み出される小型の魔法陣を足場代わりに踏みしめる事で、飛行魔法よりも早く鋭く影が走る。
まるでおもちゃのスーパーボールのように駆け回り、飛び回り、決して一箇所にとどまることなく、その黒い影だけを人々の目に映して、ファルケという名のテロリストはその猛威を振るう。
追尾する桃色の弾丸さえも置き去りにして生まれる、緩急自在の死の散歩だ。


「疼きは取れたかい? 夜鳴きはしてないか? 下着が足りなくなったりはしていないかい?」
「っ、黙って!」
「おおっと、<ブレイク>! あぶないあぶない」


からかい混じりの声で相手も若干集中力を失っているとはいえ、強力な拘束魔法さえも完全発動前ならば破壊できるだけの力を彼は作り上げてきた。
進路上に回り込むようにしてその身に迫る輪のような拘束魔法を、飛翔のごとき跳躍でかわし、すれ違い様に魔法破壊の術式を叩き込むことで再度の追跡を不可能にして、ファルケは再び自由になった。
またあるときは、下魔をその間に押し込んでそれを犠牲にしている間に逃れる。


「ははは、楽しい、楽しいなあ、高町なのは!」


その僅かな手間で追いついてきた不規則な軌道を描く魔弾と戯れるように、再びファルケは走り出した。
それは雨塚が恵まれた五体を得た肉体を持っているということも確かに影響したが、それだけではない。

あまたの実戦経験を積み、研究を重ね、改修を受けた強化スキンは、トライ&エラーの局地としてのかつてとは比べ物にならないほどの能力を手に入れた。
強化スキンはもはや、リンカーコアも持たない人間が纏うにしてはあまりに強力すぎる武装だった。


「そらっ、『デッドリー・ナックル』!!」


拳を振りかぶったファルケの行動に、なのははいち早く気付き身構える。
手が届くはずもない距離であるにもかかわらず振り下ろされた鉄拳は確かに届かず、しかしそこに内蔵された必殺の一撃を約束する。
科学で足りず、魔法で追いつかない。雨塚鷹佑の作り上げた両者を融合した彼のオリジナルが、戦場にて花開く。それを合図にしたようにあたりを囲んでいた下魔がいっせいに彼女の進路を限定して逃げられないように肉の壁を作り、飛び掛る。
振り下ろした拳から舌なめずりしながらなのはに迫った赤い炎は、到底リンカーコアを持たない彼が使う魔法とは思えぬほどの威力を持っていた。


「レイジングハート!」『Protection』
「ははっ、あきれた強度だ。これでもまだ、傷一つ付かないとはね!」


とはいえ、それはあくまで一般人と比べての事。魔導師の中の魔導師、最強の称号を持つエース・オブ・エースの領域を侵せるほどではない。
事実、ファルケが放つ炎のほとんどはなのはの強力な防御魔法とバリアジャケットを抜ける事は出来ず、下魔の一斉攻撃は一瞬でバリアによって弾き飛ばされて、彼女に煤一つつけることさえ出来ていない。

だが、流石のエースとはいえ誘導弾の一つ一つにまで防御魔法を張っているわけではない。故に命を持たない必中の魔弾のいくつかは機械と魔道の融合により生み出された炎を防ぎきる事は出来ず、それ以外のものも下魔の命をいくつか奪った時点で力を失い消滅する。
彼を囲もうとしていた魔力弾のいくつかが蹴散らされ、ようやく作り上げられようとしていた魔弾の囲いの一部が破壊される。
その隙間を縫って、またもファルケは飛び立ってしまう。


「『アクセル』!!」
「おおっと、危ない危ない。おいおい、手足とはいえ当たったら骨折じゃすまないだろうな」
「っ!!」


加えて、ファルケの「防御」を抜けないのはなのはも同じなのだ。

回避により体勢が崩れた隙に狙い済まして放った生き残ったディバインシューターは目線から狙いが読まれたのかあっさりとかわされる。
その上で、そんな揶揄する声を投げかけてくる相手になのはの中で焦燥が強くなる。
それは己の体をじりじりとあぶり続ける不快な熱とあいまって、彼女の心を削っていった。

彼女がもっとも得意とする砲撃系の魔法は、ファルケが戦場に選んだここ、いまだ一般人の避難も済んでいないこんな場所で使えるような代物ではない。大空に舞う強力な魔導師相手ならばさておき、市街地へとなるとあまりに被害が大きすぎる。
それは建物に対するものもそうだが、それ以上に非殺傷設定がかかっているとはいえ、魔導師ランクSの魔法を何の罪もない一般人にぶち込んでいいはずがないのだ。

加えて、ファルケにはその最低限の命の保障である非殺傷設定さえも阻まれてしまう。
彼を殺さないようにリミッターをかければあたり一体を覆い始めたAMF下での活動が阻害されてしまうのだ。
低威力の魔弾は全て空間に漂うミクロの魔物に食い荒らされて散らされるだけだということを、なのはは今までの戦いで十分に学習していた。
バインドの類でさえも長時間の拘束が難しいほどに、高レベルのAMFにも似た変容魔法の性質は厄介だ。

が、その「魔法殺し」の侵食に耐え切れるだけの力を求めると、どうしても威力が過剰になってしまう。
顔面というか頭部は絶対に駄目、体幹に対してもその威力の大きさを考えるにまともにぶち当ててしまうのは問題だ。
かといって、四肢に対してだってなのはの魔法の威力で全力で当てればそれだけで血管が破裂し、急速に圧縮された血液が心臓を食い破る恐れがある。たとえ衝撃に重きを置く設定に切り替えた誘導弾とはいえ、非殺傷設定がなければ44マグナム程度の威力などでは決してない。

己の魔法は、紛れもなく人を殺せる凶器だ。

この男と戦いを重ねていくうちに身につけた医学的な知識は、いかに自分が非殺傷設定という美名の壁に守られていたのかを痛感させた。


「おいおい、どうしたんだ、正義の味方!?」
「くっ!」
「お得意の砲撃魔法はどうした? あたり一帯更地にできるだけの威力があるんだろ?」
「(そんなの……出来るわけがない)」


結果としてなのはは敵に当てる以上に、敵を殺さないように気を使いながら魔法を使わなければならない……その敵を倒さなければならないにもかかわらず。
殺傷能力を抑えて、誘導系の魔法を使い当たる瞬間の威力をある程度操作・軽減したうえで相手の戦闘力を削ぐ程度にする、という戦い方はエースたる彼女であっても未だにあまり行ったことのないものであり、今までの経験はまるで役に立たない戦い方を強いられる事となる。

そう。訓練だって、逮捕だって、ミッドチルダの魔法はすべて非殺傷設定を前提としている。
ミッドチルダ式魔法の申し子たるなのはは今まで、圧倒的なまでの強度での防御結界で敵の攻撃を受け止め、強力な魔砲で相手の防御を全て貫いて魔力ダメージにより打ち落とすことにこそ力を注いできた。
が、今まで数多の敵を打ち破ってきたその戦法は、この男の強いてくるような戦い方とはあまりに相性が悪かった。


相手の攻撃は効かない。すべて、この高町なのはが紡ぐ絶対の領域が弾いてくれる。
前回のように相手に一般の市民を人質に取られないようにさえ注意していれば、負けるはずがないとなのはは確信していた。
ファルケの動きを最低限牽制し、一般市民に近寄ろうとする下魔を一撃で倒す。
それは余裕で、それゆえの焦燥。
だからこそ、戦場においてもなお思案してしまう余裕が残った事で、なのはは究極的な解決方法を考え続けてしまう。


『しかたがないのかもしれない』


時折、なのはの心に誘惑の声が鳴り響く。
相手は許せない行為を日々続け、何の罪もない一般人を傷つけ続ける犯罪者であり、非殺傷設定を解除するのも彼自身が覚悟してやっていること。
ならば、たとえ相手を傷つけることになったとしても、それしかないというのであれば争いを止める為にはしかたがないのではないのか、と。
実際に「本気」でなのはが魔法を放てば、この都市丸ごとが射程範囲となるのだ。
たとえどれほど優れた戦士であろうとも、リンカーコアも持たぬあんな男にかわせるはずがない。
そして、その結果としてあのようなテロリストが市民を傷つけることは、二度となくなる。
代償はほんの僅か。
今の時点の罪状だけでも封印刑は間違いないレベル。正確に見積もったならばもっと行くだろう、そんなたった一人の、気の狂った男の命唯一つだけだ。
それで平和が守れるならば……

だがそんな弱い自分を、なのはは頭を振って追い出した。

手がなければフェイト・ハラオウンが力尽きるまで待ったか?
八神はやてを永遠に凍結させる事で事態の収拾を図ったか?
ヴィヴィオを打ち落として事件を終わりとするのが正しかったのか?

ありえない。ありえるはずがなかった。
努力は報われるのだ。願いは叶うのだ。思いは届くのだ。

奇跡を見続けた少女は、諦めるという事を知らなかった。
彼女がたどってきた全ての物事は、あまりに物語じみているほどうまく行き過ぎた。
何か一つでも、どれか一つでもずれていたならば全てを失っていたはずなのに、そんな万が一の賭けになのはは一度も負けることがなかったことが、その彼女の思想を肯定する。

勿論、全てが叶ったわけではない。
プレシアは命を落とし、リインフォースⅠは消滅し、ゼストも助けられなかった。
彼女自身も無理がたたって大怪我を負った。それは確かに事実。

しかし、フェイトを、はやてを、ヴィヴィオを救えた。そして、なのは自身も辛いリハビリの成果とはいえ未だ地に落ちていない。
この事実は、この歳若い少女にあまりにも過ぎた全能感を植え付けていた。

そんな諦めない彼女だったからだろう。
懸命に正義を守ろうとする彼女に対する救いの手が伸ばされる事もまた、必然だったのかもしれない。
たとえその手が完全なものでなくても、それはきっと彼女の正義を現すものだったのだから。


「高町一等空尉、お手伝いします!!」
「えっ!?」
「へぇ……」


突如放たれた射撃魔法と、それとタイミングを合わすように出現した影がファルケに突撃する。
それはなのはほどの強さも速さも持っていないものだった。
だが、彼女のような傷つけるためのためらいを一瞬たりとも感じさせないほど、それは信念を感じさせるものだった。

氷と光に煌く弾丸がまるで雨のように降り注ぎ、炎の拳がファルケに迫る。
弾丸の合間を縫うように回避を続けていたファルケは、しかし唐突に発生した大地からの刃に体勢を崩され、迫り来る拳を交わせずに左腕で受ける。


「くっ!」
「っ!!」
「よしっ、効いているぞ!」


じゅう、という音とともに強化スキンの一部が焦げ、今まで余裕たっぷりだったファルケの声に始めて苦悶の色が混じる。
それを見て、なのはとその出てきた少年の顔に対照的な感情が浮かぶ。
痛みによって反射的に放たれたファルケのこぶしをバックステップでかわした彼がなのはの隣まで逃げてくるとその表情の差は一層顕著に見て取れた。


「君達は!?」
「すいません、高町一尉。指示も受けずに」
『突然の乱入お許しください。自分たちは陸士78番隊の者です』
『ごめんなさい。でも、私達の街があんな奴に壊されるなんて許せない!』


突然の状況変更に戸惑いを隠しきれないなのはに対して、隣の少年が答え、それと時を同じくして遠方からウインドウ越しに通信が入る。
その通信越しに見えるのは、エリオやキャロほど幼くはないであろう少年と少女。
声にも聞き覚えはないものの、きっとこの目の前の少年と同じぐらい、スバルやティアナに近いぐらいの年頃のはず。
彼らの自己申告を信じるならば、陸士隊の者。

自分自身のバリアジャケットと思われる衣装を着ている彼は、隊の共通のバリアジャケットを纏っていないことから休暇中だったのだろう。
きっと休日であってもデバイスを手放さないほど、熱心な隊員。

見渡すと、遠いビルの一つと街路樹の陰からひとつずつ魔力光のきらめきが見て取れた。きっと彼と同じような格好をした、ウインドウに移る二人だろう。
休日であっても揃いと思われる白のシャツが胸元から覗いているところも、陸士隊員らしい。

この街には例の空間閉鎖現象が起こっているため、中の市民は逃げられず、外部からの救援は来るはずがない。仮に来たとするならば、未だ戦場と化したこの場所に一般市民がいまだ残り、戦闘に参加しているのがこの三人だけというのはどうにもおかしい。

それらの事実が導き出した結論に思い当たって、なのはが悲鳴にも似た声を上げる。


「駄目、君たちじゃまだ!」
「力不足はわかってます」
『でも、このまま放ってなんていけません!』
『私たちだって、管理局員なんです!』


ランクA以上の武装局員でもなければ、単独行動が許される執行官でもない。
彼らはきっと、たまたまこの場にいた一般管理局員。

同期と思われる少年少女がエースの援護が期待出来るとはいえ世界を震撼させるテロリスト相手に三人で挑む。
無茶だ。無茶苦茶である。
なのはほどの強さを持たない一般の管理局員ではファルケの攻撃を完全には防ぎきれない。
単なる下魔相手にだって数が多ければ危険だ。AMF影響下では低ランクの魔導師はほとんど戦力にはならず、実際に過去の戦闘において、何人もの死者が出ているのだ。
その危険性を知るなのはの声は、しかし事の本人たちに否定される。

彼らとて危険は承知の上。この男がどれだけ危険なのか、それを知らぬ者はもはや管理局員にはおるまい。
だが、それでも彼らは立ち上がったのだ。


実際に彼らの使う魔法を見ると、それは実に洗練されており、ティアナやエリオに決して劣るものではない。
陸と空で所属が異なるとはいえ、なのはがまるで彼らの存在を知らなかった以上はきっとリンカーコアに恵まれなかったであろう彼らがこれだけの力を得るにはどれほどの努力が必要だったのか。


『普段から連携の訓練積んでいてよかったね』
『隊長に感謝しておかないとな』
「新装備を使いこなせるようにしてた俺の努力もちょっとは見ろよ!」
『『それはこっちも!』』
「くっ、レイジングハート、お願い」『Yes,My Master』


なのはには及ばぬ、しかしなのはの見ていないところで彼ら陸士隊が重ねたであろう鍛錬が見え隠れするその戦闘は、彼女が見知っていた陸士隊のそれとはまるで別物。
きっとAランク以上で構成されている武装隊ほどの力はないそれは、しかしテロを防ぐには十分なだけの強さと気迫を持っている。
なのはには想像も出来ないであろう経験で持って、彼らは悪のテロリストに挑みかかっていく。


「俺達の攻撃だったら確かに一撃でアンタを殺せるだけの威力はないんだろう!」


手を振るって魔法陣を描き、そこから下魔を呼び出して肉の盾とするファルケであるが、それらはあっという間に少年が繰り出す炎の拳となのはの魔弾によって倒される。
その身を危険に晒す事も恐れない果敢な攻撃により、稼げる時間は確実に短くなってきていた。
彼の魔法にはなのはほどの威力はない。しかし、それはこの際欠点とはなりえない。
もともとオーバーキル気味だったことこそが、なのはたち高ランク局員がファルケらを追い詰め損ねていた最大の理由だ。AMFの影響を排除しようとすれば、どうしても高威力、人を殺せるだけの力を振るわざるを得ない……そのためらいが、ファルケに隙を許す。

しかし、彼らのようなリンカーコアに恵まれないものにとってはそれらは理由となりえない。
低ランク魔導師は基本的にAMF影響下では無力だ。強力な変容魔法によってガジェットの使っていたものよりもさらに悪質となったその空間は、ある一定以下の力量の人間では時には身動きさえできなくなることさえもありえてしまう。
だが、努力と根性と信念を持って、彼らはそれを乗り越えた。ならば、なのはにあるような縛りは彼には存在しない。思いっきり殴りつけることが出来る。
現にいま彼が全力でファルケを殴ったにもかかわらず、強化スキン越しに受け止められてはファルケが吐くのは致死の絶叫ではなくせいぜい苦痛に耐える声だけ。
なのはのように殺してしまうかもしれないと恐れながら自縄自縛するのではなく、全力で遠慮なしにぶちかます、それは確かに有効な攻撃。


『でも、今はそれが何より好都合!』


少女がはなった魔法により大地より生える刃がファルケの足を傷つけ、強化スキンの能力を少しずつ、しかし確実に削っていく。
低ランク職員であればその防御を抜けないだけの力をもつはずのファルケの強化スキンは、しかし今の彼らにとっては気合と根性と意思さえあれば穿てる壁だ

勿論それだって、気持ちのいいものではない。傷つけることへの葛藤は、なのはと同じく彼らの中にもきちんと残っている。
しかし、都合のいい奇跡を目の当たりにすることなく、そしてそれを可能とする才能を持って生まれなかった彼らは、すでに結論を出していた。
それは経験が足りない事による想像力不足という面は確かにあった。
終わってからきっと初めて事の重大さに気付くだろうという愚かさの裏返し。
それでも彼女たちは、この場においてはなのはよりも早く割り切った。

震える声、時折揺れる魔法の標準。ある時はなのはのバリアジャケットをかすり、時には同期にも傷を負わして。
それでも、手は休めない。
他者を傷つける覚悟、彼女の魔法からは教導も担当するなのはの目からもそれが見て取れた。


『油断はするな、お前らが崩れたら終わりだぞ!』


遠方より放たれる正確無比な射撃魔法は、下魔を減らし、ファルケの動きを留めさせ、そして前衛が動きやすいようにサポートしている。
前衛の彼の肩を掠めたそれはわずかばかりの仲間の出血と、それ以上にファルケの左手に痛打をもたらした。
今までの戦いでは力が足りず、結局なのはたち高ランク局員が戦う為の梅雨払いしか出来ていなかった少年は、しかし連携を高め、覚悟を決めた事でそれを過去のものとした。

最悪の事態だってきっと考えたのだろう。
それでも、命を奪ってしまうかもしれない恐れ、それを完全に押し殺して挑む。
ミッドチルダ出身と思われる彼らにとってはどれほどの困難だっただろう。
それでも彼らは、乗り越えた。


「はっ、誰が崩れるかよ! 仮に崩れそうだったとしても、フォロー頼むぜ」
『『わかってる!』』


彼らはお互いに声を掛け合い、まるで一般職員とは到底思えないほどの連携と魔法の威力を持ってファルケを追い詰めていく。
それはある種の管理局員が固めつつある覚悟の方向性だ。犯罪者に善良な市民が脅かされるのであれば、たとえ己の手を血に染めることになったとしても正義を貫く。
なのはのようにその手で守れるものが端から膨大なごくごく僅かな例外をのぞくと、そのリンカーコアの資質により端から諦めなければならないものが多かったものほど、その覚悟を固めるのは早かったのだろう。
未だに悩み続けているなのはを前に、彼らはすでに結論を出してしまっていた。

その事実は、目の前の壊されつつある町の光景以上になのはに不安を感じさせた。

正義と命を天秤にかける幼さ、甘さ。
そんな簡単に割り切ってしまい、自身の正義を妄信するだけではきっと彼らはこの先ミッドチルダではやっていけない。
不運が重なった場合とはいえ、一つの命を後悔さえさせることなく、未来永劫奪ってしまう業はきっと、たまたま任地となった街が壊されるのを見て生じた衝動だけで決めていいものとはなのはには思えない。
たとえそれが持ちうるものゆえの傲慢なのだとはある程度わかっていても、まるでティアナを打ち落としたときのような不安と悲しみを抑える事が出来ない。


だが、戦場においてそんな自分と考え方の違う、しかし仲間である人間と「お話」する時間なんて与えられない。
だからなのはは、今の自分に出来る全力全開で努力を重ねた。


「『アクセル』!」
「ちぃ、相変わらず硬いな、高町なのは!!」
「俺を、俺たちを無視してくれてんじゃねーぞ!」


彼らは強い。訓練に裏打ちされた実力は高く、信念を元とした覚悟は強い。
低ランクのものならば耐えるだけでも大変だろうに、空間変容によるAMFにもきちんと対応できている。
勿論、危ういところもないではないが、そこはきちんとなのはがフォローをした。
たとえ、彼らの覚悟と同じものは見ているものが違うが故になのはにはもてなくても、彼らを守るということに対しては一切の戸惑いを持たずにすんだのだから。
前衛の少年を狙ってファルケが放った魔法弾をアクセルシューターで防ぎ、彼の火炎放射を防御魔法で防いで中距離を担当している少女を守る。逃走を図るファルケを音をも置き去りにする遠距離射撃とともに阻む。

もはや戦況は完全になのはたちに傾いていた。
勝てる。
このままいけば間違いなく、この一連のテロ事件が始まって以来始めて首謀者の一人と思われる男を確保できる。
それも、彼を傷つけて……しかし殺さず、やり直しの機会を与える事が出来る程度の怪我で抑えて。

それでもなのはは、不安を隠せない。
正義と割り切って命に挑むことに、数多の管理局員が悩んで悩んで考えてもなお結論が出せていないことにあっさりと『正解』を見つける事が出来てしまった彼らの幼さに。
何かを見落としているような感覚が自分にいまなお付きまとっている事に。
そしてなにより、あの男がいまなお不敵な笑みを消していない事に!


「フフ……潮時、かな」


不意に大きくファルケが飛び下がる。
彼が自身で自己の武器の射程が届かぬ位置に動いたことで、彼以外の人物の目に警戒が宿る。
その間にも、決して彼らは油断することなく準備を重ねていく。
なのはは空にいくつもアクセルシューターを浮かべ、前衛の少年は僅かばかりの自身の負傷の状態を確認し、中距離の彼女はそんな彼に治癒魔法を飛ばし、狙撃を続けていた少年はウインドウの向こうでファルケには見えないように隠しながら銃状のデバイスに新たな弾丸を込める。

そんな準備を目の当たりにしながらもファルケは逃げようともせず、その余裕はなくならない。


「この場はどうやら君達の勝ちのようだ。残念だよ、俺の予想が外れるなんてね。まだ勝てると思ったんだが、それは思い上がりだったみたいだ」
「当てが外れたことの何がそんなに嬉しい!!」


肩を抑えて僅かに滲む血を撫でつけ、傷を負った左足に対して仲間の治癒魔法のサポートを受けながら、少年はファルケを怒鳴りつける。
しかしその声でも、バイザーの隙間からファルケの牙が覗くのは止められなかった。

一拍を置いて怒りを露にして挑む少年と、そこに雨あられと降り注ぐ魔法。
それを受け、かわしながらもながら、挑発的な笑みを隠さない長身の男。
アクセルシューターを撃って援護する為に一歩引いた俯瞰的な立ち位置にいたなのはには、その情景がよく見て取れる。


「……何か、変」


そして不意に、なのはは何か強烈な違和感に気付いた。
何かが、何かがおかしい。
変容魔法によってもたらされるようなものではない、自然にこの中に紛れ込んだ異物。
それはファルケの態度ではない。もっと根本的な問題だ。今までありえるはずのなかったことだ。
不安が限界に達しようとし、しかし未だにその理由がわからない。

ファルケの一挙一動を逃すまいと戦闘用の思考で考えるのとはまた別に、今まで培ってきた管理局員としての戦いの経験が脳裏に強烈な警鐘を鳴らしている。

なんだ。どこだ。何がおかしい、どこが変だ?
ファルケの笑顔も、そのなのはの違和感を肯定しているように思える。


「お前、痛めつけられるのが嬉しいとか言う趣味なのか、気持ち悪い!」
「嬉しくはないさ。これでも少しは落胆しているよ。俺の予想が外れた、という事にはね」


そしてファルケがなのはに対して目配せのような視線をやる。
二人は敵同士。けっして目と目で語り合うような関係ではない。

しかし、そこでなのはは気付いた。
それはきっと、彼女の重ねてきた経験とともに、ファルケに対するある種の「信頼」があったからだ。
この男がどれほど悪辣で悪趣味で外道であるのか、ということに対する悪意の信頼が。

それが、ファルケの攻撃によってではなく、仲間の援護によっても「傷ついた」彼の負傷の違和感を一気に氷解させた。


「が、やはり君の演算の方は正しかったようだよ、セラフィ!」
「まさか、駄目っ!!」『了解しました。始めます』


ファルケの宣言を受けて、なのはの悲鳴交じりの声にかぶさるように唐突に会話に混じった透明な女の声。
しかし、それに疑問を浮かべる暇は少なくともためらいなくファルケに挑んでいた彼ら三人には与えられなかった。


「ぐぁぁあああああ!!」
『あ、頭が!!』
『痛い痛い痛い痛い痛い!!』


彼女の声が聞こえた次の瞬間、それを塗りつぶすような絶叫が三箇所で迸る。
それは、まるで頭の中を無茶苦茶にかき混ぜて塗り替えるような苦痛を彼らが感じているという証明。
見ると、うずくまる少年。そしてモニター画面から外れる少年と少女。
その顔は受けている苦痛を現しているのか、先ほどとは打って変わって激しく歪んでいる。
それを見てあまり得意ではないとはいえ慌ててなのはが放った治癒魔法は、しかし何の効果も見せずに彼らを素通りした。

苦悶が、苦痛が、そしてそれによる新生が続く。
それをなのはは、何も出来ずに見ていることしか出来ない。
もはや形勢が完全に逆転した事など、誰が見ても明らかだった。


「やめさせて、ファルケ!!」
「どうしてだい、高町なのは? どうやら彼らは俺の作品を気に入ってくれたようなんでね。新たな力を与えてやるだけだよ」


他者を傷つけることを簡単によしとしてしまう心、正義の為ならば犠牲も仕方がないと考える思考。
それは確かになのはの危惧した幼さの裏返しだった。

そう、力が手に入るならば己が非殺傷設定の恩恵を得られなくていい。
「相手」を傷つけてしまうのみならず、「自分」の身もまた非殺傷設定によって守られなくてもしかたがない、そう自分の正義を妄信して考えてしまう。
自分たちだって代償を負っているのだから、きっとこの選択肢は正しいものだ。
他部隊ではついこの間使用を禁じるという通達のあったと噂に聞く、自分たちの才能のなさを訓練によって乗り越えさせてくれる「新型バリアジャケット」を使うこともやむをえない、と考えてしまう幼さの。

リンカーコアに劣る彼らがこれほどまでに魔法を行使してもAMFの影響をほとんど受けていなかった本当の理由を、なのはは知った……正義や努力、信念などが彼らに通じない事など十分に知っていたはずなのに、今頃になってようやく。


「あ、あああああ!!」
「クックック、借り物の力で正義を気取る気分はいかがだったかな? 後で聞かせてくれよ」
「ファルケ!」
「おおっと、危ない危ない」


彼らの絶叫となのはの狼狽と悲鳴をBGMに、ファルケが心地よさそうにその情景を眺める中、変化は起こった。
彼らが纏ったバリアジャケット、その内側が膨れて、ねじれる。不気味な生き物のようにうごめいて膨らんでいくその姿は、生理的な嫌悪さえ感じさせた。

その風景にあまりに不安を感じたなのはは、再びディバインシューターをファルケの元へとむけて実力で止めさせようとするが、やはり傷つけることへの不安がある以上、ファルケを打倒するには至らない。
黒と白の影が出会い、別れ、戯れる間にも事態は止まらない。

はちきれるように破れ去ったバリアジャケットの下からは、彼らのバリアジャケットから僅かに覗いていたそろいの白いシャツのような新型バリアジャケット―――否、偽装を施されて管理局にばら撒かれていた『量産型強化スキン』が一様の白から黒へと染まって彼らの体にまるで侵食するように張り付いていく。

嫌な笑みを浮かべながら声で身振りで挑発し、己の命をかけての回避行動を繰り返し、ファルケはなのはの心痛を弄びつづける。
ラボの中でなのはを嬲っていたそれとまったく変わらぬその声音は、この男の根底の歪みを正しく反映しているものだった。
そして、かつて犯されながらも必死になって懇願し対話によってファルケを正そうとしたときと同じく、それを瞬時に解決する方法はなのはには未だに見つかっていない。


やがてそんな悲鳴と苦悶を背景に再度行われていたファルケとなのはの舞踏が頂点を迎えた頃に。
幼いながらも必死になって己の正義を実現しようとしていた三人の陸士隊員の姿はすでになく。


「そんな!!」
「こいつらの名前は……そうだな、ヴァンダーとでもするか。ヴァンダー・ファルケ<渡り鳥>。君を、管理局を、傷つけることない正義を裏切った愚か者たちには相応しい名前だろう」
『では他の場所で作ったヴァンダーも、下魔とともにあと10分以内でそちらに向かわせます』


思わず立ち止まったなのはに手を向けて。
人造の皮膚とうつろな目をした人造魔導師―――新たなファルケの下僕がつい先ほどまで味方だったはずのなのはに対してリンカーコアに寄らぬ魔法を放とうとしていた。


自分に向かってくるそれを当然のように防御魔法で防ぎながら、なのはは思う。

やはり予感は正しかった。
非殺傷設定を無効化する強化スキン。それは犯罪者だけではなく、きっと管理局側にも相当数ばら撒かれている。
なのはのようにリンカーコアに恵まれていない一般の管理局員からするならば、きっと一度手に入れてしまえばファルケの技術は上司から言われたところで容易くは手放せないほどの強力な誘惑だ。
が、リスクは装着者に対して非殺傷設定を無効化するのみならず、やはりこのような罠が仕掛けられていた。

以前より危惧はあり、しかしその影響の大きさから確信がないままに人権を無視してまで「新型バリアジャケット狩り」をすることが出来なかったがゆえの、この現状。
きっと力を欲して邪道に走った過去のある低ランク職員の数は多く、かつての同僚をためらいなく倒す―――殺す事が出来る高ランク職員は少ない。
そうであるならば、管理局はもう……


「……救って見せる。助けてみせる。彼らだけじゃなくて、あなたも。ファルケ!」
「フフッ、それは楽しみだよ、高町なのは」


以前囚われたときに下肢を貫かれた痛みと同じ幻痛を一瞬思い起こし、それでもなのはは諦めることなく、己の正義を貫く為に戦い続けた。
たとえその結末に、以前と同じ陵辱の日々があることを予感していても。



つづく

Comment

No title

堕とすのは一番難しいなのはさんですが、戦うのは一番簡単なんですよね。
基本彼女の攻撃は大味だから、人質系の戦法が面白いようにはまる。
かといってそこを無視するようになったらそれは高町なのはではなくなってしまう。
それでもなお、ファルケを救うと言い切れるのは流石ですが…
微妙にかみ合ってないのがなんか笑える。
メッツァーはまだしも、ファルケとシルヴァは救いを求める要素なんて持ってないからなぁ。

No title

…いや、いっちゃいけないかもしれないけど、一つ疑問が。
魔力量が多いからって態々大威力のもの使う必要はないのでは?
拳銃の減装弾みたいに魔力量(というか威力)を調整するっていう方法があるような。もしくはスタングレネードとか放水銃みたいにもともと魔法的非殺傷設定に頼らぬ物理的非殺傷兵器を再現するとか。トリモチとかネットガンみたいな使い方できそうなバインドだってありますし。
管理局って魔法だけじゃなく拳銃あたりなら所持できるって設定も一応あったような。

いや、作品のテーマに都合悪いですし、承知の上なのだとは思いますが、検討する描写もないので気になりました。

作品そのものは楽しんで読ませてもらっています。二作品の主要人物のかみ合わない感じとか、力を求める局員たちとかに漬け込む所も面白かったです。次話も楽しみにしております。

No title

なのはさんの弱点というか二つの作品の違いを的確に書いていますね
ただ今は外道連中が有利ですが上で言われている抜け道も多々ありますからまだ予断を許せない状態ですねえ
ファルケをも救うかあ。でも原作でもスカ博士は更生不可能と断ざれているしいくらなのはでも言うかなあとは思うかな
それとはのはさんらは嫌いじゃないし好きだが原作そのものがご都合主義で気に入らない部分もあるから派手に負けてエロ無しでもいいから思いっきり凌辱されて欲しいなあw

Re: No title

> …いや、いっちゃいけないかもしれないけど、一つ疑問が。
> 魔力量が多いからって態々大威力のもの使う必要はないのでは?

ああ、本編中に補足しておくべきでしたね、すいません。
低威力のモノは魔力結合を破壊されるAMF影響下では基本的に使えませんから、AMFの影響を排除できるだけの強度を求めればどうしても大変な事に。
結果、なのはの場合はAMFの影響を受けないある程度以上のシューター系魔法を使い、その操作のコントロールで威力を抑えるのが関の山ということで。近接戦ならまた違うんですけどね。
バインドも設置系はAMFの影響で急速に劣化が進む上に、ファルケのトライ&エラーで強化スキンはバインド・シールドのブレイクに特化しつつあります。あと拘束系は意識さえ残っていれば最悪ロア式の転移魔法で逃げられます。

ちなみに今回の低ランクの三人がAMF下でもまともに戦えたのは強化スキンを纏っていたため味方認識されたからです。

とまあ、こういう感じではいかがでしょう? 
AMF都合よすぎですかね……

No title

自分の不躾な文章に返信してくださりありがとうございます。

あ、そりゃスイートナイツ側もちゃんと対策練りますよね…。AMFの強化もそこまで強力とは。なのは原作だといつの間にかあってないようなモノになってたので過小評価していたようです。丁寧に質問に答えていただき有難うございます。
以下感想。
スイートナイツ側は、フットワークの軽さが強みですね。なんというか天才を集めたベンチャー企業(というかハッカー集団)が某マイクロソフトに喧嘩売ってるみたいな。

あと参考になればよいのですが、なのはシリーズの魔法戦記force(漫画)の方ですとAMFというか魔法妨害に対して対策を施した次世代デバイスなるものが登場しております。ストライカーズの5年後ぐらいの時系列だったかと。まあ外伝ですのでネタになれば。あとは、せっかく巨大組織な管理局なんですから、殺害にためらいが無い特殊部隊とかが出てきたらどうスイートナイツ側が対処するのか、というのも気になります。

次回更新も楽しみに待っております。

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プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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